コピー人形の大きな弱点
ケアノスは人形の弱点を察した。人形は今現在のケアノスの強さ、そのものをコピーして作られている。そのため、人形が遣う武器、技は今現在のケアノスと変わりないのだ。人形は今のケアノスの動きを知っており、どんな動きをしても対処してしまう。だが、それが人形の弱点でもある。今使うケアノスの技は把握しているが、予想外の動きや技を繰り出した時の対処法が分からないのだ。そのことを察したケアノスは、自分でも予想できない動きで人形を翻弄した。
攻撃が当たる。このまま攻撃を続けて勝てればいいんだけど。
と、攻撃を続けるケアノスは心の中でこう思った。ケアノスが放つ滅茶苦茶な動きの剣技は、人形に命中している。だが、ケアノスはもう一つ考えていることがあった。それは、いずれ相手がこの動きを学び、対処してしまうだろうこと。そう考えていると、人形は魔力を開放し、ケアノスを吹き飛ばした。威力がない爆発だったせいか、ケアノスはダメージを受けずに後ろに吹き飛んだ。態勢を整えたケアノスはふらつく人形を見て、レイピアを構えた。
「それなりにばてたみたいね」
そう言うと、ケアノスはレイピアを構えたまま走り出した。人形も同じようにレイピアを構えて走り出したが、ケアノスは途中で走るのを止めた。その動きを見た人形は一瞬だけ動揺して走るのを止めようとした。その隙に、ケアノスはレイピアを人形に向かって投げた。レイピアは上手にダーツを投げたかのようにまっすぐ飛び、人形の左肩に突き刺さった。
「こんなことをするなんて、考えてなかったでしょ」
ケアノスはレイピアの握り手に仕掛けてあった魔力で作った紐を引っ張り、レイピアを手元に引き寄せた。人形は左肩を抑えつつ、ケアノスの方を見た。だが、人形には目がないため、どんな感情で自分を見ているかケアノスは理解できなかった。いや、理解しなかった。
「何を思っているか分からないけど、あんたと私は敵同士。情けをかけることはしないわ」
と言って、ケアノスはレイピアを手にして人形に近付き、レイピアで人形の頭を突いた。だが、人形は攻撃を受ける寸前に頭を動かし、ケアノスの攻撃をかわした。
「一応予測してたわ」
ケアノスはレイピアを引き、もう一度突きの攻撃を仕掛けた。人形はこの攻撃をかわし、立ち上がりつつレイピアを右手で持って反撃を行った。ケアノスは魔力のバリアを張って人形の攻撃を防ぎ、攻撃の後で作ったバリアを人形の方へ蹴り飛ばした。飛んできたバリアに命中した人形は後ろに下がりつつ、レイピアを構えようとしたのだが、容赦ないケアノスの連続攻撃が始まった。
「手加減しないわ。さっさと消えなさい!」
ケアノスは声を上げつつ、連続でレイピアを突いた。この連続攻撃に対し、人形も防御していたのだが、次第に防御は緩み、ケアノスの攻撃を受けていった。攻撃が当たったことを察したケアノスは、魔力を開放して勢いを付けて連続攻撃を続けた。そして、人形が穴だらけになったことを確認したケアノスは、素早くレイピアの刃に魔力を込めて大きな刃を作った。
「これで終わりよ! 覚悟しなさい!」
叫び声を上げながら、ケアノスはレイピアを振り下ろした。人形は迫る大きな刃を見て驚きつつ、防御するためレイピアを盾にした。だが、魔力の刃は人形が持つレイピアの刃をいとも簡単に切断し、人形の体を一閃した。二つに裂けた人形の体を見て、ケアノスはため息を吐いて人形に近付いた。
「私の勝ちね。所詮、偽物は偽物ってわけね」
と言って、レイピアを左右に振り、人形の体を地面に落とした。その直後、人形の体は塵となって消滅した。
戦いが終わり、安堵の息を吐いたケアノスは周囲を見回していた。
ラージュとライアの方の戦いは終わっている。あとは、コスタとセアンね。
