次の試練
アマーンスパイダーとの戦いを終えて濡れた服を乾かし、着替えを終えたカイトたちは先へ進んだ。カイトはまたアマーンスパイダーに襲われるかもしれないと思い、時折上を見ながら歩いていた。そんな中、ライアがこう言った。
「もしかしたら、試練ってまだあるのかなー?」
「あれで終わりじゃないわよ。まだあると思った方がいいわ」
「うげー。やっぱりそんな簡単に創造の力は手に入らないかー」
ケアノスとライアの会話を聞いたカイトも、ケアノスが話した内容と同じことを思った。閉じ込められて海水まみれになるだけが試練なわけがない。あれ以上にキツイ試練があるだろうと考えていた。だが、セアンが笑いながらこう言った。
「大丈夫だって。どんな試練が来ても私たちなら対処できるって! さっきみたいにクリアできるよ!」
気楽にそう言っていたが、コスタが何かを見つけてこう言った。
「これを見てもさっきと同じことを言えるの?」
「何これ? 変な形の石だね」
「石じゃないよ。これ、人骨よ。多分、前にこの洞窟に忍び込んだ人ね」
通路に落ちていた人骨を見て、セアンは言葉を失ったが、少ししてまた笑いながらこう言った。
「な……なはは! 大丈夫だって! 多分ね」
「多分って……あんまり自信がない時に言う言葉よね、それ」
ラージュはため息を吐きながら呟いた。話をしていると、広い部屋に到着した。カイトは何かあると思い、周囲を見回したが何もなかった。しかし、油断していたら最初の試練のように閉じ込められるとカイトは考えた。
「俺が見てくる。何かあったら動いてくれ」
「うん、気を付けてねカイト」
セアンに見送られた後、カイトは先に部屋の中を歩き始めた。何かないか周囲を見回しながら歩いた。足元もスイッチのような物はなく、壁にも海水が注ぎ込まれるような仕掛けはなかった。ただ、上の方が暗くて天井は確認できなかった。その後、異常はないと察したセアンたちカイトに近付いた。カイトは天井を指差してこう言った。
「天井は見えないけど……いいのか?」
「うーん、何かありそうだけど……気を付けた方がいいわね」
ケアノスはカイトの話を聞き、何かあるだろうと考えた。コスタが天井に向けてスナイパーライフルを構えたが、ケアノスはコスタに止めるように告げた。
「とりあえず向こうまで行きましょう。何もないなら、こんな部屋に長居する必要はないわ」
ラージュが指さす方向には、扉のような物があった。とにかく先に行こうと考えたセアンたちは部屋に入った。だがその時、扉に鉄格子が降りた。
「うえ……うええええええええええええええええ!」
「やっぱりこうなった。閉じ込められたね」
「冷静になっている場合じゃないわよ、コスタ! 早く鉄格子をどかさないと!」
落ちてきた鉄格子を見ても落ち着いているコスタに対し、ケアノスは慌てながらこう言った。カイトとセアンとライアは鉄格子を上に引っ張って無理矢理上げようとしたが、鉄格子は上がらなかった。
「ぐぐぐ……全然上がらん」
「重いよこれ。三人で持ち上がらないって……」
「うーごーいーてー!」
三人はさらに力を込めたが、鉄格子が動くことはなかった。しばらくして、力の限界に近付いた三人は後ろに下がって座り込んだ。
「どいて。こいつでぶっ飛ばす! 上がらないなら、壊して先に進むのに限る!」
ラージュは大剣を構えて鉄格子に向けて振るった。だが、分厚い刃が命中しても鉄格子は壊れなかった。それどころか、ラージュは痛そうに手を振るった。
「いった~い。なんなのよ、あの鉄格子。滅茶苦茶固い」
「大丈夫か? すごい音が響いたぞ」
心配したカイトが、ラージュの手を握った。ラージュはカイトの顔を見ながら、安堵した笑みでこう言った。
「ありがとカイト。しばらくしたら痺れは収まるから」
