魔女の最期
エンズは攻撃を受けて苦しむ中、胸元のコルボコントロールが壊れる音を耳にしていた。下を見ると、粉々に砕け散ったコルボコントロールの破片が、宙を舞っていた。
「そ……そん……な……」
年齢、体を自由自在に操ることができるコルボコントロールが破壊され、次に自分の身に何が起こるのか、すぐにエンズは理解した。
一方、武器を持っていたカイトたちは動じないエンズを見て、動揺していた。
「これで、終わったのかな?」
不安そうにセアンがこう言ったが、カイトは首を振ってこう答えた。
「俺は終わっていないような気がする。性格の悪い女だ、きっと何かすると思う」
「私もカイトと同じ考えよ。コルボコントロールを壊したからと言って、油断しないで」
ケアノスはエンズを睨んだが、ライアは少し気を抜いてこう言った。
「魔力を感じないよ。終わったと思うけど」
「油断してたら、殺されるわよ」
ラージュの声を聞き、ライアは急いでナイフを手にした。そんな中、コスタがエンズの異変に気付いた。
「皆見て、あいつの体が急激に老けていくわ」
コスタの言葉を聞き、カイトはエンズの体を注目した。若々しい肌のエンズだったが、今はしわまみれになり、肉も減って骨が分かるようになった。
「私の……若さが……失われる……私の……美しさがぁ……」
しわしわになったエンズの声を聞き、カイトたちは驚いた。年寄りになってしまったエンズだが、老化はまだ終わっていなかった。骨が見えるくらいに減った肉はまだまだ減っており、しわも尋常なないほどの量になっていた。
「うわ、まだ老化するの?」
「それだけ、長い間コルボコントロールを使っていたってことよ」
「どれだけ使ったことやら」
ライア、ラージュ、セアンは老いたエンズを見ながら会話をしていた。エンズはゆっくりと歩きながらカイトたちに近付いた。だが、歩くたびに体の肉が落ちていった。
「うわ、体の肉が……」
「寿命の限界を超えてコルボコントロールを使ったから、肉体が腐っていたってわけね」
コスタとラージュはゾンビのように歩いてくるエンズを見て、動揺しながらこう言った。そして、エンズは近くにいたカイトに近付き、ゆっくりと口を開いた。
「たす……けてぇ……私は……死にたく……なぁい……」
エンズは顔を見上げ、カイトに助けを求めた。エンズの顔は両頬の肉が落ち、頭皮も四分の三以上が腐って抜け落ちていた。そして、目の周りの肉もほとんどが腐食しており、気味悪さを演出していた。カイトは思わず声を上げて後ろに下がったが、それでもエンズは助けを求めた。
「嫌だぁ……死にたく……ない……逃げないで……」
「無様なものね。殺そうとしていた相手に、助けを求めるなんて」
セアンがエンズを見下しながらこう言った。エンズはその言葉を無視し、助けを求めた。だが、動く途中でエンズはバランスを崩し、地面に落ちた。
「あ……」
情けない声を上げながら、エンズは地面に倒れた。倒れた時の衝撃でエンズの腐った体は粉々に砕け散った。それを見たカイトたちは、すべてが終わったと察した。
エンズの死後、セアンは鼻を抑えながら創造の力を取り戻した。
「何とか手に戻したけど……あとで奇麗にしないと」
セアンがそう言うと、突如地響きが発生した。カイトたちが驚く中、脳内で全知の剣の声が聞こえた。
「皆さん。創造の力を使っていたエンズが死にました。そのため、彼女が創っていたこの要塞も跡形もなく消滅します」
「えええええ! 消滅するの?」
「本来、創造の力を使った建物や道具は消滅しないのですが、エンズは強すぎる魔力を使ってこの要塞を創りました。その反動のせいで、彼女がいなければ要塞は保てなくなってしまったようです。その彼女が今死にました。急いでこの場から離れてください!」
全知の剣の声を聞いたセアンたちは、急いで海に向かって走り出した。走る中、セアンは大声で叫んだ。
