とある海賊のお宝
サビナから旅立った後、カイトたちは賞金首の海賊を倒し、その賞金をサビナに送金する日々が続いた。合間を縫って宝がどこかにあるか調べてはいるのだが、宝の情報は何もなかった。
そんなある日、カイトたちはチイセイという小さな島に立ち寄り、賞金首の海賊の身柄を地元のシーポリスに引き渡していた。引き渡し作業はセアンとケアノスが行っており、残りの四人は地元の宿の部屋で休んでいた。
「うーん、この辺りで大きな宝とかないのかなー? ちまちま賞金稼ぎしても儲からないしー」
と、ライアがベッドの上で転がりながら呟いた。地元のことが書かれている本を読んでいたコスタは、静かにこう言った。
「ないわね。何も宝の情報が書いていないわね」
「つまんないなー。ここ最近戦って来た賞金首も、あまり強くなかったし」
「何もないことが一番だと俺は思うよ。賞金首も……額が少ないのは仕方ないけど、それで少しは平和になるし」
カイトはラージュのマッサージを受けながらこう言った。その直後、背中に痛みが走ったカイトは悲鳴を上げた。
「ここね。最近カイト、張り切って戦うから腰とか背中を痛めたのよ」
「いつつ……鍛えていると思っただけど……まだまだ鍛えたりないのかな……アダァッ!」
他の悪い海賊と戦う時、カイトはセアンやライアと共に前に出て戦っていた。切り傷を受ける時はあったが、ラージュの治療ですぐに治った。しかし、そのせいで背中や腰に痛みが走ってしまったのだ。
「さてと、これでバッチリ! 痛みは消えたはずよ!」
ラージュはカイトの背中に向かって、魔力を込めて平手で殴った。鋭い音が響いたため、コスタとライアは驚いた。カイトは悲鳴を上げたが、背中と腰の痛みは一気に弱まった。
「楽になった。ありがとうラージュ」
「治療にもいろいろな方法があるのよね。また辛くなったら声をかけて、治療するから」
と、ラージュは得意げにこう言った。その時、賞金を受け取りに向かっていたセアンとケアノスが戻って来た。
「ただいまー。ふぃー、疲れた疲れた」
「戻ったわよ。これ、賞金ね」
「お疲れ様。面倒事を任せてごめんね」
ラージュの言葉を聞いた二人はそうでもないと答えたのだが、セアンは上半身裸のカイトを見て、ラージュに詰め寄った。
「ちょっと、何をやっているの? 私がいない間にとんでもないことをやらかしたんじゃあないでしょうね?」
「腰と背中のマッサージよ。最近、カイトが背中と腰をさすっていたからもしかしてと思ってね。何なら、セアンもするわよ。するならさっさと服を脱ぎなさーい」
「いやーん、セクシーな姿はカイトの前しか見せたくない」
「この前、姉妹で一緒にお風呂に入ったのに」
話を聞いていたコスタがぽつりと呟いた。それに対し、セアンは節約と答えていた。アホな会話が続いたため、ケアノスは呆れてため息をして、話題を変えた。
「皆、面白そうな話を聞いたの」
「何? 面白そうってどんな話なの?」
最初に話に食いついたのはライア。ライアは宝の気配を感じ取ったのか、目を輝かせていた。ケアノスの横にいたセアンはどんな話をするか理解し、ケアノスにこう聞いた。
「もしかしてシーポリスの所で話題になっていたお宝の話?」
「その通り。セアンは知っているからいいけど、皆は知らないわね。あるかどうか分からないけど、一応話すわね」
そう言って、ケアノスは話を始めた。
今から五十年以上前のこと、リティーヒという海賊が存在した。リティーヒ率いる海賊団はかなり強く、当時の海賊周りでは遭遇したら敵わないからすぐに逃げろと言われていた。リティーヒが率いる海賊団は周囲の海賊はもちろんのこと、旅客船や富豪が乗る船を襲って金品を奪い、女たちを攫っては奴隷として売り飛ばしていた。それとは別に、各地の秘境を巡って宝を手にしていた。だがそんな海賊団も終わりの日が来た。
リティーヒはジョルニアという島に向かい、そこの洞窟を探検していたと言われていた。その洞窟でリティーヒの海賊団は消息を絶つ。どうして行方が分からなくなったのか、どういった事情があったのかは今の時代でも分からない。