周囲の魔力を感じ、まだコスタとセアンが敵と戦っていることを察し、自分はすでに戦いを終えたラージュとライアとの合流を急ぐことを選択し、急いで二人の元へ向かった。
コスタをコピーした人形は、笑みを浮かべながらスナイパーライフルの引き金を何度も引いていた。周囲に飛びまくる魔力の弾丸を見て、コスタは呆れてため息を吐いた。
「あれが私のコピー? 私、ハッピートリガーじゃないのに」
コスタはこう呟き、敵に悟られないように周囲を見回した。敵がむやみやたらと引き金を引くせいで、周囲を飛びまくる弾丸の動きを予測できないでいた。
「私、あんな滅茶苦茶な弾の使い方をしないわよ。失礼するわね」
と言って、再び周囲を見回した。コスタは高所へ移動し、高いところから敵の姿を確認し、一撃でスナイプしたいと考えているのだ。だが、今は敵が滅茶苦茶な攻撃をするせいで、予測できない動きの弾丸が飛び回っている。魔力のバリアを使って攻撃を防げるものの、魔力を使えば敵に居場所が悟られるとコスタは思っているのだ。
しばらく周囲を見回していると、コスタから少し離れた所によさそうな高さの塔があった。それを見つけたコスタは周りを見て、どこに弾丸が飛んでいるか確認した。今は、弾丸が壁に当たって跳ね返る音がしなかった。
敵の弾か魔力が切れたか? 反撃を受ける可能性もあるけど、動くなら今!
そう考えたコスタは、急いで塔に向かって走り出した。だがその瞬間、目の前に敵が放った弾丸が通り過ぎた。発射音を聞いたコスタは瞬時にその動きに反応し、走るのを止めたから弾丸に当たらなかった。だが、二発目があると考えたコスタは再び走り出した。走る中、コスタは弾丸が放たれたと思われる場所を見て、苦い顔をした。そこには、笑顔でスナイパーライフルを構える人形の姿があったからだ。
「リロードを終えたってわけね」
コスタはそう呟いた後、魔力を開放して猛スピードで塔へ向かった。その最中に敵の弾丸が雨のように降り注いだが、それでもコスタは大きなダメージを受けずに塔の中に入ることに成功した。
何とかこの中に入れたけど、敵は私がここにいるってこと察しているわね。
そう思いながら、コスタは腕や足を見た。敵が放った弾丸がかすったのか、切り傷ができていた。コスタは素早く傷の手当てを行い、座って休むことにした。その間、窓から敵が放つ弾丸が飛んできた。
私があの窓の向こう側にいるって思っているのかしら? 相手の頭は少し悪いようね。
コスタはそう思った。狙撃されていると察しているのなら、居場所がばれる窓の近くにはいない。敵にはこの考えがないのだろうと思いながらコスタはこの状況をどう打破するか考えた。
今は大丈夫だけど、敵はがむしゃらに攻撃を続ける性格。この塔は石みたいな素材でできている。それほど強い素材じゃない。何回か弾丸を受ければ壁が壊れ、外から様子が丸見えになって、私の居場所がばれる。その前に敵を倒さないと。
コスタは塔の中を見回し、使えるものがないか調べた。だが、この中には何もなかった。あるのは上の階へつながる階段だけだった。
仕方ないわね。こうなったら戦うしかないわね。
コスタはため息を吐きつつ、低い姿勢で階段を上った。時折窓から敵が放つ弾丸が飛んできたのだが、コスタに当たることはなかった。しばらくして、コスタは階段を登り切り、頂上へ到達した。
「さて、がむしゃらに弾丸を撃っても、ターゲットに当たらないと意味がないってこと、教えてあげるわ」
コスタはそう言って、急いでスナイパーライフルを手にし、スコープを使って敵の姿を探し始めた。
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