愚者の末路
カイトたちは次に向かった部屋で、針天井の罠にかかってしまった。カイトの機転で水を凍らせて氷の柱を作り、落下してくる針天井の動きを止めた。天井の動きを止めるかもしれないスイッチを見つけ、セアンは急いでスイッチを押しに向かった。
「うう……鋭そうな針だな。ちょっとでも突かれたら怪我するよね、これ。気を付けないと」
スイッチの元へ向かう中、セアンは針を見てその鋭さを確認した。もし、カイトが針天井を止めなかったらこの鋭い針で刺され、体中が穴だらけ。そう思うだけで、セアンの背筋が凍った。その時、ケアノスの声が響いた。
「早くしてセアン! カイトの魔力がなくなりそう! カイトの魔力がなくなったら皆穴だらけの上ペッタンコになるわよ!」
「おっと! 待っていてね! カイト、もうちょっと踏ん張って!」
「おう……頼むぞ、セアン……」
カイトは体を痙攣させながら返事をした。カイトの体力と魔力が限界なのを察し、ケアノスとライアが急いでカイトに応援を始めた。その様子を見たセアンは急いでスイッチの元へ向かい、天井のスイッチを押した。何かが外れる音が聞こえた後、大きな音を立てながら針天井は上へ上がって行った。
「た……助かった……死ぬかと思った……」
ライアは上がって行く針天井を見て、安堵の息を吐きつつその場に座り込んだ。カイトは疲れ果て、その場で倒れてしまった。
「カイト!」
心配したコスタが近付いて様子を見たが、カイトは震える手でコスタの手を触りながら、こう言った。
「大丈夫だ……かなり腹が減っただけ。それと、体がだるい」
「長時間強い魔力を使ったから、カロリーも使って体力も使ったのよ。コスタ、手伝って。カイトを起こすわよ」
「うん。カイト、私とケアノスの手をちゃんと掴んでね」
ケアノスはコスタと協力し、カイトを担いだ。ラージュは周囲を見回し、扉を見つけて指差した。
「さ、早く行きましょう。まだまだ先があるわよ」
その後、カイトたちは何とか針天井の部屋から抜け出すことに成功した。部屋の外に出た後、その場でカイトたちは休憩することにした。カイトは持ってきたチョコレートバーを食べながら、周囲を見回した。
「それにしても、この洞窟の中って結構骨が落ちているな。俺たちがここに来る以前に誰か来たのかな」
「そうだね。骨が散乱しているってことは、死んだ人がいっぱいいるってことだよね……物騒だね」
セアンはそう言いながら地面を見回した。すると、床に落ちている物を見つけて手に取った。
「ほら、ここにも手の骨が落ちている。人体破裂するような罠があったのかな?」
「ちょっと、手の骨を自慢するかのように見せないでよ。怖くなっちゃうじゃない」
ケアノスはセアンが持つ手の骨を見て、怖そうに後ろに下がった。その時、何かが当たってケアノスの背中にぶつかった。
「うん? 何か変な感触がしたんだけど」
「あーっとケアノス、見ない方がいいかも。物騒だから」
コスタがこう言ったが、その言葉を聞く前にケアノスは背中にぶつかった物を見てしまった。それは、服のような物を纏ったガイコツだった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア! ガイコツゥゥゥゥ!」
ケアノスは絶叫のような悲鳴を上げ、カイトの元へ抱き着いた。カイトはケアノスを怖がらせないように頭を撫で、地面に倒れたガイコツを調べた。
「こいつだけ人の形を保っているな。服も着ているし、骨もちゃんとくっついてる」
「おっ、こいつ結構大きい宝石の指輪付けている。もーらい。儲け儲け」
セアンはガイコツの指の指輪を抜き取り、満足そうに背中のリュックに入れていた。指輪の他にもそのガイコツは純金のネックレス、宝石が埋め込まれた腕輪を身に着けていた。それらを見たセアンは、ラッキーと言いつつそれらもリュックに入れていた。この行為を見たカイトはセアンに近付き、こう言った。
「おいおい、死体から物を盗むなよ。呪われるぞ」
