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最期の命令


 殺したと思ったカイトが、気合で復活した。そして、ガーティブに致命傷を与えた。ガーティブはこのままでは勝てないと判断し、イコルパワーを使おうとしたが、カイトが妨害した。地面に落下したイコルパワーはもう使えないとカイトたちは考えたが、ガーティブは落下したイコルパワーを少しだけ指に付着させて舐めてしまった。


「ぐっ……あのままだと……」


 ラージュの治療を受けているカイトは、動こうとしたのだが、ラージュがカイトを止めた。


「止まって。この体で動いたら確実に死ぬわよ」


「セアンたちがどうにかしてくれるわ。カイトは頑張った。ガーティブを追い込んだのよ」


 ラージュの言葉を聞き、カイトは小さく頷いた。


 ガーティブは傷を負って悲鳴を上げている体のどこからか、力が湧いてくるのを感じていた。そして、理性が吹き飛びそうな感覚も覚えていた。


「そうだ……まだ理性が残っているうちに……」


 そう呟くと、ガーティブは携帯電話を手にし、部下に連絡を始めた。




 シブヤ島の外。ガーティブの傘下の海賊団、ブラックソードがシーポリスの戦士と激しく戦っていた。


「おい! 弾薬はどこだ!」


「もう底が尽きそうだ! あんまり派手に使うんじゃねーぞ!」


 ブラックソードの一人が、仲間から弾薬が入ったマガジンを手にし、迫ってくるシーポリスの戦士に向かって発砲した。だが、上空から火の矢が飛んできた。


「うわァァァァァ!」


「あいつら、クソみたいなことをしやがる!」


「一旦退避! 下がって態勢を整えるぞ!」


 攻撃を受けたブラックソードの船員たちは、バリアを張りつつ後ろに下がった。安全な場所に避難したブラックソードの船員たちは、この時間を利用して治療を行ったり、レーションを食べていた。


「早く美味い肉でも食べたいぜ。レーションは口に合わない」


「文句を言わずに食え。何かを食べることができるってことを幸せに感じろ」


「確かにそうだな。死んだら食う幸せを感じることができない」


 船員たちが話をしていると、リーダー格の船員から音が鳴り響いた。リーダー格の船員は携帯電話を取り出し、周りの船員に静かにするように告げた。


「静かにしてくれ。ガーティブさんからだ」


 と言って、通話ボタンを押した。


「もしもし。周りに皆はいますか?」


「はい。一部、シーポリスにやられた奴もいますが……」


「分かった。じゃあ皆にメッセージがあるから、スピーカーにしてくれ」


「は……はい」


 リーダー格の船員は、ガーティブの言われた通りに通話をスピーカーにし、この場にいる船員に話が通じやすいようにした。携帯電話から、苦しそうに咳き込むガーティブの声が聞こえた後、話が始まった。


