タートルジョーズの恐怖
コスタとライアの前に現れたのは、亀の甲羅のような物を背負った鮫だった。その生物はゆっくりと動きながら陸に上がり、血に濡れた鋭い牙を二人に見せつけるように猛スピードで近付いた。この鮫を見たライアは驚きの表情で叫んだ。
「あいつはタートルジョーズ! 鮫と亀が交わって生まれた危険なモンスター!」
「あれもこの洞窟にいたのか! 海が近いから、生息しているのも当たり前か」
二人はタートルジョーズの突進をかわし、動向を探った。突進がかわされたタートルジョーズはすぐに高く飛び上がり、鋭い歯を使って地面に潜った。突進をかわした二人は近付き、話を始めた。
「参ったな、あいつらは強烈な牙で穴を掘ることができるって本に書いてあったよね」
「ええ。それに、あいつらの牙はとても頑丈。私の銃で通用するかどうか……」
「牙以外の部分を狙えばいいと思うけど、大半が甲羅で覆われているから狙うのが難しいな」
話をしていると、地響きのような音が聞こえた。二人はこっちに向かってくると察し、すぐにその場から逃げた。
「あいつら、私たちの場所が分かるみたいだよ。どうしてわかるのかな?」
「あいつらは熱を探知して獲物を探すのよ。熱を探知する器官があるみたいよ。それに、聴覚は魚や亀よりも鋭いから、どれだけ小さく動いても居場所がばれる! かすかな足音も奴らは聞き逃さないわ!」
コスタがそう言うと、先ほどいた場所にタートルジョーズが姿を現した。その際、タートルジョーズの口から布のような物が下に落ちた。それを見たライアは驚いた。
「あれはさっき私にエッチなことをしようとしたバカ二人のどっちかの服! じゃあもしかしてあいつらは……」
「あいつらは餌になったみたいね。さっきの悲鳴は奴らに襲われていたから発したようね」
「何だか哀れな最期だね。でも、変態野郎相手に同情する気もないけどさ!」
ライアはそう言って、ナイフを持って魔力を開放し、風の刃で反撃を行った。飛んで来る風の刃を見たタートルジョーズは甲羅の中に潜り、風の刃から身を守った。
「魔力の攻撃を防ぐのか。予想以上にかなり頑丈な甲羅だね」
「早く動けて攻撃ができて、その上頑丈な甲羅もある。攻守万能、速度もある。厄介なモンスターね……」
コスタはスナイパーライフルをしまい、ショートソードを手にした。攻撃が来ないことを察したタートルジョーズは姿を見せ、再び猛スピードで二人に襲い掛かった。飛んで来るタートルジョーズの攻撃をかわしながら、二人は話を始めた。
「どうやってこいつを倒す? 弱点なんてあると思う?」
「あると思う。どれだけ強いモンスターでも弱点はある。だけど、それが何かは分からない」
「どうやって調べる?」
「戦って調べるしかない!」
コスタはそう言って、隙を見てショートソードに魔力を込め、タートルジョーズに斬りかかった。だが、コスタの動きを見て攻撃が来るのを確信したタートルジョーズは、再び甲羅の中に潜って防御した。コスタのショートソードとタートルジョーズの甲羅がぶつかり合い、周囲に大きな音が発した。ライアは耳を抑えて音から身を守った。
「ぐ……痺れる」
甲羅にぶつかったショートソードの刃から、コスタの体に振動が伝わった。ライアはコスタの体を抱え、後ろに下がった。
「魔力を込めた一撃でもダメか……甲羅が硬すぎて攻撃が通らない」
そう呟きながら、コスタの体の痺れが収まるのを待った。その時に攻撃されるだろうと考えていたライアだったが、何故かタートルジョーズは攻撃を仕掛けてこなかった。
「ん? 攻撃して来ない……」
ライアの言葉を聞き、コスタはタートルジョーズを調べた。ライアの言う通り、タートルジョーズはコスタの攻撃を受け止めてから、動こうとはしなかったのだ。
「どうしてだろう? おかしいな。あの一撃で死んだ……はないか」
