悲しき再開、そしてバトル
エンズの手によって殺されたサマリオは、エンズの手によってゾンビにされていた。恩人、そして最も信頼する上司の哀れな姿を見たピラータ姉妹、メリスは戦意を失ってしまった。エンズは遠隔カメラでこの様子を見て、爆笑していた。
「アーッハッハッハッハ! やっぱりあいつをゾンビにしておいたのは正解だったよ! あいつら、見たことない表情してたねぇ! アハハ! やっば、何回見ても笑えるわ!」
エンズは腹を抱えながら笑い、涙を流していた。すると、映像には刀を構えるカイトの姿が映った。
「へぇ、あいつだけはやる気があるようだねぇ」
カイトとゾンビサマリオの戦いの行方が気になったエンズは、ソファーに座り直した。
サマリオの強さをカイトは把握しているつもりであった。セアンたちを鍛え、メリスたちシーポリスの戦士からも強く信頼されている男であるため、かなり戦闘力が高いとカイトは考えていた。
「すみませんサマリオさん、本気で行きます!」
カイトは小さくこう呟くと、ゾンビサマリオに斬りかかった。ゾンビになったため、思考能力と運動神経が大きく下がり、生きていた時よりも戦闘能力が大きく下がったはずと考えたカイトだったが、ゾンビサマリオはカイトの攻撃をかわし、うめき声を上げながら手にしていた剣を振り下ろした。
「くっ!」
カイトは後ろにジャンプして攻撃をかわし、刀を構えた。サマリオはカイトに動き始めたが、その動きはかなり鈍かった。接近戦だと、噛まれる可能性があると思ったカイトは、水の刃を発して攻撃を仕掛けた。放たれた水の刃はゾンビサマリオに向かって飛んだが、ゾンビサマリオは素早く剣を振るって水の刃を破壊した。
「んなっ! そんなことできるのかよ!」
ゾンビサマリオの素早い動きを見たカイトは驚いたが、攻撃の跡でゾンビサマリオの腕の肉の一部が落下した。それを見たカイトは、攻撃をするたびに体の一部が崩れるのかと思い、このまま遠距離攻撃を続けた。次々と放たれる水の刃を見たゾンビサマリオは、体を大きく動かしながら水の刃をかわし、カイトに近付いた。
「グッ! クソッ!」
カイトは刀に魔力を注ぎ、巨大な魔力の刃を作った。そして、そのままゾンビサマリオに向かって振るった。迫る魔力の刃を見たゾンビサマリオは、魔力を開放した。
「嘘だろ……ゾンビになっても魔力を使えるのかよ!」
強い魔力を感じたカイトは驚きのあまり叫んだ。ゾンビサマリオはカイトの攻撃を受け止め、そのまま魔力の刃の一部を切り落とした。
攻撃を終えたカイトは、後ろに下がってゾンビサマリオとの距離を開けようと考えたのだが、ゾンビサマリオは魔力を開放したまま、カイトに向かって動いていた。その時の速さは生きているかのように素早い動きだった。
「は……早い!」
迫るゾンビサマリオを見て、カイトは刀を振るった。
哀れな姿となったサマリオを見て、戦意を失ったセアンたちは岩の陰に隠れていた。メリスはショックのあまり何度も嗚咽を繰り返し、ケアノスはサマリオとの思い出を思い出しては涙を流していた。
「こんなのって……酷いよ……あんまりだよ……」
ライアはゾンビサマリオの姿を見た時から、ずっと涙を流していた。コスタは手で顔を覆い、何度も大きく深呼吸をしていた。ラージュも何も言わなかったが、その顔には苦痛の色があった。そんな中、セアンは大きく息を吸ってこう言った。
「私、カイトの援護に行ってくる」
と言って、セアンは立ち上がったのだ。その姿を見たケアノスは涙を拭き、セアンの方を向いた。
「サマリオと戦う気?」
「そのつもり。カイトも知り合いであるサマリオと戦うのが苦しいと思うよ。だけど、戦ってる」
セアンの言葉を聞いたコスタは、スナイパーライフルを手にした。
「そうね……苦しいのは皆一緒。ここでくじけたら……先には進めない」
「うん。そうだね。泣いてばかりじゃ先に進めないもんね」
ライアは涙を拭き、立ち上がった。ラージュは深く呼吸をして立ち上がり、ケアノスとメリスを見た。
「私は戦ってくるわ。二人はどうする?」
ラージュの質問に対し、ケアノスとメリスは息を吐き、意を決した表情をして立ち上がった。
「よし、辛いけど……皆、行こう」
セアンはそう言って、カイトとゾンビサマリオの元へ向かった。
カイトとゾンビサマリオは激しく武器で攻撃をしていた。刃と刃が激しくぶつかり合う音を聞きながら、カイトはゾンビサマリオを見てこう思った。
いずれ肉の破片が落ちて、腕の動きがかなり鈍くなるはず! その瞬間に攻撃すれば何とかなるはずだ!
