見えない速度の攻撃
セアンとナバナの戦いは終わった。ライアと戦っている女戦士、ユングは床の上に倒れているナバナを見て、舌打ちをしながら心の中でこう思っていた。
あのロックバカ！ ふざけた戦い方をするからこうなるんだ！
その時、ライアがナイフを振り回しながらユングに襲い掛かった。ユングはライアの攻撃をかわし、火の球体を発してライアに攻撃を仕掛けた。
「おわっと！」
ライアは飛んでくる火の球体をかわし、ユングに接近した。その行動を予測していたユングは、ライアに攻撃を仕掛ける体制になっていた。
「見え見えだよ、お前の動きはよぉ！」
と言って、ユングはライアに向かって大きな腕で攻撃を仕掛けた。
「うわっ！ でかい腕！」
ライアはユングの大きな腕に驚きつつも、ナイフを使って防御をした。ナイフの刃の向きを見たユングは、途中で動きを止めた。
「攻撃を防ぐように見せかけて、そのナイフで私の腕を突き刺そうとしたのね」
「あちゃー、ばれちゃったか。でも、動きを止めたのは不正解だと思うね！」
と言って、ライアは魔力を開放し、ユングに向かって突進を仕掛けた。ライアの攻撃速度を見たユングは驚き、攻撃をかわすことができなかった。その結果、ライアの二本のナイフは、ユングの右腕に突き刺さった。
「うがっ！ クソッ！」
ユングは右腕を大きく振り、ライアを振り下ろした。ライアは床の上に激突する前に着地し、にやりと笑っていた。ユングは右腕から流れる血を見て、舌打ちをした。
「小娘が……深く刺しやがったね……」
「へへーん。残念だったねー」
ライアは再びユングに向かって突進し、攻撃を仕掛けた。ユングは宙に浮いたライアを見て、左腕に魔力を溜めた。
「今度は私が決めてやるよ。くたばっても文句は言うなよォォォォォ！」
ユングはライアに向かって高く飛び上がり、左腕でライアの頭を掴んだ。
「このままテメーの頭を、ぶっ飛ばしてやるわァァァァァ！」
叫び声を上げながら、ユングは床の上に向かって急降下した。しばらくして、掴まれたライアの頭は床に激突した。
「ガハッ！」
強烈な痛みがライアを襲い、床の破片や粒子がライアに当たった。ユングはライアの頭を手から放し、様子を見た。
「今の一撃で逝っちまったようだねぇ。ピラータ海賊団ってもの、意外と弱いもんだねぇ」
そう言って、ユングはライアの頭を踏んずけた。その直後、ライアの左腕が動き、頭を踏んでいるユングの右足のふくらはぎにナイフを突き刺した。
「あぎゃァァァァァ！」
「こんな攻撃でくたばる私じゃないよ。勝手に死んだと思わないでほしいな」
ユングが足を抑えながら悲鳴を上げる中、ライアはゆっくりと起き上がった。
「まだやるようだね。でも、ふらふらしてるじゃないか。そんな状態で、私と戦えるのかい？」
ユングはふらつくライアを見て、鼻で笑ってこう言った。ライアは額から流れる血を手で拭き、ユングの方を睨んだ。
「戦えるよ。あんな傷、これまで何度も受けてきたからさ」
ライアはそう言って、ナイフに風の魔力を込めた。それを見たユングは両腕に炎を発し、ライアに向かって走り出した。
「粋がるのも今のうちだよ！ 次の攻撃で、確実にお前をあの世へ送る！」
「粋がるって部分の言葉は返すよ。私はあんたを半殺しにする」
ライアは自身に接近して、攻撃をしようとするユングの攻撃をずっと見ていた。ユングは叫び声を上げながら、ライアに向かって両腕を振り下ろした。ライアは横に飛んで攻撃をかわし、ユングが追い付けないほどの速度で攻撃を仕掛けた。
「なっ！」
「遅いよ、あんたの動き」
ユングがライアの言葉に気付いた瞬間、目の前にいたライアはいつの間にか後ろにいた。まさかと思いつつ、ユングは攻撃を受けたと思われる左の脇腹を触った。左手には、べったりと血が付着していた。
「そ……そんなバカな……」
「今の動き、見れなかったようだね。それじゃー、あんたは私を殺すことは不可能だ」