と、痺れから解放されたコスタが身動きしないタートルジョーズを見て不思議に思った。しばらくしてタートルジョーズは姿を見せ、再び襲い掛かった。
タートルジョーズの攻撃をかわす中、コスタはあの時、何故タートルジョーズは反撃を行わなかったのか考えた。考えているうちに、自分がタートルジョーズのことをライアに説明している時のことを思い出した。聴覚は魚や亀よりも鋭いから、どれだけ小さく動いても居場所がばれるという言葉を。
「ライア、時間稼げる? 奴の弱点を見つけた」
「できるけど、弱点が分かったの?」
「奴の弱点は鋭い聴覚。さっき、私が甲羅を叩いた時に物凄い音がしたでしょ。奴はそれを間近で聞いて、身動きが取れなくなったの。聴覚が鋭い分、嫌な音に弱いのよ」
「そうか! その手があったか! 鋭い聴覚が逆に仇になったみたいだね!」」
「今から威力の高いライフル弾を魔力で作るわ。それまでに時間を稼いで」
「分かった」
話を終えた後、コスタは後ろに下がり、ライアはナイフを持ってタートルジョーズに襲い掛かった。
セアンとケアノス、ロガンはモンスターを倒しながら先に向かっていた。ロガンは片腕のため、戦闘をセアンとケアノスに任せていた。だが、戦う二人を見て時折ロガンは厳しい顔をしていた。
「ふぅ。終わったわね」
「楽勝楽勝。奥に行ってもこの程度のモンスターなら、楽に倒せるね」
「楽に倒せるけど、余裕を持ちすぎないでよ。奥に何がいるか分からないし、さっきみたいな罠のあると思うから魔力をあまり使わないこと」
「分かってるよ。出来る限り魔力と弾丸は使わないで戦ってるから安心してよ」
と、キリサキフィッシャーに似たモンスターを見ながら二人はこう言った。その時、セアンはロガンの厳しい顔を見た。
「どうかしたのロガンさん?」
「このモンスターに見覚えはないからの」
「え? じゃあ新しいモンスターなのかしら?」
「かもしれないのう……ワシが逃げた時にはこんな奴らはいなかったはず。キリサキフィッシャーの変異種が生まれたのか?」
ロガンの呟き声を聞き、セアンは不思議に思いながら声をかけた。
「何かあったの? 逃げた時ってどういうこと?」
「ふぇ? いいや、何でもないぞ。先に行こう」
と、ロガンは二人に先に行くように告げた。その後、セアンたちは行動を再開したのだが、ロガンは前を歩く二人を見て心の中でこう思った。
このままこの二人を利用して、あの場所へ向かおう。この二人の力があれば、先にある罠や襲い来る凶暴なモンスターもどうにかできる。もし、ワシの正体に気付いたらその時に始末すればいい。次にこの二人の仲間を利用すればいいってことだ。
そう思うと、ロガンはにやりと笑った。そんな中、セアンたちは上から強い魔力を感じた。
「この魔力は……コスタ? どこかで戦っているのかしら?」
「やっぱり生きているみたいだね! 早く会いに行こう! 敵と戦っているとしたら、援護に行かないと!」
セアンは嬉しそうにこう言ったが、ここで戻ったら別の誰かが宝の所へ到達してしまうと考えたロガンは、すぐにセアンにこう言った。
「どうやって向かう? 道は分からないぞ。生きていることは分かったが、すぐに合流することは難しいと思うぞ」
ロガンの話を聞き、セアンの思考は止まった。しばらく考え、ケアノスはため息を吐いてこう言った。
「仕方ないわ。先に行きましょう。先に付いたなら、後で皆も来るでしょう」
「だね。とにかく先へ向かおう」
会話後、セアンとケアノスは仕方なく先に進むことを選択した。ロガンは二人が先に行く選択を取ったことを知り、ホッとしていた。そんな中、セアンはロガンが安堵の息を吐く光景を見ていたが、あまり気にしなかった。
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