「僕は追い込まれた状態だ。ピラータ海賊団の手によって、死ぬ一歩手前の怪我を受けた」


 この言葉を聞き、船員たちは驚きの声を上げた。


「ガーティブさん! 死ぬ一歩手前って……」


「捕まる可能性が高いってわけだ。だけど、このまま黙ってやられる僕じゃない。最期の悪あがきを行った」


「最期の悪あがき? もしかしてガーティブさん、イコルパワーを使ったんですか!」


 この言葉の後、沈黙が空気を支配した。しばらくして、スピーカーからセアンの声が聞こえた。


「私たちが攻撃してるのに、会話をする余裕があるのね!」


 セアンの声の後、カトラスが振り下ろされる音が響いた。それからしばらくはガーティブの声は聞こえなかったが、後ずさりする音が聞こえた後、ガーティブの声が聞こえた。


「イコルパワーを使ったんだ。少量だけど、酷い怪我を受けた僕が使ったから、多分しばらくしたら死ぬと思う。理性も吹き飛びそうだ」


「そんな……」


「だから、理性が完全に吹き飛ぶ前に、君たちに言うことがあってね……」


「はい! 何でも言ってください!」


 リーダー格の船員がこう言った後、ガーティブは小さく笑った。


「何が何でもここから逃げろ。これが……最期の命令だ」


 そう言った後、ガーティブの連絡が途絶えた。船員たちはしばらく黙った後、立ち上がった。


「おし皆、ここから逃げるぞ」


「ああ。ガーティブさんからの最期の命令、確実に耳にした!」


「行くぞ! ここから脱出するんだ!」


 船員たちは大声を発した後、必要最低限の荷物を持って走って去って行った。


 シーポリスの戦士たちは、逃げだしたブラックソードの船員たちを見て、驚いた。だが、リーダー格の戦士が息を吸ってこう言った。


「あいつらが何をするか分からん! 変な行動をされる前に、あいつらを倒せ!」


「ハッ!」


 シーポリスの戦士たちは返事をした後、逃げだしたブラックソードの船員たちを追いかけ始めた。ブラックソードの船員たちは、後ろからシーポリスの戦士たちが追いかけてくることを察し、話し始めた。


「おい! あいつらが追いかけてくるぞ!」


「今の俺たちじゃ太刀打ちできない! とにかく船まで逃げろ!」


「あいつらがいる可能性があるけど、どうする?」


「無理矢理逃げるだけだ!」


 その直後、後ろから無数の発砲音が響いた。ブラックソードのリーダー格の船員は横にいた仲間が撃たれて倒れるのを見て、驚いて立ち止まった。だが、表情を変えて叫んだ。


「逃げろォォォォォ!」


 その後、ブラックソードの船員たちは仲間が撃たれても、ガーティブに言われた通りに逃げるために走った。シーポリスの戦士たちは大声を発して逃げるブラックソードの船員たちを見て、動揺していた。


「あいつら、何で大声を発しながら逃げているんだ?」


「分からん。だが、とにかく倒せ!」


 会話をしている中、倒れているブラックソードの船員が、シーポリスの戦士の足を掴み、転倒させた。


「へへ……この先に行かせるかよ」


 と、苦しそうに笑いながらブラックソードの船員はこう言った。その笑みを見て、苛立ったシーポリスの戦士は、持っていた武器をそのブラックソードの船員に突き刺した。




 生き残ったブラックソードの船員たちは、自分たちの船を止めている港に到着した。だが、船はすでにシーポリスの攻撃を受け、沈んでいた。


「俺たちの船が……」


「逃げ足を潰したってわけか」


 ブラックソードの船員たちは、目の前にいる銃を構えたシーポリスの戦士を見てこう言った。だが、リーダー格の船員は大声で叫んだ。


「こうなったら、あいつらの船を奪って逃げるぞ!」


「おう!」


 その後、ブラックソードの船員たちは、シーポリスの戦士に襲い掛かった。安物の剣や低品質のハンドガンを使って攻撃を仕掛けたのだが、その攻撃はシーポリスの戦士には通用しなかった。魔力による攻撃で安物の剣は破壊され、低品質のハンドガンは一発撃っただけで部品が吹き飛び、使い物にならなくなった。そんな状態でも、ブラックソードの船員たちは、逃げるために戦った。


「うォォォォォ!」


 リーダー格の船員は、大声を発しながら近くにいたシーポリスの戦士に殴りかかった。攻撃は命中し、シーポリスの戦士を後ろに転倒させた。だが、別のシーポリスの戦士がリーダー格の船員を取り囲み、槍で突き刺した。


「ガッ……」


「貴様ら悪人に、逃げる道はない」


「このまま大人しくしろ」


 シーポリスの戦士は、血を流しているリーダー格の船員に向かってこう言った。それでも、リーダー格の船員は足を動かし、シーポリスの船に向かって歩き続けた。


「悪いが……ガーティブさんからの最期の命令なんでね……ここで……くたばるわけにはいかねーんだよ」


 と言って、苦しそうに血を吐きながらリーダー格の船員は歩き続けた。シーポリスの戦士はため息を吐き、アサルトライフルを構えた。それからすぐ、発砲音が響いた。


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