ライアはそう言うと、再び姿を消した。ユングは察していた。自分の目で確認できないほどの速度で、ライアは動いているのだと。
「グッ！ ちょこまかとすばしっこく動いても、私には勝てないよ！」
強がりのつもりで、ユングはこう叫んだが、次の瞬間にユングの全身から血が流れた。
「ナガハァァァァァ！」
攻撃を受けたユングは悲鳴を上げ、片膝をついた。
「やっぱりまだ倒れないか。普通の人なら、この攻撃を受けたら倒れるのに」
攻撃を終えたライアは、ひと呼吸してこう言った。ユングは怒りで歯を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がってライアに向かって歩き始めた。
「このガキが……私を見下すと後悔するってこと、教えてやるよ！」
「あんたを見下した覚えはないんだけどね」
ライアはため息を吐いてこう言うと、高く飛び上がってユングの背後に回り、二本のナイフでユングの背中を斬った。
「ギャグハァァァァァ！」
悲鳴を上げたユングは、血を吐いてその場に倒れた。開放していた魔力を抑えたライアは、倒れたユングを見てこう言った。
「立ち上がらないことをお勧めするよ。もし、また立ち上がったら、私はもう一度あんたを攻撃する」
ライアはそう言ったが、ユングは再び立ち上がった。
「この……勝った気でいるなよ！」
「結構力の差を示したと思うんだけど、まだ立ち上がるのね。仕方ないわねー」
ライアはもう一度魔力を開放し、素早い攻撃を仕掛けた。それに対し、ユングは左腕を前に出し、ライアの攻撃を防御した。
「左腕を犠牲にして、ダメージを抑えたつもり？」
「防御でもあるが……大きな目的は一つ！ これでお前は動けない！」
ユングはこの一瞬を狙っていた。攻撃が途中で止まり、ライアの動きが止まることを。ユングはライアを見て、右腕を使って素早く攻撃を仕掛けた。
「隙ありだな！ これでお前はもう、私に殺されるのよ！」
「バカみたい」
呆れたようにライアはこう言った。ライアは手にしていたナイフから手を放し、ユングの攻撃をかわした。それを見たユングはしまったと思うような表情をしていたが、次の瞬間に右手の拳は左腕に突き刺さっているライアのナイフに命中した。これにより、傷は深くなってしまった。
「ギャァァァァァァァァァァ！」
激しい痛みに襲われたユングは、悲鳴を上げながらその場に倒れた。ライアは大きな風の刃を作り、倒れているユングを睨んだ。
「追い打ちはしたくないけど、イコルパワーを使われると面倒だからね！」
そう言って、ライアはユングに向かって大きな風の刃を放った。
「なっ……そ……そんな……」
飛んでくる大きな風の刃を見たユングは、どうすることもできず、この攻撃を受けた。血を流しながら宙に舞うユングを見て、ライアはため息を吐いてこう言った。
「バカ力に任せて戦うから、こうなるのよ」
遺跡の中を走っていたリラゴは、途中で逃げるように走るプイーエ海賊団の船員と遭遇し、話を聞いていた。
「ピラータ海賊団と遭遇して、勝てないから逃げているのかい？」
「はい。我々では、勝てそうもないです」
「腕に自信があって残ったナバナたちが気がかりですが……今、ナバナとユングの魔力が……」
船員の言葉を聞いたリラゴは、ナバナとユングが倒れたことを察し、怒りのあまり壁を殴った。
「ちっぽけな海賊団が……これ以上私の大事な部下を傷付けるとどうなるか……教えてやらないといけないようだね！」
リラゴはそう叫ぶと、船員に向かってこう言った。
「あんたらは逃げてもいいよ！ 私は先に進む！ そして、あのちっぽけな海賊団の残りをぶっ潰してくる！」
「はい！ お願いします、リラゴさん！」
船員たちの声を受けて、リラゴはセアンたちの元へ向かい、走り出した。
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