創ることがいかに脅威であることか
大きな傷を負ったカイトたちは近くの町に避難していた。ケアノスは急いで町の造船場へ向かってヴィーナスハンドの修理を任せ、コスタとメリスは現地のシーポリスと力を合わせ、傷を負ったカイトたちを病院へ送った。
その後、コスタとケアノスは宿の部屋で大きなため息を吐いていた。
「まずいわね、創造の力をどうにかしないとあいつを倒せないわ」
「倒す以前に、あいつに近付けないわ……」
そう話し、再びため息を吐いた。その直後、やつれた表情のメリスが部屋に入ってきた。
「今、私の部下から連絡が入ったわ……」
「無事だったの?」
「何人かは。長年戦士として活躍した人が犠牲になってくれたって……」
「メリス……」
コスタは立ち上がってメリスのそばにより、小さく嗚咽するメリスを支えてベッドの上に座らせた。
「ありがとう。コスタたちもカイトたちが傷を負って、大変だって言うのに……」
「確かに大変だけど、ここでくじけてばかりじゃいられない。あいつを何とかしないと、世界が大変なことになるかもしれないからね」
コスタの言葉を聞き、メリスはエンズが世界を支配した時のことを考え、恐ろしさのあまりサメ肌が立った。そんな中、ケアノスが持っていた全知の剣が光り出した。
「お困りですね、皆さん」
「全知の剣……あなた、この後どうするか分かる?」
ケアノスは聞いてみたが、全知の剣は光って答えた。
「前にも言いましたが、私は今後のことについては分かりません」
「だよね……」
ケアノスがため息を吐くと、全知の剣は話を続けた。
「ですが、私が得た知識であなた方の助けになるなら、力をお貸しします」
「ありがとう。それじゃあ、エンズに近付くいい方法はない?」
コスタの問いに対し、全知の剣はしばらく考え、答えを告げた。
「エンズは常に、創造の力で作り出した要塞にある塔の最上部にいます。あそこが彼女の部屋であり、司令塔なんでしょう」
「できれば、一気に奴の部屋に近付きたいわね」
「それは無理です。エンズも直接自室に乗り込まれることを想定し、部屋がある周囲には武装されたドローンが常に周囲を動いています」
「それも創造の力で創ったわけね」
「その通りです。創造の力は厄介ですが、持ち主から奪ってしまえば、創造された物は全て崩壊します」
「そうするしかないのね」
かなり難題なため、ケアノスは頭を抱えた。
それから、ケアノスたちは今後のことについて語り合った。エンズをどうやって倒すか、どうやって近付くかを真剣に、何時間も語り合った。全知の剣のアドバイスを参考にし、いろいろと作戦を練った。そんな中、メリスの電話が鳴り響いた。メリスはすぐに電話を手にし、通話を始めた。
「もしもし」
「メリス少佐! 今、戻りました!」
「無事に戻ってきたのね! 今からそっちに行くわ!」
部下が帰ってきたことを知ったメリスは、コスタとケアノスに挨拶をしてから大急ぎで外に出た。
「戻ってこれてよかったけど……」
「何人かは死んだのよね」
「戻ってこれただけでも、運がいいってことね」
エンズがどれだけ強固な軍団を作ったかを再確認したコスタとケアノスは、自分たちだけで倒せるか少し不安になった。そんな中、ケアノスの電話が鳴った。
「誰から?」
「えーっと……セアン? セアンからだ」
返事を聞いたコスタは驚いて声を上げたが、ケアノスは通話を始めた。
「もしもしセアン? あんた、病室で何をやってるのよ?」
「大丈夫だって。今、携帯使っていい部屋にいるから」
「病室にいないの? 結構なダメージを受けたから、安静にしないと」
「大丈夫って言ったじゃん。あはは。心配性だなケアノスはー」
「もう……本当に……」
怪我をしてもノリが変わらないセアンと会話をし、ケアノスは少し安堵した。そんな中、セアンは話を続けた。
