ライアの危機
まずい、一瞬だけ気を失った。
そう思いながら、ライアは目を覚まし、自分の状況を察して驚いた。服は脱がされて下着姿にされていたからだ。すぐに声を出して助けを呼ぼうとしたのだが、口は布で覆われて声が出ないようにされていた。なら反撃しようと考えて手足を動かしたが、手足は結束バンドで縛られ、動けなかった。
「あ! まずい! こいつ、意識を取り戻しやがった!」
「結構強い薬を嗅がせたのに……やはり格上の海賊団は他と違う。まさか短時間で目を覚ますとは思いもしなかったぜ」
と、屈強な二人組の男がこう言った。二人組の話を聞いた後、この二人組がバカなことを考えているのだと察した。魔力を感じないため、そこまで強くないと思ったが、今の状況だとライアの方が危機的状況である。手足は動かせず、口も封じられている。
「仕方ない。さっさと残りの下着もひん剥いて全裸にしちまおう」
「ああ。どうせ死ぬ。最期はいい思いをして死にたい」
「その通りだ。まさか美人ぞろいのピラータ姉妹と遭遇して、こんな簡単に捕まえることができるなんて思いもしなかったな」
「油断していれば、奴らは所詮ただの小娘ってことですよ。グヒヒヒヒ」
この二人組は洞窟に入ったのはいいものの、周りの海賊や冒険家が罠にかかって死んでゆき、その光景を目の当たりにして我を保てなくなり、最終的に精神が壊れてしまって本能で動くようになったのだとライアは思った。
それでも、ライアはカイト以外の男に自分の体を見せるのは嫌だと思い、無理矢理立ち上がってドロップキックを一人の男に放った。
「んがっ!」
「何だと! この状況でも動けるのか! ありえない……」
立ち上がった後、ライアは周りを見て、近くの尖った岩に両手を拘束する結束バンドを強く押しあてた。尖った岩を利用して結束バンドを外そうと考えたのだ。だがその前に、男の一人がライアに向かって突進してきた。
「大人しく俺たちに抱かれろ! お前も結局死ぬんだから、最期に快楽を感じろよ!」
男は下種な笑み浮かべながら叫んだ。ライアは突進してきた男を見て、高くジャンプして回避した。男は岩に激突したが、別の男が後ろからライアを捕らえた。
「ケッケッケ、これで動けないぜ。油断していたな~。所詮は小娘ってことだねぇ~」
捕らえられたライアだが、勢いよく後ろの男に向かって頭突きを放った。強烈な頭突きは男の鼻に命中し、あまりの痛さに男はライアを放してしまった。その時大きく動いたせいで、取れかかっていた両手の結束バンドが外れた。ライアはすぐに魔力の刃を作って両足の結束バンドを切り、口を覆っていた布を外した。
「この変態野郎! キチク外道野郎! 私にエッチなことをしようとしたのが間違いだよ! よくもこんな恥ずかしい姿に……ぶっ潰してやる! 覚悟してよね!」
そう言って、ライアは鼻を抑えた男に向かって回し蹴りを放った。蹴られた男は体を回転させながら宙に舞い、地面に激突した。岩に激突した男は体中の砂や砂利を払いながら立ち上がった。仲間の男は倒れた男に近付き、大丈夫かと声をかけた。
「クソ……こうなったら逃げるしかない……」
「いい思いしたかったのに。一度戻りましょう! 奥へ進んだらきっと死んじまいます!」
「その通りだ、早く逃げよう!」
「どこに逃げるつもりなの? お二人さん?」
と、後ろから声が聞こえた。一体何者だと思った男は振り返ろうと思ったが、後頭部に何かが当たっているのを感じ、冷や汗を流した
「お……おい、何を当てている? 答えてくれ」
「スナイパーライフルの銃口。下手に動いたらどうなるか分かるわよね?」
答えを聞き、男は更に冷や汗を流した。その時、ライアは別の男を捕まえて殴る蹴るの暴行を加えていた。そんな中で、声の主の姿を見た。
「あ! コスタ!」