「そうか。大きな怪我をしたとかじゃなくてよかったよ」
「カイト、ラージュが無事なのはよかったけど……この状況は全然よくないわよ」
天井を見上げたケアノスが、顔面蒼白でこう言った。一体何があるのだと思ったカイトとラージュは天井を見上げ、ケアノスと同じように顔面蒼白になった。二人が言葉を失い、顔の色が変わったので、気になったセアンは近付いた。
「どうしたの? 顔が真っ白だよ。何かあったの?」
「セアン……上を見て……」
「上? 何かあったの?」
上を見たセアンは、落ちてくる物を見て悲鳴を上げた。その悲鳴を聞いたコスタとライアも上を見上げ、言葉を失った。
「ウゲェェェ! は……針が落ちて来た!」
上から針天井が迫ってきていると察し、セアンは叫んだ。コスタとライアは目を開けて立ち止まり、ケアノスは悲鳴を上げて戸惑った。そんな中、ラージュは小さく呟いた。
「似たような仕掛けが多いわね、ほんと」
カイトと元々冷静だったラージュは慌て始めたセアンたちよりも我に戻り、この状況をどう打破するか考えた。まさか針天井が落下してくるとは思わなかった。しかし、先の海水の仕掛けのようにこの部屋のどこかに仕掛けを解除するスイッチがある。そう思ったカイトとラージュは周囲を見回した。
「皆! さっきの部屋のことを思い出してくれ! あの部屋みたいに仕掛けを解除するスイッチか何かがあるはずだ!」
この言葉を聞いたセアンとケアノスは我に戻り、茫然としているコスタとライアの体を揺さぶった。
「そうだ! きっと何かがあるはず!」
「怪しいものがあったらすぐに知らせて!」
我に戻ったコスタとライアも、急いでスイッチを探した。しかし、どこを探してもスイッチのような物は見当たらなかった。探している時間が過ぎた結果、針天井は部屋の半分まで落下していた。
「うわあああああああああ! 刺される!」
「よく見ると針の部分が血に染まっている。私たちもいずれ……あは……あはははは」
「ライア! そんなこと考えちゃダメだよ! 我に戻って!」
ケアノスはライアにこう言うと、慌てながら周囲を見回した。その時、何かを見つけた。
「おーい! こっちの方に仕掛けがあったよ!」
そう言うセアンの指先は、針と針の間を指差していた。カイトが目を凝らして見てみると、そこにはスイッチのような物があった。
「よし、俺が押してくる! あれを押せば多分止まる!」
と言って、カイトは走り出そうとした。だが、急に針天井の落下速度が上昇した。
「ちょっと! 落ちる速度が速くなったわ!」
「や……ヤベェ! そんなのありかよ!」
このままだと、スイッチを押す前に刺された上に圧迫されてしまう。そう思ったカイトは、一か八かの賭けに出た。カイトは水の魔力を開放し、水柱を発した。
「何をするつもり、カイト?」
「水を操ることができるなら、出す以外にも水の温度を変えることができると思う……それなら、水を凍らせて柱にできるはず!」
ケアノスに答えながら、カイトは発する水に氷るように念じた。その念が通ったのか、水は瞬時に凍り、針天井の動きを止めた。この光景を見たライアは、安堵したのかその場に座り込んだ。
「た……助かった……ナイス判断よカイト」
「いや……まだ助かってない……」
と、カイトは苦しそうな表情で答えた。コスタはあることに気付き、カイトに近付いた。
「魔力を使って水を操っている分、魔力の消耗が激しいのね」
「え。それじゃあカイトの魔力が切れたら……」
「また針が落ちてくるのね」
話を聞いたセアンは、すぐに走り出した。
「カイト、もう少し踏ん張って! 私がボタンを押しに行く!」
「頼む……セアン……」
走り出したセアンの方を向き、カイトは苦しそうな表情でこう言った。