「で、ヴィーナスハンドの様子はどう? あの後、すぐに造船場に向かったんでしょ?」
「ええ。修理が終わるまで、一週間はかかるわ」
「一週間か……私たちの傷は三日そこらで完治できるらしいし、できればヴィーナスハンドの修理が終わるまでもう一度鍛えたいね」
「そうね。今のままだと、またあいつに負けるわ」
コスタはケアノスの言葉を聞き、頷いた。
「とりあえず、コスタとケアノスも疲れたと思うから、今は休んで。それからあいつに喧嘩を売ろう」
「分かった。それじゃあ、またお見舞いには行くけど……カイトに変なことをしたら入院期間が延びるってことを頭に入れておいてね」
「はいはーい」
若干適当な返事をしながら、セアンは通話を終わらせた。ケアノスはセアンたちがとりあえず無事であることを知り、安堵の息を吐いた。
「相変わらず元気そうね」
「ええ。いろいろあって気が病みそうなのに……セアンみたいな元気が欲しいわ」
「いえ、彼女もサマリオ・サーチライトを殺されたことを知り、かなり動揺して深く心に傷を負っています」
会話に乱入する形で、全知の剣が語った。その言葉を聞いたケアノスは驚いたが、全知の剣は話を続けた。
「セアンさん、いいお姉さんですね。あなたたちを動揺させまいと、元気なふりをしています」
「無理してるのね……セアンも」
「はい。サマリオ・サーチライトを失った悲しみは、皆さん同じです。負った傷も同じ。ですが、私は強い人間はどれだけ傷付いても、再び立ち上がって難題に挑むことを知っています。あなたたちは強い人間です。どんな困難が襲い掛かってきても、立ち上がる強さを持っています」
全知の剣の言葉を聞き、ケアノスは全知の剣を触ってこう言った。
「ありがとう」
その頃、エンズはのんびりと鏡を見ながら化粧をしていた。セアンたちを撃退した後、エンズはのんびりと時間を潰していた。
「ふぅ、やはり私は美しいわね」
エンズは鏡に映る自身の顔を見て、うっとりとしていた。その時、胸元にあるペンダントが落ちた。その瞬間、エンズの顔から灰色の煙が発した。
「なっ! あああああ!」
エンズは叫び声を上げながら、急いでペンダントの宝石を取り出し、肌に付着させた。すると、顔から発生していた灰色の煙が収まった。
「はぁ……また化粧のやり直しね」
と言って、エンズは再び化粧を始めた。その後、ペンダントに新しい鎖を付け、身に着けた。
「これで再び美しい私に戻ったと」
鏡に映る自身の顔を見て、エンズは再び高笑いを始めた。
数日後、無事にカイトたちが退院することになった。カイトは外に出て、平和であることを確認して安堵の息を吐いた。
「よかった、あいつが動いてなくて」
「本当にそうだね。他の悪党だったら、私たちやシーポリスが動けない時に、悪さを働くんだけどね」
セアンはそう言うと、横にいたライアはうなり声をあげてこう言った。
「もしかしたらさ、何かやってたんじゃないの?」
「次の攻撃に備えてか……だとしたら、次にあいつと戦う時は大変なことになりそうだなー」
「そうだけど、それでもやるしかないんだ」
カイトは拳を握ってこう言った。ラージュはカイトの拳を触り、首を振った。
「まだ傷を負って退院したばかりだから、あまり無茶はしないでね」
「そうだな。とりあえず、ヴィーナスハンドの修理が終わるまで、気を落ち着かせよう」
カイトたちは話をしながら、病院のロビーに向かった。ロビーでは、カイトたちを迎えるために、コスタとケアノス、メリスが立って待っていた。カイトたちの姿を見たケアノスたちは、急いでカイトたちの元へ向かって走って行った。
「皆、迷惑かけてごめんな」
「いいってことよ。それよりも、また今後について話しましょう」
ケアノスの言葉を聞き、カイトたちは頷いた。
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