鋭い刃と鋭い弾丸
何でも噛み砕く強力な牙、どんな攻撃も防いでしまう固い甲羅、そして陸でも水中でも素早く動くことができる強いモンスター、タートルジョーズ。どこに隠れても鋭い聴覚で相手の居場所を探知してしまうタートルジョーズと戦っているコスタとライアは苦戦していた。しかし、その鋭い聴覚が弱点でもあるとコスタは考えた。強い弾丸を甲羅に当て、高い衝撃音を出し、大きな隙を作ることができるかもしれないと考えたのだ。
「さーて、やりますか!」
ライアはコスタが魔力の弾丸を作る間、時間を稼ぐためにタートルジョーズに向かって走って行った。向かってくるライアを見たタートルジョーズは、高く飛び上がってライアを噛み砕こうとした。
「ねぇ、噛み砕くしか使えないの?」
ライアは風の塊を作り出し、襲い掛かって来たタートルジョーズの口の中に向けて放った。風の塊を飲み込んだタートルジョーズは、そのまま風の塊を噛み砕いた。
「嘘……魔力で作った風を食べちゃった!」
強い風の塊を発し、少しでも傷を与えたと思ったライアだったが、風の塊を噛み砕いた上、傷を受けていないタートルジョーズを見て、驚いていた。だがすぐに気を取り直し、ナイフを構えてタートルジョーズを睨んだ。
「さて……ここからどうするか」
ライアが小さく呟いた後、目の前にタートルジョーズが落ちてきた。地面に激突した際、タートルジョーズは悲鳴を上げた。
「重い甲羅を背負っているから、その分強い衝撃が足を襲ったのね。そんな短足じゃあ重い物を支えられないって」
「そんなことを言ってる場合じゃないわよライア、前を見て! 奴が襲ってくる!」
と、後ろからコスタの声が聞こえた。この直後、タートルジョーズはライアに襲い掛かった。ライアは高く飛び上がり、タートルジョーズの背後に回った。
「あんたがやる気なら、こっちもやらないとね!」
ライアは二本のナイフに魔力を纏い、尻尾に向かって斬りかかった。ナイフの刃はタートルジョーズの尻尾に命中し、ライアはそのままナイフの刃を動かしてタートルジョーズの尻尾を斬り落とそうとした。タートルジョーズは高い悲鳴を上げ、後ろにいるライアを尻尾からどかそうとした。だが、反撃を行う前にライアはタートルジョーズの尻尾を斬り落とした。
「よし! これは痛いはずだ!」
攻撃を終えた後、ライアは後ろに下がった。激痛を感じたタートルジョーズはライアを見て、襲い掛かった。
これでしばらく時間は稼げる。
と、ライアは心の中でこう思った。ライアはわざとタートルジョーズが自分に向かうように攻撃などを行っていた。そのおかげで、タートルジョーズに注目されずにコスタは集中して魔力の弾丸を作ることができた。その中で、コスタは小さくこう言った。
「ライア、ありがとう。おかげで完成したわ」
そう言った後、魔力の弾丸が完成した。コスタはタートルジョーズに気付かれないようにスナイパーライフルに魔力の弾丸を入れ、狙いを定めた。コスタがスナイパーライフルを構えた姿を見たライアは、コスタがタートルジョーズに狙いを定めやすいようにタートルジョーズの足に向かって風を放って足止めをした。
「今だよ、コスタ! やっちゃって!」
「うん! いろいろとありがとう!」
狙いを定めて、コスタはスナイパーライフルの引き金を引いた。勢いよく発射された弾丸はタートルジョーズの甲羅に命中した。その際、高い音が周囲に響いた。
「うっ! 耳に悪い!」
「これはキツイ!」
あまりのうるささに、二人は耳を抑えた。高い音を聞いたタートルジョーズは白目を向き、その場に倒れた。確実に倒すため、二人はタートルジョーズに近付いたが、触っても叩いても反応しないタートルジョーズを調べた後、二人は顔を見合わせた。
「まさか……」
「さっきの音を聞いたショックで心臓が止まったみたい」
