嵐の正体は?
カイトはバリア発生器に魔力を注ぎ、強力なバリアを発生して嵐から船、ヴィーナスハンドを守っていた。だが数時間後、カイトが張ったバリアは徐々に力を失って行った。カイトにいつか限界が来ることを考えていたセアンはカイトに近付いた。
「カイト、後は私がやるから任せて! 魔力補充でホットケーキを食べてて!」
「あ……ああ……頼む……セアン」
セアンがカイトの代わりにバリアを発生させた。疲れ果てたカイトがライアに無理矢理ホットケーキを口に押し込まれる中、ケアノスは不審そうに外を見ていた。その顔を見て、何か変なことがあるのだと思ったラージュは、近付いて声をかけた。
「どうかしたの? 何か変なことを感じた?」
「そう。この嵐、やっぱり変なのよね。何時間経っても弱まる気配はないし、そもそも嵐が発生するなら何かしらの前兆があるはず。今回はそれが一切なかった」
「この嵐が誰かによって起こされたってこと?」
「その通り。この嵐は誰かの手で作られた嵐よ」
ケアノスとラージュの話を聞いていたコスタは、外を見てこう言った。
「でも、誰がこんなことを? こんなことをして、何の得があるの? 頭がいかれた科学者の実験だって言えば納得するけど」
「少し心当たりがあるわ。機械で嵐を作れるって話を聞いたことがあるけど、この程度の嵐は作ることはできない。なら、人ではなくモンスターが作った嵐の可能性が高い。前に、モンスター図鑑で嵐を作るモンスターの存在を知ったのよ。図鑑を持ってくる」
と言って、ケアノスは本棚にある海のモンスターの図鑑を手に取り、ページをめくり始めた。何とか口の中に詰め込まれたホットケーキを飲み込んだカイトもケアノスに近付き、図鑑を見た。
「えーっと……これだ。スケベイカ。このイカはにおいを的確にかぎ分けることができ、異性のフェロモンさえ嗅ぎ分けることができる。海の中でも、においを感じることができるため、獲物が近付いてきたことを察することができる」
「においを感じる? 凄いイカがいるな。日本じゃありえないぞ。そもそも、イカに鼻があるのかどうか俺は知らないけど」
「ありえない話? モンスターがいない世界なんて、私たちからしたら考えられないわ。ニホンって結構安全な世界なのね」
「ああ。だけど、モンスターみたいに凶暴な動物もいるし、人を食べる危険でおっかない動物もいるからな……」
カイトとコスタが話をしている中、ケアノスは説明を続けた。
「皆よく聞いて、こいつはいろんな大きさのものがいるけど、大型の奴は魔力を持っていて、嵐を起こす力がある奴も存在するって書いてあるわ」
「じゃあ、今この変な嵐を起こしたのは……もしかして」
「そう。スケベイカね。奴らが私たちを狙って嵐を発生させたかもしれないわ。嵐を発して私たちを弱らせて、食べるつもりね」
ケアノスは本をしまった後、外を見た。話を聞いていたセアンは、魔力を注ぎながらこう言った。
「これからどうするの? スケベイカが作った嵐を乗り切ったらイカ退治にでも行くの?」
「その通り。スケベイカは嵐で弱った時を狙って現れるのよ。今は耐えるしかない。奴が姿を現したら、一気に叩く」
ケアノスの話を聞いた後、ライアはケアノスにこう聞いた。
「こいつって食べられるの? 今日、魚釣りしても魚が取れなかったから食料がやばいのよ」
「ええ、食べることはできるわ。毒は持ってないし、あいつの足を使った料理もあるぐらいよ。図鑑にも塩辛や刺身、焼いたりして食べても問題はないって書かれていたわ」
「よっしゃ! それじゃあ今日はイカ料理だー! 魚が釣れなかったから丁度良かった。ある意味助かった」
と、ライアは張り切ってそう言った。ケアノスはその言葉を聞き、呑気ねと呟いてため息を吐いた。
それから数時間後、スケベイカが起こした嵐は静まり返った。カイトは嵐が収まったことを察して安堵の息を吐き、ラージュも緊張の糸が切れ、肩を落としていた。
