ハッピーだけでは敵を撃てぬ
コスタは近くにあった塔を登り、頂上に到達することができた。敵に姿を見せないようにしゃがんだままスナイパーライフルを用意し、スコープを使って敵の位置を探り始めた。その時、発砲音が聞こえ、それからしばらくして塔の中を暴れまわる跳弾の音が聞こえた。
あいつ、私がまだ塔の中にいるって思っているのね。呆れた。
心の中でこう思いつつ、コスタはすぐにでも敵を斬ろうと考えた。同じスナイパーライフルを使う敵とはいえ、性格は真逆であった。コスタは確実に一発で敵を仕留める一方、敵は相手の姿を見かけたらとにかく引き金を引く。たとえエンズが作り出した人形で魔力があるとはいえ、それには限りがある。
エンズが作った人形だから、弾丸なんて用意されていない。あいつが使う弾丸は魔力でできたもの。がむしゃらに撃ち続ければ、いずれ尽きる。
コスタは心の中でそう思い、敵の攻撃が収まるまで待つことにした。コスタが身を隠しながら敵の弾切れを狙う中、敵が放つ弾丸がコスタの頭上を飛んで行った。
まさか、私が頂上にいるってこと、把握したの?
敵に位置がばれたと思い、コスタは急いでその場から離れた。だが、コスタの頭上を飛んでいく弾丸があれば、壁に激突する弾丸もあった。それを見て、コスタは敵が自分の位置を探し出すために弾を撃っていると考えた。
下手に動けば、敵の思うつぼ。だけど、このままだと撃たれるわね。
動かなくても、自身の運がなければ攻撃を受けると思ったコスタは、反撃をすることにした。頻繁に響く発砲音が止まったタイミングを見計らい、コスタはスナイパーライフルを構えて立ち上がった。スコープの中には、笑みを浮かべながらスナイパーライフルを構える敵の姿があった。
「間抜けね」
と言って、コスタは標準を合わせて引き金を引いた。だが、コスタの攻撃を察した敵もコスタに狙いを定めて引き金を引いた。ほぼ同時に放たれた弾丸は一直線に飛んでいき、互いにぶつかった。魔力で創られた敵の弾丸は衝突したと同時に破裂したが、破裂した時の衝撃でコスタの弾丸の弾道を大きく変えた。
「クッ、弾道をずらしたわね」
コスタはこのことを素早く察し、急いで身を隠した。その一方、敵の人形はコスタが塔の頂上にいることを察すると、再び乱射を始めた。
無数の弾丸が自身の頭上を飛んでいく中、コスタは次の攻撃の支度をしていた。
何発かはエンズとの戦いで使いたい。あんなハッピートリガー野郎相手に、無駄な弾は使いたくない。
そう思ったコスタは、一発の弾丸をスナイパーライフルに込め、大きく深呼吸をした。コスタは、この一発で敵を倒そうと考えているのだ。
狙うとしたら、次。敵が攻撃を一時的に止めたその瞬間。
攻撃のチャンスを考え、コスタはその時のために精神を落ち着かせていた。しばらくして、再び発砲音が止まった。敵の罠かもしれないが、狙うとしたら今しかないと思ったコスタは再び立ち上がり、発砲音がした方向をスコープで覗いた。そこには、敵がおろおろしながらスナイパーライフルのリロードをしている姿があった。
「滑稽ね。私のコピーだとしたら、完全な粗悪品ね」
と言って、コスタは引き金を引いた。放たれた弾丸は人形の額に当たった。だが、人形は立ち上がって、コスタの方を向いて笑みを浮かべた。敵は素早くスナイパーライフルを手にし、コスタに向かって引き金を引いた。だが、リロードができていなかったため、弾は発射されなかった。魔力を使ってリロードをしようとしたものの、魔力はほとんどなかった。攻撃手段がなくなったことを察した人形は、困った表情をして周囲を見回した。その時、背後に忍び寄っていたコスタが人形に向かってショートソードを突き刺していた。
「終わりよ。さっさと消えなさい、粗悪品」