「でもさ……倒したからいいよね」
「うん。とりあえずこれで危機は収まったね」
その後、二人はタートルジョーズの遺体を持ち上げ、水辺へ向かった。そして、タートルジョーズの遺体を水の中へ入れた。水の中へ入れた直後、タートルジョーズの遺体はそのまま奥深く沈んでいった。タートルジョーズの遺体が見えなくなったのを確認した二人は、奥の方にある通路を見つけ、歩いて向かって行った。
コスタの魔力を感じたセアンは、安堵した表情をしていた。その顔を見て、ケアノスは不思議に思ってこう聞いた。
「どうかしたの? こんな状況でよかったって思うような顔をして」
「実はね、さっきうっすらとコスタの魔力を感じたの。無事みたい」
「そう……よかった。で、どこから感じたの? 近くにいるんだったら迎えに行くことになるけど」
ケアノスの言葉を聞き、セアンは唸り声を上げて考えた。
「うーん……上かもしれないし、後かもしれないけど……分からない。でも、感じた。確実にコスタの魔力を感じた」
「そう。でもま、無事ならよかった」
「だが、今はこっちがよくない状況じゃよ」
と、ロガンが話に割り込んだ。ロガンの言葉を聞いたケアノスは周囲を見回すが、危険だと思うような物はなかった。
「特に何もないけど……変な物とかある?」
「いやー、全然わからん」
セアンは壁を触り、変な所がないか確認し始めた。だが、いくら探しても変だと思う個所は見つからなかった。そんな中、ロガンが壁の一部分を突いた。
「この壁のシミ、見覚えがあるのじゃ」
「壁のシミ?」
この言葉を聞き、ケアノスは周囲を見回した。そして、まさかと小さく呟いた。
「どうかしたの? このシミが何か重要なカギになるってわけ?」
「重要じゃないけど、この場所がどんなものなのか分かる手掛かりになるわ。ここ、巨大な迷路かもしれないわ。気付かぬうちに同じ道を私たちは歩いているみたい」
「巨大迷路? 遊園地みたいで面白そう!」
話を聞いたセアンは笑いながらこう言った。だが、その笑みを見たケアノスは呆れたように大きなため息を吐き、セアンに向かって叫んだ。
「面白くないわよ! 遊園地の方は子供だましよ、こっちは本気で命を奪いに来るタイプの迷路よ! 迷っても助けに来る人はいないわよ」
「そうか……そうだね。下手したら私たちでも死ぬかもしれないね」
巨大迷路に迷い込んだ。そう察したセアンは、少し考える様子を見せた後、ハンドガンを構えた。ケアノスはセアンに近付き、話しかけた。
「何をするの? もしかして銃で壁を壊すつもり?」
「その通り! 道がないなら道を作ればいい。出口がなければ無理矢理作る!」
「ちょっと、魔力を無駄に使うのは止めた方がいいわよ。もしかしたら、モンスターが来るかもしれないし」
「だからと言ってここでぐるぐる回っても仕方ないよ! さっさとこんな場所から出よう!」
警告しようとしたケアノスだったが、その前にセアンはハンドガンに魔力を込め、発射してしまった。だが、強い魔力で作られた弾丸が壁に当たっても、貫通しなかった。
「ありゃ。結構強い壁だね」
「今の音は弾丸が壁に当たった音じゃないわ。まさか……嫌な予感がする」
ケアノスは壁に手を振れたが、何かを感じ取ってすぐに手を離した。
「どうかしたの? この壁、なんかおかしいの?」
「その通りよ。やっぱり、この壁には魔力を吸い取る仕掛けがある。そのせいで、さっきセアンが作った魔力の弾丸はこの壁を破壊できなかったのよ」
「ええええええ! 魔力を吸い取る? そんな物もあるの? なんじゃそりゃ!」
その言葉を聞き、セアンは大きな声を発して驚いた。
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