ジョルニアに到着した時、リティーヒの船が洞窟のどこかに置いたようだが、その船は見つかっていない。その船には多数の宝が積み込まれているらしく、今もその宝を目的にジョルニアに来る探検家や海賊が来るという。
ケアノスの話を聞き、セアンはすぐに端末で情報を調べた。その様子を見たカイトはコスタたちにこう言った。
「次の目的地が決まったかもね」
「それなら早く寝よう! さぁカイト、カモーン!」
急かすようにライアは自分が寝るベッドの上に枕を二つ用意してこう言ったが、ライアの腹の音が鳴り響いた。
「そう言えばご飯まだだったね」
「寝る前にお風呂にも入りたい」
そう言いながら、コスタはカイトの腕に抱き着いた。ラージュは部屋に付いている浴槽を見て、笑顔でこう言った。
「この部屋の浴槽なら六人入っても大丈夫」
「は……はは……そうか……」
こんな調子で次の目的地に行くことができるのかと、カイトは心の中で少し不安に思った。
翌朝、カイトは寝ぼけたセアンの足蹴りで目が覚めた。蹴りを受けたカイトは腹を抑えながら目を開けた。
「朝か……イテテ……蹴りが当たったのか……」
カイトは起き上がり、欠伸をしながら周囲を見回した。セアンは下着姿ではしたない格好で寝ており、コスタやケアノス、ラージュは布団にもぐって眠っている。ライアはベッドの下に落ちているが、それに気が付いていないのか寝息を立てて眠っている。
「五つ子なのに、寝相は個性的だな。個性があっていいと言うかなんというか……」
そう呟いた時、カイトは部屋の中にある時計を見た。時刻は朝七時半。寝る前に起きると決めていた時刻は朝八時。出港予定と決めていた時間が近いことに気付いたカイトは大声を上げた。
「んもー、どうしたの……カイト? もっと抱きしめてほしいの? それとも、朝からムラムラしてるの? 相手になるよ、カモーン」
カイトの声を聞いたセアンは目が覚め、ゆっくりとした手つきでブラジャーを脱ごうとしながらこう言った。だが、誘惑しても何も反応がなく、ひたすら慌てて動くカイトの様子を見て不審に思ったが、時計を見てカイトが激しく慌てる理由を察した。
「うわあああああ! 時間がない! 皆起きて!」
慌てだしたセアンの声を聞き、他の姉妹も起き、慌て始めた。その後、慌てながらも三十分で支度を終えたカイトたちは、ヴィーナスハンドに向かった。急いで走る中、セアンが何かに気付いてこう言った。
「朝食はどうしよう? 宿屋で食べればよかったかな?」
「船の中にある。それに、宿を出る前にパンをいくつか買った! だから大丈夫!」
「ナイスライア! 朝ごはんに問題はないね!」
「ごはんの問題は解決したけど、天気の情報はどうしましょう? そっちも重要よ」
「大丈夫よ、ケアノス。船の中で調べればいいわ。それに、こんないい日に雨は降らないわ。見て、このきれいな青空を」
「本当ラージュ? 黒い雲が見えるけど。向こうの方が真っ黒だよ」
「雨が降るか分からないわ。コスタ、不安になるようなことを言わないで」
「とにかく急ごう! 時間がないぞ!」
カイトの声を聞き、セアンたちは更に早く走り出した。そして、ヴィーナスハンドに乗り込んで急いで出港した。この慌ただしさを見ていた港で働いていた人は、口を開けて驚いていた。
「若いのに大変だなー」
そう呟く中、出港したヴィーナスハンドはあっという間に見えなくなっていた。
このあとがきを書くのはこの話を書いてかなり時が開いています。リティーヒの話は洞窟探検と宝探しをさせたいって思ったから書きました。この時点では、ビューティフルパイレーツは宝探しと敵対海賊と戦いを交互に繰り返して話を進めるって考えていました。今はやることも今後の方針も決まっています。
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