立ちはだかるリラゴ
チンパたちを倒したカイトたちは、少し休憩をはさみ、セアンたちの後を追った。
「セアンたち、遺跡に入ったかな?」
「あいつらより先に入ったことを祈りたい」
カイトとコスタは短い会話をしながら、走り続けていた。ケアノスは、カイトの言う通りにセアンたちが先に遺跡に入り、メダルを手にしていることがいいと思っていた。
しばらく走っていると、遠く離れた所に遺跡のような建物が見えた。それが目的の遺跡だとカイトは察したが、その前には腕組をした大きな女が立っていることに気付いた。
「誰だあれ?」
「分からない」
「プイーエ海賊団かもしれないわ。一気に片を付けるわよ!」
「了解!」
カイトとケアノスは武器を持ち、コスタは後ろに下がってスナイパーライフルを構えた。だが、カイトたちが戦闘の構えに入る間瀬に、大きな女はカイトとの距離を縮めた。
「早い!」
カイトはいきなり大きな女が現れたことに動揺したが、すぐに我に戻って大きな女の攻撃を防御した。しかし、攻撃が強いせいか、防御したカイトは大きく後ろに吹き飛んだ。
「へぇ、驚いた割にはすぐに防御できる余裕はあったんだね。少しは驚いたよ」
大きな女は笑いながらこう言った。その隙にケアノスは大きな女の左腕にレイピアを突き刺したが、大きな女はそのことに気付いていない素振りをしていた。
「ん? あんた、何かしたかい?」
この言葉を聞いたケアノスは、目を開いて驚いた。
奥深くレイピアを突き刺したのに、痛みを感じていない!
と、ケアノスは心の中でこう思っていた。
「ケアノス!」
コスタはケアノスが攻撃されると考え、大きな女の腕に銃口を合わせ、引き金を引いた。スナイパーライフルから弾丸が放たれたが、大きな女は飛んでくる弾丸を見て、右手で受け止めてしまった。
「なっ!」
「狙撃の腕はいいようだねぇ。だけど、蚊トンボが飛ぶような速度の弾丸じゃあ、私には通用しないよ!」
大きな女は右手を強く握り、手の中の弾丸をコスタに見せた。潰された弾丸を見たコスタは、驚きのあまり言葉を失った。
「このデカ女!」
攻撃されて吹き飛ばされたカイトが、勢いを付けて攻撃を仕掛けた。大きな女はカイトの攻撃を受け止めようとしたのだが、簡単な防御では傷を付けられると感じ、後ろに下がった。
「やるねぇ。もし、あのまま受け止めてたら、私の体に傷が付いてたよ」
「チッ、図体の割に動きが速い」
カイトは刀を構え、続けて攻撃を仕掛けた。だが、その攻撃も簡単に避けられてしまった。
「こいつ……強い」
ケアノスは呼吸を整えつつ、大きな女を見て呟いた。大きな女はにやりと笑い、カイトを蹴り飛ばした。
「グアッ!」
「カイト!」
地面に転がるカイトを受け止め、ケアノスはカイトを治療した。そんな中、大きな女は笑いながらこう言った。
「とりあえず、本気を出さなくても倒せそうだ!」
「クソッ……お前、一体何者だ? ただのプイーエ海賊団の船員じゃないな!」
カイトの言葉を聞き、大きな女はこう答えた。
「その通り。私はブラッディクローの幹部の一人、リラゴだ!」
一方、セアンたちは遺跡の中に入り、進んでいた。
「カイトたち、大丈夫かなー?」
「早く追いつけばいいんだけど」
ライアとラージュは会話をしながら、後ろを見ていた。そんな中、何かに気付いたセアンがこう言った。
「しゃがんでー」
「はーい」
セアンの声を聞いたライアとラージュはすぐにしゃがんだ。その直後、巨大な丸太がセアンたちの上を通り過ぎた。
「簡易な罠ねー」
「適当に作ったんじゃないの?」
「にしても、適当すぎよね。他の遺跡と違って、この遺跡の罠って適当に作られてる気がするわ」
