怒りの猛攻
怒りが爆発したセアンは、手にしている愛用のカトラスで、リラゴの腹を突き刺していた。攻撃を受けた直後、リラゴは動揺していた。だが、動揺はすぐに収まり、その感情は喜びへと変わっていた。
「いいねぇ……やっぱり、戦いってのはこうでなくちゃいけないねぇ……」
「なっ!」
リラゴが笑みを浮かべるのを見たセアンは、動揺して声を出した。リラゴはカトラスの葉を掴み、一気に引き抜いた。リラゴの腹から大量に血が流れたが、それでもリラゴは笑みを崩さなかった。
「この私にこれだけ大きなダメージを与えるのは、あんたが初めてだよ。興奮してきたよ。もっと……もっともっと私を楽しませろよ!」
と言って、リラゴはセアンに向かって体当たりを仕掛けた。リラゴの体に激突したセアンは後ろに吹き飛び、壁にぶつかった。
「セアン!」
援護にきたライアは、急いでセアンの元へ向かった。セアンはライアの肩を借り、ゆっくりと立ち上がった。
「あいつ……本当に何なの? カトラスで突き刺しても、倒れない」
「それどころか、攻撃されたことを喜んでるよ。あの人、マゾだよ」
「話を聞く限り、初めて大きな痛手を負ったから、それで喜んでいると思うわ」
ラージュが近付き、急いでセアンの治療を始めた。治療中、ライアはリラゴが攻撃を仕掛けてくると考え、ナイフを構えていた。だが、リラゴは攻撃を仕掛けてこなかった。
「私が攻撃しないのを不審に思っているようだね。安心しな。私は長く戦いを楽しみたいだけだ。治療の邪魔なんて、そんな野暮なことはしないよ」
「ありがたいのか、ありがたくないのか……」
リラゴの言葉を聞いたライアは、呆れながらこう言った。
数分後、治療を終えたセアンは、カトラスとハンドガンを手にしてリラゴの元へ向かった。
「カイトたちをよくもやったわね。もう一度、ぶっ飛ばしてやるわよ」
「そうだ。もっと私に怒りをぶつけろ。もっと私を楽しませろ」
「へぇ。それじゃあ、お望み通りもっと楽しい戦いにしてやるわよ!」
セアンはカトラスを手にし、斬りかかった。リラゴの右胸のあたりでカトラスの刃が止まり、セアンは驚いた。
「どんだけ筋肉が固いのよ!」
「とりあえず、鋼鉄より硬いんじゃないかな?」
得意げにリラゴはそう言うと、近くにいるセアンに向かって左の拳を放った。攻撃を受けたセアンは後ろに吹き飛び、その後を追うおようにリラゴは走り始めた。だが、行く手を阻むように、大剣を持ったラージュが現れた。
「ヒーラーじゃないのかよ、お前は」
「ヒーラーよ。でも、いざって時は前に出て戦うわ」
リラゴにそう言って、ラージュは大剣を振り下ろした。リラゴは両腕でラージュの攻撃を防御したのだが、動きを封じられたその時にナイフを持ったライアが接近した。
「これでも喰らえ!」
がら空きのリラゴの腹に向かって、ライアは何度もナイフを振るった。ナイフの刃はリラゴに命中しているのだが、傷が付くことはなかった。
「嘘……」
「ナイフの攻撃か。いい素材を使ったナイフだが、そんな攻撃じゃあ私にダメージは与えられないなぁ!」
リラゴは叫びながら、ライアの腹に向かって右足の蹴りを放った。蹴りを受けたライアは力強く蹴り飛ばされたサッカーボールのように飛び、壁に激突した。
「ライア!」
攻撃を受けて吹き飛び、立ち上がろうとしていたセアンが壁に激突したライアを見て、叫んだ。ライアは床の上に落ち、そのまま気を失った。
「ライア……グッ! よくも!」
セアンはハンドガンを強く握り、リラゴに向かって発砲した。リラゴは目の前にいるラージュを魔力の衝撃波で吹き飛ばした後、飛んでくる弾丸を腹で受け止めた。
「分からないのかい? さっき、私が弾の攻撃を受け止めたことを理解しなかったのかい?」
「ただの弾丸だと思った?」
にやりと笑いながら、セアンがこう言った。不審に思ったリラゴだったが、その直後、掴んでいた弾丸が光り出して爆発し、煙が発した。
