最期の悪あがき
カイトはセアンからカトラスを借り、二刀流剣術でロスを追い詰めた。これ以上傷を受けたら確実にやられると察したロスは、ポケットからある物を取り出した。それは、錠剤のイコルパワーだった。イコルパワーを見たカイトは驚き、ロスを止めようとした。だが、その前にロスはイコルパワーを口の中に入れていた。
「なっ! それって……」
「察したようだな。その通り、錠剤のイコルパワーだよ」
と言って、ロスはイコルパワーを飲み込んだ。カイトはイコルパワーが効果を発揮する前にロスを倒そうと考え、刀を振り下ろした。しかし、ロスは左腕を上に上げ、カイトの攻撃を受け止めた。
「チッ! イコルパワーが!」
「カイト!」
状況を把握したセアンが、カイトに近付いた。カイトはカトラスをセアンに渡し、セアンはカトラスを横に振るってロスに攻撃を仕掛けた。だが、カトラスに斬りつけられても、ロスは反応しなかった。
「さて……そろそろ理性とのお別れの時間が近付いてきたようだねぇ……」
ロスがこう言った直後、ロスは大きな叫び声をあげた。
「カイト、セアン! 下がって!」
後ろにいたコスタが、大きな声でこう言った。声を聞いたカイトとセアンは後ろに下がり、コスタはスナイパーライフルでロスを撃った。ロスは飛んでくる弾丸を右手で受け止めた。その後、ロスは目にも見えない速さでセアンに迫っていた。
「なっ!」
セアンは後ろを振り返り、魔力を開放して風の刃を放った。だが、ロスは風の刃を受けてもひるむことはなく、セアンを押し倒した。
「セアン!」
カイトはセアンの危機を察し、ロスの頭に向かって刀を振るった。ロスは刀が迫っていることを察し、口で刀を受け止めた。
「うげぇ……そんな方法で攻撃を受け止めるなよ……」
「ぐがァァァァァ!」
ロスは大声を上げ、カイトに襲い掛かった。その途中、ケアノスとライアが協力して巨大な風の刃を放った。巨大な風の刃はロスに命中し、後ろに吹き飛ばした。起き上がったロスは、うなり声を発してカイトたちを睨んだ。その時、メリスがロスに接近し、素早く切りつけた。
少しでもいいから、ダメージを受けなさい!
と、メリスはこう思った。だが、ロスは余裕の笑みを浮かび、メリスの方を見つめた。攻撃がくると察したメリスは後ろに下がったが、ロスの腕がメリスに向かって伸びていた。その時、上から大剣を構えたラージュが現れ、ロスを斬った。
「えげつない攻撃はしたくないけど」
と言って、ロスを蹴り飛ばした。しかし、ロスはすぐに立ち上がり、叫び声をあげた。
イコルパワーを使ったロスは、ただひたすら叫び声をあげていた。そんな中、過去の映像が目に浮かんでいた。
あれ? これは……昔の俺じゃねーか。
ロスは目に映る映像を見て、こう思った。それは、昔の傭兵時代の自分だった。昔、ロスは各地の戦場を巡る傭兵だった。金のために人を殺していた時代。ロスにとってもあまり美しくない思い出だった。クソみたいだとロスは思っていたが、急に目の前が真っ白になった。
おいおい、もう死ぬのか、俺は?