セアンとライアにそう言いながら、ラージュはキータマ島の遺跡の罠を思い出した。仕掛けてあることが見え見えな落とし穴、いかにも上から何かが落ちてくると分かりそうな天井、横から槍のような武器が飛んでくると理解できる壁の穴。どの罠も、明らかに手を抜いて作られていたのだ。
「今回の遺跡は、楽にメダルが手に入りそうね」
と、ライアは笑いながらこう言った。その直後、床から槍が現れたのだが、事前にそのことを察していたライアは後ろに下がって避けた。
「楽に手に入ればいいんだけど。まだ、プイーエ海賊団の連中が追い付いていないし」
セアンは後ろを見ながら、ライアにこう答えた。
戦っている相手がロスと同じブラッディクローの幹部だと知ったカイトたちは、魔力を開放していた。その魔力を感じ、リラゴは笑みを浮かべた。
「それがあんたらの本気かい。弱っちいと思っていたけど……それなりにやるようだね」
「覚悟しろよ、ゴリラ!」
「誰がゴリラだ! 私はリラゴだ!」
リラゴはカイトに向かって叫ぶと、大きな右腕でカイトの顔を殴った。攻撃を受けたカイトは後ろに倒れたが、すぐに立ち上がり、刀を振るって刃の衝撃波を放った。
「ふん!」
リラゴは飛んでくる刃の衝撃波を片手で消し、周囲を見回した。
やはりさっきの衝撃波は、私の目をごまかすための陽動! 本命の攻撃は、別で仕掛けるつもりだね!
そう思いながら、リラゴはカイトの姿を探した。その直後、コスタが放った弾丸がリラゴの右のこめかみをかすった。
「狙撃!」
リラゴはすぐにコスタの方を振り返ったが、その前にはレイピアを構えたケアノスがいた。
「狙撃手を守るつもりかい? 無意味だよ!」
と言って、リラゴは右手に魔力を込め、大きく後ろに下げてから前に突き出した。突き出した瞬間、巨大な拳が放たれた。
「ケアノス、あれを受け止められるの?」
「何とかやってみる!」
ケアノスは巨大なバリアを張り、巨大な拳を受け止めた。
「へぇ、強いバリアを張れるようだけど、私にはまだ左手が……」
「あると思うなよ!」
カイトの声が聞こえた瞬間、リラゴは左腕に強い痛みを感じた。
「なっ!」
カイトの存在、そして左腕の痛みに驚いたリラゴは、カイトを蹴り飛ばして左腕の様子を見た。左腕の脈から少し離れた個所に深い切り傷ができていた。
この坊主、私の攻撃の隙を見て、攻撃しやがった!
リラゴは蹴り飛ばしたカイトを睨み、魔力を開放した。その瞬間、リラゴの周囲の地面がえぐられるように吹き飛び、周囲の雑草が根っこから抜かれるように、上空を舞った。
「グッ……えげつねぇ魔力だ……」
カイトは魔力の衝撃波に吹き飛ばされないように、強く踏ん張った。しばらくして、魔力を開放したリラゴはカイトに急接近し、右手の手刀でカイトの腹を突き刺した。
「ゴボォッ!」
「まず一人!」
攻撃を受け、嗚咽を発したカイトに向かって、リラゴは右腕の肘でカイトのうなじを強打し、地面にめり込ませた。そして、コスタとケアノスに急接近した。
「よくもカイトを!」
「お前もあの小僧と同じように、地面にキスさせてやるよ!」
リラゴはケアノスの顔面を掴み、そのまま地面に強くぶつけた。そして、コスタの上空へ飛び、急降下してコスタに攻撃を仕掛けた。
「ガハァッ!」
「これで三人。なーんだ、案外あっさり勝てちまったね」
カイトたちを倒したリラゴは、魔力を抑えてこう言った。その後、リラゴは先に遺跡に向かったプイーエ海賊団のメンバーが気になり、遺跡へ向かおうとした。だが、倒れているカイトたちを見てこう思った。
こいつらからまだ魔力を感じる。まだ戦うつもりか?
倒れている今なら、カイトたちを始末することもできると考えたリラゴだが、この程度なら復活しても勝てると判断し、カイトたちを始末するよりも部下の命のことを優先だと思い、急いで遺跡へ向かって走り出した。
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