「死人に口なし、大分前の死体だから文句は言えないよ。それと、私は呪いの類とか信じないタイプだから」
「カイトの言う通りよ。それで祟られても私は知らないわよ」
ため息を吐きつつ、ケアノスはガイコツの方を見た。だがその直後、ケアノスの動きが固まった。しばらくした後、ケアノスはガイコツが身に着けていた小さなマントを剥ぎ取り、マントに描かれていた紋章を見た。その紋章を見たカイトは何が何だか分からず、ケアノスにこう聞いた。
「これ何の紋章だ? 何かダサいデザインだな」
「ブラッディークロー……あいつら、やっぱり洞窟に来たのね」
ブラッディークロー。その名を聞き、カイトは動揺した。セアンたちの故郷を滅ぼした海賊団の死体が、この洞窟にあったのだ。だが、セアンは左手にハンドガンを装備し、ガイコツの頭を撃ち抜いた。
「さて、これで気は済んだ。奴らがここに来て、全滅したのは確か。皆、あんな奴らのことなんて忘れて先に行こう」
セアンはハンドガンの銃口から発する煙を息で吹き消し、カイトたちにこう言った。カイトはセアンの近くに向かったが、コスタたちはガイコツに向かって踏んだり蹴ったりしていた。
「弾丸一発打ち込むだけじゃあ気が済まない!」
「やるんだったら徹底的に死体蹴りしてやるわ!」
「死体になっても蹴られるだなんてこいつは思ってもなさそうだね!」
「死体だから、何も思ってもいないし、何も考えられないわよ」
声を荒げながらガイコツに攻撃するコスタたちを見て、カイトは止めさせようとした。だが、セアンがカイトを止めてこう言った。
「もうちょっと待ってあげて。コスタたちも私と同じようにブラッディークローに恨みがあるから」
「そうだな……もうちょっと待つか」
カイトはそう答えると、コスタたちを見つめた。コスタたちの気が済むまでは、十分ほど時間を使った。
その後、カイトたちは次の部屋へ向かった。先ほどと同じようにブラッディークローの団員らしきガイコツが廊下に散乱していたが、それらを見つけるたびにセアンは宝がないか探っていた。セアンがガイコツを漁る中、カイトはある疑問が浮かび、近くにいたコスタとラージュに話しかけた。
「なぁ。何でブラッディークローの奴らはここで死んだのかな? 強い奴らだと俺は思ってたけど、こんな簡単にあっさり死ぬのか?」
「私の想像だけど、体力的に疲れた上、キツイ試練で精神的に追い詰められて気が狂い、同士討ちや異常行動を起こしたのよ。これ見て」
と、ラージュは壁の弾痕を指差した。その他にも、弾痕は周囲の壁に付いており、弾痕の他にも剣で付けられたような傷があった。その傷の周りには血の跡が残っており、地面にも血の跡が散乱していた。ライアはランプでそれらを照らしながらこう言った。
「キツイ試練を乗り越えても、その中で仲間が死に、そのせいでおかしくなって暴走。ラージュの言っていることが正しいかもしれないね」
「奴らはここの洞窟を甘く見ていたかもしれないわね。ま、奴らがどうなろうが私の知ったことではないけど」
「ブラッディークローが憎いのは知っているけど……まぁ、こんな所で悲惨な最期を迎えるのはちょっとかわいそうな気がするけど……」
カイトはたとえ憎い相手でも、悲惨な死にざまをするのはかわいそうだと思った。だが、相手はセアンたちの故郷を滅ぼし、罪のない人々を殺した危ない海賊団。因果応報だなと思いつつ、カイトは落ちているガイコツを見つめた。その時だった。突如周囲から魔力を感じたのだ。その時、セアンの悲鳴が聞こえた。
俺の作品で出てくる敵の最期が悲惨なものが多いのは、悪いことをすればいずれその分の罰を受けるという考えがあるからです。なので、本当に下種でクソと言われそうな悪役は大体死んでいます。なので読者の皆も悪いことをするなよ。やったらちゃんと謝れ。それが人としての常識だからな!
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