「お……終わった……やっと嵐が収まったか……」
バリアを張り続けるために、強い魔力を長時間発していたセアンは疲れ果てた様子で何度も呼吸をした後、震える手でライアが作ったホットケーキを口に運んだ。その様子を見て、コスタは呟いた。
「セアンはダウンだね。あれじゃあスケベイカとは戦えない」
「よし、俺が行ってくる。スケベイカってのを倒してくるよ」
と、カイトは刀を持って外に出ようとしたが、ラージュが引き留めた。
「待ちなさい。カイトも最初の方でかなり魔力を使ったでしょ。ホットケーキを食べて魔力を補充しても、疲労が残っているわ。ここで休んでなさい」
「ラージュの言う通り。ここは私とライアが行くから待機してて」
ラージュはレイピアを持ってそう言った。その後、ライアと共に外に出て、周りを見た。
「ライア、何か見える?」
「何も見えないけど、波の音に混じって何かが動く音が聞こえるよ」
「分かったわ。気を付けて、下から来る可能性があるわ」
「うん」
二人が話をした直後、ヴィーナスハンドの周りに巨大なイカの触手が現れた。中にいるカイトとセアンは突如現れた足を見て驚いたが、ラージュはあら大きいと一言呟いただけだった。
「奴が姿を現したよ!」
「行くわよ、ライア!」
ケアノスは魔力を発し、風の刃でスケベイカの足を切断しようと試みた。攻撃は命中したが、風の刃は途中で消滅してしまった。
「あまりにも大きいから途中で消えたね。あいつ、でかいと防御力が高いのね」
「本気で魔力を使わないとダメみたいね」
話をしていると、スケベイカの触手が二人に向かって振り下ろされた。
「話をしている暇はないみたいだ」
「そうね。とにかく足を叩けば、奴は自分から姿を現すはず。そこで素早く奴を倒すわよ!」
その後、二人は協力してスケベイカの足に攻撃を仕掛けた。攻撃のコツを掴んだ二人は苦戦することがなく、スケベイカの足を切断していった。
「うっはー! この量だと二ヶ月は食料に困らないよー! 余ったら売ればいいし。こいつの足、結構美味って話を聞くからいい値が付くかも」
「二ヶ月か……イカ料理に飽きそうね……」
「大丈夫だって。私がアレンジしまくっていろんな料理を出すから」
「そう。それじゃあライアの料理の腕を信じるわ」
ケアノスがそう言った直後、突如別の触手が現れ、ライアを掴んでしまった。
「え? うわああああああああああああああああああ!」
「ライア! しまった、油断した! まだ足があったのね!」
ケアノスはライアを掴んだ足を追い始めた。すると、海面から巨大なスケベイカの顔が現れた。
「ようやく本体が姿を現したわね」
ケアノスは魔力を開放して攻撃を仕掛けようとしたが、スケベイカはライアを盾にするかのように足を移動した。
「こいつ、私を盾にするつもりか! 卑怯だよ!」
「イカのくせに、知能はいいみたい……」
ケアノスが苦い顔をすると、別の足がまたライアに絡み始めた。
「何この足? ちょっと、なんかエッチなことされそうだけど! ちょっ、どこ触ってんだよ! そこは止めて……ヒァン!」
「エッチなこと? あ……忘れてた」
この瞬間、ケアノスは先ほど見た図鑑の内容を思い出し、ライアにこう告げた。
「ごめんライア……あのイカ、名前通りかなりスケベなイカなの。捕まえた相手が異性だと、捕食する前にエッチなことをするの……魚でもモンスターでも、人間でも関係なく……」
「げえっ! それじゃあ私、色んな意味でピンチ! 助けて~! こんなスケベ野郎に襲われたくない!」
話を聞いたライアは、大声で泣き叫んだ。
この話の元ネタはワンピースと五等分の花嫁なんですが、この話を考えていた時点ではごとよめを見たことはありませんでした。存在は知っていたけど。今時点では全巻読みました。面白かったです。
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