裏切り者の心中
日記を読み終えたコスタとライアは、ガイコツに近付いた。
「ねぇ、ロガンって奴はまだ生きているの?」
「逃げたから生きているはずだ。多分な」
「多分もう五十年ぐらいも前だから、生きているか死んでいるか分からないわね」
「そうだね。ま、そのロガンって言う奴がここにいてもやることは変わらないし、早く先に行こうよ」
「ええ。この洞窟の奥深くに宝があるってことは知ったし。それだけで十分。あとは皆と早く合流しましょう」
話を終えると、二人は先へ向かった。ガイコツは二人に向かって、大声でこう叫んだ。
「ロガンの野郎を見つけたらぶっ殺してくれ!」
ロガンは心の中で動揺していた。セアンとケアノスの強さと厄介さを理解し、この二人をどうしようか考えていた。
五十年前、ロガンは裏でシーポリスに居場所を教え、わざとリティーヒたちを襲わせていた。その際、自分に攻撃しないでくれと事前に伝えていたので、シーポリスはロガンには攻撃しなかった。ロガンは何度もシーポリスの襲撃を受ければ、リティーヒは死ぬだろうと考えていた。しかし、リティーヒはしぶとくシーポリスから逃げ続けた。
だが、ロガンにチャンスが巡ってきた。何度もシーポリスの襲撃を受け、ボロボロになったリティーヒはジョルニアに着陸して宝と共に洞窟に逃げ込んだ。ロガンは隙があればリティーヒや仲間を殺し、宝を独り占めにしようと考えていた。チャンスの時がやってきたが、リティーヒや仲間の反撃を受けたロガンは深い傷を受けた上、左腕を失ってしまった。生きるため、ロガンは戦いから逃げた。
洞窟から脱出したロガンは闇医者で手当てを受け、それから片手での剣術や身体のトレーニング、洞窟の攻略を楽にするための道具を集めたりした。時間と余裕があれば洞窟に挑もうとしていたロガンだったが、時間と金が予想以上にかかってしまい、行動を始めたのが五十年後の今になってしまった。
それと、ロガンが予想していない出来事があった。一つは洞窟が複雑になったこと。ロガンはリティーヒが怨念で作用する不思議な道具を手にしたことを知っており、洞窟が複雑になったのはその道具のせいだと思っている。もう一つはピラータ姉妹の存在。セアンたちの活躍はロガンも耳にしている。五十年鍛えたロガンだが、若さではセアンたちには勝てないのだ。
さて、この二人を同始末しようか。
ロガンはセアンとケアノスを見ながら、心の中でこう呟き、周囲を見回して何か使える物がないか調べた。その時。
「ねー、周囲を見回して何をしているの?」
不意にセアンが声をかけてきたのだ。
「危険がないか見回りをしているだけじゃよ」
と、ロガンはこう答えた。セアンはそうなのねと言ってケアノスの方を向いて歩き始めた。何とかごまかせたが、このごまかしがいつまでも続かないとロガンは自分に言い聞かせた。早くあの二人を始末しないと。と、心の中でロガンは呟いた。
しばらく歩くと、セアンたちの前には大きな崖と小さくて細い道が現れた。その光景を見て、ロガンは少し難しそうな顔をした。シーポリスから逃げる際、リティーヒから逃げる際にロガンは洞窟の道を記憶したのだが、この場所は記憶になかったからだ。
「おかしい」
「何がおかしいのですか?」
ケアノスが不思議そうに聞いたため、ロガンは慌てて言葉を返した。
「何とも不思議だなーってね。壁が動いたり、魔力を吸収する壁の迷路があったりといろんな仕掛けがあるから」
「確かにそう。言われてみれば、洞窟に入った時から変なものを感じていたのです」
「私も。魔力に似たどす黒い何か」
二人の言葉を聞き、ロガンは洞窟が怨念によってここまで変化したものだと推理した。だが、宝を取るため、ロガンは動き始めた。
「さて、ここからは危険だからワシから行こう」
「え? 大丈夫?」
「大丈夫じゃ。見た目はジジイでも心は二十代じゃ」
ロガンはセアンにこう言って、先に歩き始めた。ロガンは常に右手を剣に触れ、いつでも攻撃できるように身構えて歩いた。ロガンが通路の中盤に到達すると、セアンとケアノスは顔を見合わせた。
「大丈夫そうね」
「私たちも行こう」
と言って、二人も歩き始めた。ロガンは後ろを見て、あることを思いついた。
「なっ! 何じゃ!」
突如、ロガンはパニックになった。慌て始めたロガンを見て、セアンは急いでロガンの元に近付こうとした。
「どうかしたの?」
「私たちの目に見えない何かに襲われているの?」
二人の言葉を聞き、ロガンは心の中で笑った。パニックになったのは演技であり、心配した二人が接近したのを頃合いに、技と剣を振るって崖に突き落とそうと考えたのだ。
「うわ! 来るな!」
ロガンは剣を振り回し、後ろに近付いたセアンとケアノスに当てようとした。
「うわっ!」
「え……ちょっと待って……」
セアンとケアノスはバランスを崩した。だが、二人は落ちてたまるかと思いながら全身に力を込めて通路に戻ろうとした。しかし、足元が滑り、二人は道を外してしまった。
ざまあみろ、若造共。
と、落ちてゆく二人を見て、ロガンは再び心の中で笑った。
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明日も更新する予定なので、続きが気になる方は是非読んでください。