「全知の剣! メリスたちは大丈夫なの?」
「先に伝えました。今、メリスさんたちは海の外に避難しました。あとはあなたたちだけです」
「了解! それじゃ、すぐに戻るから待っててね!」
セアンはそう言うと、カイトたちを呼び寄せた。
「どうしたんだセアン?」
「早く逃げないと海に沈むわよ」
「あいつを倒したってのに、ここでのんびりしてたら崩壊に巻き込まれるわ!」
「のんびりしてる時間なんてないよー!」
カイトたちは慌てていたのだが、何かを察した表情のラージュは笑みを浮かべた。
「パッと逃げられる方法を見つけたのね」
「うん。これしかないってね」
「それって……」
「残った魔力をぜーんぶ使って、飛んで脱出」
セアンの返事を聞いたケアノスは呆れてため息を吐きつつも、魔力を開放した。
「それじゃ、早く行きましょう」
「もたもたしてる暇はないわ」
「そうだな。うし!」
カイトたちも魔力を開放し、崩壊するエンズの要塞から飛んで脱出した。空を飛ぶ中、カイトはエンズの要塞を見下ろした。
「あいつの要塞が、崩れていく」
カイトは音を立てながら崩れるエンズの要塞を見て、小さく呟いた。ここでぼーっとしていると魔力が無駄になると思ったカイトは、急いでセアンたちとヴィーナスハンドへ向かった。
戦いが終わった後、カイトたちはメリスたちと合流し、近くの島に移動していた。宿屋には、戦いを終えて一息ついているシーポリスの戦士たちがいた。
「エンズとの戦いは終わったが……」
「失ったのが多すぎる」
戦士の一部がこう言った。治療を受けるメリスは、深くため息を吐いた。確かにエンズとの戦いに勝利したが、サマリオや他の戦士、シーポリスの上層部などの命が失われ、シーポリス自体も崩壊してしまったのだ。
「これからどうしよう……」
メリスは小さく呟いた。そんな中、治療を受けていたセアンがやってきた。
「メリス、これからのことが不安なの?」
セアンの言葉を聞き、メリスは頷いた。セアンはメリスの横に座り、こう言った。
「何をするか分からないなら、皆で決めなよ。答えは一つじゃないんだからさ」
「セアンさんの言う通りですよメリス少佐」
「困ったら俺たちに何か言ってください」
「微力ながらも、力を貸しますよ」
戦士たちの声を聞き、メリスは小さく頷いた。そして立ち上がり、戦士たちにこう言った。
「実は、ちょっと考えていることがあったの。皆、私に付いてきてくれる?」
「そりゃーもちろん!」
「生き残った上司があんただけだから、俺たちはあんたに付いて行くだけだ!」
「頼みますぜ、メリスさん!」
戦士たちの生きのいい声を聞き、メリスは少しだけ、安堵の顔になった。セアンは笑顔で頷きながら、メリスの横に立った。
「何かあったら、私たちも手伝うから! とりあえず、悪い海賊討伐は任せてー!」
セアンの声を聞いた戦士たちは、一斉に声を上げた。
近くの部屋にいるカイトたちは、その声を聞いて笑みを浮かべていた。
「シーポリスの方は、メリスがいるから何とかなりそうね」
「そうだな」
ラージュはカイトを治療しながら話をした。治療を受けたコスタはカイトに近付き、手に触れてこう言った。
「カイト、本当にありがとう。カイトがいなかったら、ここまでやれなかった」
コスタの言葉を聞き、カイトは転生してセアンたちと出会い、今に至るまでの出来事を思い出していた。
「ああ。俺もまさか転生してここまでやれるとは、思ってもいなかったよ」
「何終わったような感じで話をしているのよ?」
「これは通過点だよ。まだ、私たちのやるべきことは終わってない」
ケアノスとライアの言葉を聞き、カイトはピラータ姉妹の目的を思い出し、小さく頷いた。
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