攻撃を受けた瞬間、人形はゆっくりとコスタの方を振り向いた。コスタは人形が何かする前にショートソードを引き抜き、人形を蹴り倒した。人形は体を震わせながらコスタに向かって手を伸ばしたが、その前に人形の体が消えた。
「哀れね……ほんと」
人形が消滅したことを知り、コスタは安堵の息を吐いた。その時、先に戦いを終えたケアノスたちがコスタに近付いた。
「コスタ! そっちも戦いが終わったのね!」
「いやー、無事でよかったよー」
「怪我はなさそうね」
ケアノスたちの言葉を聞き、コスタは笑みを作って頷いた。その時、遠くから爆発音が聞こえた。
「カイトがエンズと戦っているのかしら?」
「カイトの魔力は感じるけど……それ以上にシアンの魔力を強く感じる」
「派手に戦ってるみたいね。援護に行った方がいいかしら?」
ラージュの言葉を聞いたケアノスは少し考え、こう答えた。
「私がセアンの元へ向かうわ。コスタたちはカイトたちの元へ向かって!」
「分かった。気を付けてね」
「そっちも十分に気を付けて。相手はブラックソードのボスなんだから」
ケアノスはコスタたちにそう言うと、急いでセアンの元へ向かった。
セアンは自身のコピーである人形を相手に、歯ぎしりしながらカトラスを振り回していた。相手も同じ動きをし、なかなかセアンが斬れない苛立ちからか、怒りの形相を見せていた。
「早く斬られてよ、このモノマネ人形!」
セアンはそう言うと、カトラスを大きく振り回して敵に隙を作らせ、腹に向かって蹴りを放った。バランスを崩した人形は蹴りを受けて吹き飛んだが、すぐに態勢を整えて左手に持つハンドガンをセアンに向けた。
「そっちがその気なら」
セアンは魔力のバリアを張り、敵の攻撃に備えた。その直後に人形はハンドガンの引き金を引いた。魔力で作られた弾丸が放たれたが、セアンの魔力のバリアが分厚く、セアンまでに弾丸は届かなかった。
「そんな弾丸で、私のバリアを壊せると思わないでよね!」
セアンはバリアを飛び越えるほどの大きなジャンプをし、人形に狙いを付けて勢いよくカトラスを振り下ろし、着地した。しばらくして、人形の左腕が地面に落ちる音がした。
「へっへーん。それじゃあハンドガンは使えないよねー」
落ちた人形の左腕を見ながら、セアンはこう言ったが、人形の左腕はあっという間に再生し、ついでにハンドガンも新調された。
「やっぱり再生したか。倒すには、あいつの魔力を空っぽにしないとダメってわけね」
そう呟いた後、セアンは人形の顔を殴り、そのまま倒した。倒れた人形は立ち上がろうとしたが、セアンは人形の頭を蹴って倒し、上乗りになって殴り始めた。
「だったらあんたが倒れるまで徹底的にやってやるわ! 覚悟しなさい!」
セアンはそう言った後、左手でハンドガンを持ち、何度も人形の頭に向けて発砲した。だが、人形は弾丸を受けてもひるまず、上乗りになったセアンを蹴り倒し、右手のカトラスで倒れたセアンに向かって攻撃を仕掛けた。攻撃を察したセアンは体を回転させて攻撃をかわし、人形と距離を取って立ち上がった。
「ふぅ、めんどい相手だなー。自分と戦うってかなり面倒だ」
セアンはそう言いながら、あくびをした。人形は何度も低くジャンプして戦いの態勢を整え、セアンを見た。
「ヘェ、やる気ね。そんなモノマネ野郎に一言言っておくわ。パチモンが本物を倒せるとか思わないほうがいいわよ!」
と、セアンはカトラスを人形に向けてこう言った。人形は笑みを浮かべ、セアンに向かって走り出した。
「分からないなら、分かるまでボコボコにしてあげる!」
セアンは迫る人形に向かってカトラスを構えた。
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