ロスはそう思っていると、突如目の前にカイトたちの顔が映った。
ん? ああ、一瞬だけ我に戻ったのか。にしても、とにかくこいつらを殺したくてしょうがない。イコルパワーのせいで、本能が前に出てるな。
叫び声をあげつつも、ロスはこう思った。カイトが声を上げながら迫ってきて、刀を振り下ろした。刀は確実にロスの体に命中したのだが、痛みどころか、刀が体に命中した感覚を感じなかった。
こりゃーすげぇ、イコルパワーを使えば本当に何も感じないのか。
イコルパワーの凄さ、恐ろしさを知ったロスは、笑みを浮かべた。だがその時、再び目の前が真っ白になった。それからしばらくして、再び目の前の光景が映った。それは、ある人物と初めて会う時の光景だった。当時は長年戦争がなく、傭兵家業をしていたロスは暇を持て余していた。そんな中、黒いローブを羽織った人物が当時住んでいたロスの家にやってきた。
「汚い部屋ね」
「おいおい、勝手に人の家に入って発する第一声がそれか?」
ロスは近くに置いてあった槍を手にし、黒いローブを羽織った人物に近付いた。その時、ロスは香水の匂いを嗅ぎ、笑みを浮かべた。
「ピチティーア製の香水か。あれは女性がよく付ける香水だ。あんたは女だな」
「そうよ」
黒いローブを羽織った女性はそう言うと、ロスに向かって手を伸ばした。
「私の組織に入らないか?」
「何だ? 宗教のお誘いか? 悪いが俺は神様っつー存在を信じない。もしいたら、そいつはとんでもなく性格が悪い」
「宗教ではない。海賊稼業だ」
「ハハッ。近頃の海賊は、宗教の活動もやっているのか?」
「やる気がないのは伝わった。今、あなたは暇でしょう?」
「確かに暇だ。次に戦争が起こるまではな」
「戦争はいつ起こるか分からない。それなら、確実に稼げる場所が欲しいだろう?」
「まーな。それより、どうして俺みたいな傭兵を海賊に誘う?」
「あなたの話を聞いたのよ。凄腕の槍使いがいるって」
「へっ、槍を使って戦う奴はこの世に五万はいるぜ」
「一本の槍で銃を持った軍団に突っ込み、全滅させたって聞いたわ」
「おいおい、俺の武勇伝を知っているのか」
それから少し話に間があった。ロスはコップに酒を注ぎ、飲みながらこう言った。
「なぁ、あんたの海賊はちゃんと給料が出るのか?」
「働けばその分出る」
「そうか……なら、暇つぶしにはちょうどいいかもな」
と言って、ロスは笑みを浮かべた。その後、ロスは海賊になって各地で暴れた。その結果、ロスはブラッディクローの幹部に上り詰めた。
カイトは刀を振り終え、ロスを見た。
「これだけ攻撃しても……まだ倒れないのか」
「そうだね……結構体力使ったのに」
「そろそろ倒れないかなー」
なかなか倒れないロスを見て、カイトたちは呟いた。そんな中、ラージュはロスの様子を見て何かを察し、近くにいたメリスにこう言った。
「動きが鈍くなっているわ。そろそろ倒れるかもしれないわ」
「そうですか……確かに、さっきより動きの切れが悪くなりましたし」
メリスが言葉を返した瞬間、ロスの右肩が風船のように膨らんだ。それからも、体の一部分が膨らみ始めた。
「あれって……」
「イコルパワーのせいね。力が強くなりすぎて、体が耐えられないのよ」
「相変わらずイコルパワーには、致命的な欠点があるんだね」
「そうよライア。欠点は必ずあるのよ」
ラージュはため息を吐いてこう言った。その時、ロスは近くにいるセアンを見て、笑みを浮かべて歩き始めた。
「ゲェッ! なんか私の方を見て笑ってるんだけど。気持ち悪い!」
「セアン、逃げろ!」
カイトはセアンに近付き、手を引いて後ろに下がろうとした。その時、ロスは叫び声を上げながらセアンに飛びついた。だが、間一髪でカイトがセアンの手を引いたため、ロスはその場に転倒した。
「こいつ、私を襲おうとしたわね」
「その通り」
と、ロスがこう言った。ロスの返事を聞いたカイトたちは、目を丸くして驚いた。
「最期の最期に、一瞬だけ我に戻ったんだよ。こりゃー酷い。走馬灯が流れたよ」
「あっそう。でも、私を襲おうとしたわね」
セアンの言葉を聞き、ロスは笑って言葉を返した。
「そりゃーねぇ。死ぬ前に、カワイ子ちゃんのおっぱいをもみもみしたいからねぇ」
「ふざけんじゃないわよ、スケベ野郎。悪党は望む死に方ができないってことを覚えておきなさいよ」
「確かにね……あーあ、こんな死に方じゃ……リラゴの奴に叱られるなぁ」
ロスがこう呟いた直後、体中が破裂した。
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