「おわっぷ!」
毒ガスか催涙ガスの類かと考えたリラゴだったが、その予想に反して特に何もなかった。
「グッ! ごまかすつもりかい」
リラゴは煙を払いながら叫んだ。その直後、リラゴは腹から強烈な痛みを感じた。一瞬だけ目を離していたラージュが、魔力を開放して大剣を振り下ろしていたのだ。
「これでダメージを受けたのは、二度目ね」
リラゴは察した。セアンが煙球を発してリラゴの視界を奪い、その隙にラージュが態勢を整えて、強烈な一閃を与えたのだと。
「この一瞬で、よくもここまで考えるね。だけど、これで倒れる私じゃないよ!」
リラゴは魔力を開放し、近くにいるラージュに向かって右ストレートを放った。
「アガァッ!」
攻撃を受けたラージュは、悲鳴を上げながら壁に向かって吹き飛んだ。次に攻撃されるのは私だと察したセアンは、カトラスを構えて迫ってくるリラゴを睨んだ。
「次はお前だァァァァァァァァァァ!」
「やられるのはあんたよ!」
叫びながら迫ってくるリラゴを見て、セアンは叫んだ。セアンに接近したリラゴは、左手をセアンの首に向かって伸ばした。首を掴もうとすると察したセアンは、リラゴの左腕に向かってカトラスを振るった。カトラスの刃はリラゴの左腕に命中したのだが、それでもリラゴの動きは止まらなかった。
「嘘!」
「捕まえた!」
リラゴの左手はセアンの首を掴み、そのまま持ち上げた。
「あ……あぐあ……あ……がぁ……」
「いろいろ策を練って攻撃したようだけど、残念だったねぇ。どれもこれも不発のようで!」
苦しそうな顔をするセアンを見ながら、リラゴは笑ってこう言った。セアンは何とかリラゴの左手から逃れようとしたのだが、リラゴの左手の握力が強く、話そうとはしなかった。そして、息苦しいせいで、セアンの体中の力が、徐々に抜けていた。
まずい……このままだと……殺される。
セアンは心の中で、死を意識した。何とかこの状況を打破するために、セアンはどうするか考えた。ギンヤシャはこの戦いに不介入。ライアとラージュは大きなダメージを受け、行動できない。今の状況、セアンを助ける戦士は誰一人いない。
ギンヤシャ……せめて、あの人が助けてくれれば……。
セアンは心の中でこう思いながら、鼻をほじっているギンヤシャを見た。その時だった。出入り口の方から刃の衝撃波が飛んできて、リラゴに命中したのだ。
「なぁっ!」
いきなり攻撃されたため、驚いたリラゴはセアンの首から左手を話してしまった。床の上に落ちたセアンは、咳き込みながらも状況を確認した。出入り口には、カイトとコスタとケアノス、そしてメリスがいたのだ。
「カイト、コスタ、ケアノス……生きてたんだ」
「今助けるわ、セアン」
メリスは苦しそうな表情のセアンに近付き、治療を始めた。コスタとケアノスは気を失っているライアとラージュに近付き、治療を始めた。リラゴは刀を持って自身の前に立つカイトを見て、にやりと笑っていた。
「やっぱり私の予想通り、またやってきたね」
「当り前だ。まだ俺たちは戦えるからな」
と言って、カイトは素早く刀を振り下ろした。リラゴは両腕でカイトの攻撃を防御したのだが、リラゴの両腕から血が発した。
「私の防御を貫通しただと!」
「今はセアンたちがあんたに痛めつけられたせいで、怒りが爆発してるんだよ。そのせいか、結構攻撃力が上がってるみたいでな」
カイトは静かにこう言うと、リラゴの腹に向かって刀を突き刺した。攻撃を受ける寸前、リラゴは魔力を使って腹を防御した。
「へぇ……さっきと違うって言いたいみたいだね」
「その通りだゴリラ女。このままお前をぶっ倒してやる!」
カイトは魔力を開放し、こう叫んだ。
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