激しく動くたびに、体の一部が欠ける。わざと激しく動かして、体を欠損させれば勝機があると考えたカイトは、ゾンビサマリオに激しく動くように攻撃を仕掛けていた。カイトの考え通り、激しく動くにつれてゾンビとなったサマリオの体は早く腐食してはその一部が地面に落ちた。数分後、ゾンビとなったサマリオの体の肉は戦いが始まった時から四分の一が崩れ落ちていた。崩れ落ちた腐った体から、骨らしき物体と腐った臓器が見えた。
「グッ……ここまでなると、かなりえぐいな」
カイトは手で口を覆い、嗚咽した。ゾンビサマリオはその隙にカイトに近付こうとしたのだが、遠くから狙撃音が聞こえた。次の瞬間、放たれた弾丸がゾンビサマリオの左足のすねを打ち抜き、地面に着弾した。
「コスタ」
カイトは遠くでスナイパーライフルを構えるコスタを見た。そして、各々の武器を持ったセアンたちがゾンビサマリオに近付き、攻撃を始めた。
「セアン、皆!」
「苦しいけど、だからと言って何もしなかったら、先に進めないからね!」
セアンはカイトに近付いてこう言った。ゾンビサマリオはカイトに攻撃を仕掛けようと動いたが、メリスが前に現れて魔力で攻撃を仕掛けた。
「サマリオ大佐、これで……大人しくしてください」
メリスは攻撃を受けて、吹き飛ぶゾンビサマリオを見て小さく呟いた。転倒したゾンビサマリオはすぐに立ち上がり、メリスに狙いを付けて動き出したのだが、二本のナイフに魔力の刃を発したライアが接近し、攻撃を仕掛けた。
「サマリオ! お願いだから、これで眠って!」
ライアは叫びながら攻撃を続け、同時に二本のナイフを振り下ろした。この攻撃でゾンビサマリオの右手が斬り飛ばされたのだが、ゾンビサマリオは残った左手で右腕を掴み、ライアに襲い掛かった。ライアは驚いて悲鳴を上げたが、そこにケアノスとラージュが現れた。
「ごめんね……サマリオ」
「私たちの手で、楽にしてあげるから」
と言って、ケアノスとラージュは同時にゾンビサマリオに向かって攻撃を仕掛けた。攻撃を受けたゾンビサマリオは勢いよく後ろに吹き飛び、その場に倒れた。
「これで……倒したのか?」
動かなくなったゾンビサマリオを見て、カイトは小さく呟いた。
戦いの様子を見ていたエンズは、笑みを浮かべてこう言った。
「バカねぇ。ゾンビになった戦士は持っていた魔力の量と質で強さが決まる。腕は斬られたけど、あの程度の攻撃じゃあサマリオを倒せない。甘いねぇ……うふふ」
エンズはそう言って、カメラの映像を見ていた。しばらくして、倒れていたゾンビサマリオがゆっくりとした動作で起き上がり、カイトたちの驚く声が聞こえた。
「やっぱりね。そうなった。さーて、あなたたちはまだ戦えるかしら? ゾンビとなった恩人は手強いわよ?」
苦痛の表情をするカイトたちを見て、エンズはさらに笑みを浮かべた。
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