「後ろを見たらいなかったから、心配して探したの」
コスタは前にいる男を蹴り倒した後、周囲に散らばっていた服をライアに渡した。
「ゴメン……助かったよ。それと……あんなことを言ってゴメン」
「謝るのは私の方よ。不安をあおるようなことを言ってゴメン」
二人が謝った後、ライアは服を身に着けた。だがその隙に二人組の男はその場から去っていた。ライアはそのことに気付き、声を出した。
「あ! あいつら逃げやがった! まだコテンパンにやっつけてないのに!」
「あんな奴らは無視しましょう。早く皆を見つけるわよ。そっちの方が一番大事」
「うん……そうだね。皆が死んでなくて無事なら……いいよね」
「後で皆にも謝ること。いいわね」
「うん。分かった」
ライアは少しうつむいてこう言った。コスタはそんなライアを見て、頭を撫でた。
「もし、あなたが罪悪感に押し込まれて口が開けなかったら、私も手伝うから」
「ごめん……ありがとう」
と、ライアは小さくこう言った。
コスタとライアから逃げた二人組は、無我夢中で走っていた。途中で立ち止まり、岩陰に身を潜めて後ろを見てコスタとライアが追ってこないか確認をした。
「はぁ……はぁ……ここまでくれば安心か?」
「いや、ちょっと待って。考えれば俺たちが逃げた先って……前の道だよな? 戻るつもりだったが……我を忘れて走ったから……」
「その通りだよな。あの時慌てなければよかったな。いずれ……あいつらとまた会うのか。嫌だなー」
またボコボコにされると思った二人は、走って逃げても無駄だと察し、慌てて隠れる場所を探した。急いで探す中、二人は大きな穴を見つけた。
「おっ! いい穴見つけた! ここなら隠れてごまかせるぞ!」
「よし、そこに隠れるぞ! 急げ急げ!」
二人はその穴の中に飛び込んだ。しばらく息を殺して隠れていたが、気配は感じず、足音のような音も聞こえなかった。
「あれ? まだ来ないのか?」
「俺たち、早とちりしたな。焦りすぎたようだな」
「そうだな。ちょっと慌てていたな、俺ら」
隠れるのが早かった。そう思った二人は穴から出ようとしたが、その直後に足に激痛を感じた。
「イダッ! 何だ? この痛みは?」
「何かいるのか? テテテ……勘弁してくれよなも~」
激痛を感じた二人は足元を見て、そこに何がいるのか理解した。そして、これから自分たちがどんな目に合うか察した。
和解したコスタとライアは先の道を歩いていた。ライアは自分を犯そうとした二人を見つけたら確実に半殺しにすると意気込み、目を開いて周囲を見ていた。だが、あの二人組を見つけることはできなかった。
「あの変態コンビは見つからない。それにしても、結構深いねこの洞窟。どこまで続くのかな」
「深いし広い。皆が無事ならいいけど……魔力も感じないから、離れた場所にいるのかしら?」
「かもね。魔力の探知も難しい広さか、こんな洞窟があるなんて思わなかったな」
「こういう洞窟もあるってことね。簡単に考えない方がいいわ」
そう話していると、逃げた二人組の悲鳴が聞こえた。コスタとライアは声が聞こえた方を向き、状況を確認した。
「あの声はさっきの変態コンビ!」
「何かあったようね、とりあえず行くわよ!」
悲鳴を聞いた後、二人は急いで悲鳴が聞こえた場所へ向かった。周囲を見回すが、そこには何もなかった。
「何もないね。あいつらの姿もないし」
「いや……いる。気を付けて!」
コスタはそう言って、ライアに耳をすますように告げた。ライアは集中して周りの音を聞き取ると、水滴の音とは別に、水を弱く叩くような足音が聞こえた。二人は武器を身構えていると、近くの穴から甲羅を背負った鮫のような生物が現れた。
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