コスタの接近戦
コスタは目の前の男を見てため息を吐いていた。男の武器は手斧。他の斧と比べて軽く、小さいため、素早い動きで攻撃を仕掛けることができ、相手に大きなダメージを与えることができる。
あんな攻撃を受けたら大変だ。
コスタはそう思い、相手から離れたいと考えた。だが、相手の男は遠距離を仕掛ける相手との戦い方を熟知しているのか、コスタの姿を見たらすぐに接近しようと動き、魔力で風の刃を放って狙撃できないようにしていた。
対遠距離のための動きも考えている。これはまずい。
コスタは得意の狙撃ができないことを察し、仕方ないと思いつつ、あることを考えた。
コスタと戦っている男、オラウはにやりと笑っていた。
このまま接近戦を仕掛け続ければ、勝機は俺にあり!
オラウはコスタがスナイパーライフルによる遠距離戦しかできないと判断し、このままコスタが苦手な接近戦を仕掛け続ければ、いずれ勝てると考えていた。だが、その考えは安易だとオラウは気付かなかった。逃げていたコスタはスナイパーライフルをしまい、ショートソードを手にしてオラウに接近してきたのだ。
「何!」
コスタが級に近付いたことにより、オラウは動揺して驚いた声を発した。その隙にコスタはオラウに向かってショートソードを振り下ろした。間一髪のところでオラウは攻撃をかわしたのだが、刃先がオラウの右頬にかすった。
「運がいいわね」
後ろに下がったオラウを見て、コスタは呟いた。オラウは右頬から流れる血をぬぐい、コスタを睨んだ。
「お前、遠距離戦が得意じゃなかったのかよ」
「確かに得意だけど、いざって時のために接近戦もできるのよ、私」
コスタはショートソードを構え、オラウに向かって走り出した。オラウは接近してくるコスタを見て、すぐに構えをとった。だが、その前にコスタの素早い攻撃がオラウを襲った。
「うおっ!」
早い攻撃を何とか見切り、オラウは攻撃をかわした。だが、一撃の速度がかなり早く、反撃を行う隙がなかった。
「くっ……クソッ!」
反撃よりも後ろに下がった方が都合いい。そう思ったオラウは、何とか後ろに下がったが、その動きに合わせてコスタは魔力で風の弾丸を作り、放った。
「ノオッ!」
飛んでくる風の弾丸を見て、オラウは体を動かした。しかし、風の弾丸はオラウの左の脇腹を打ち抜いた。
「ガッ!」
「隙あり」
攻撃を受けて、片膝をつくオラウに接近したコスタは、素早い連撃を仕掛けた。
「グワァァァァァァァァァァ!」
攻撃を受けるオラウは、悲鳴を上げることしかできなかった。しばらくコスタは何度もショートソードを振り回し、オラウに攻撃を続けた。そして、連撃の締めとして強烈な一閃を放った。攻撃を受けたオラウは後ろへ吹き飛び、木に激突した。
「グフゥ……」
ダメージを受けたオラウは、魔力を開放し、少しでも傷を癒そうとした。その時、オラウはあることに気付いた。連続して攻撃を受けてしまったが、一撃の威力はそんなに強くないと。確かに連続でダメージを受け、オラウの体は傷だらけになってしまった。だが、どの傷も深くはなかった。
「ヘッ……最初は驚いたが、所詮はこけおどしってわけか」
オラウは魔力を開放し、体の傷を治した。その後、高く飛び上がってコスタに接近し、にやりと笑ってこう言った。
「攻撃の速度は恐ろしく速いが、一撃の威力はそんなに高くないなぁ」
「確かにね」
「へへ。自分で自分の弱点を把握済みってわけか。それじゃあ、死ね!」
と言って、オラウは力を込めて手斧をコスタに向かって振り下ろした。コスタは攻撃をかわそうとしたのだが、振り下ろされた手斧が地面に激突し、砂や土が舞った。それが、コスタの目の中に入ってしまったのだ。
「あうっ!」
コスタが目を覆ったその隙を、オラウは見逃さなかった。確実に大きなダメージを与えるため、オラウは手斧を横に振るった。
「これでくたばれェェェェェェェェェェ!」
オラウが振るった手斧は、風を切るような音を発しながらコスタを襲った。この攻撃を受けたコスタは強く吹き飛び、後ろの岩盤に激突した。
「う……」
深い切り傷、そして岩盤に激突した際に大きなダメージをコスタは負ってしまった。何とか回復しようとしたのだが、目の前にはオラウが発した風の弾丸が迫っていた。
「しまっ……」
その後、オラウの風の弾丸は岩盤に命中し、周囲に砂煙を発した。
カイトはコスタの戦っている光景を見ていた。ショートソードのみで戦うコスタを見るのは珍しいと思っていた。その時、コスタに攻撃を仕掛けたオラウが高笑いを始めたのを見て、呆れてため息を吐いた。
「バカな奴だ。戦いが終わったと勘違いしてやがる」
オラウはコスタを殺したと思って高笑いをしていた。
「はん! たかが小娘が俺を倒せるはずがない! 俺を甘く見やがって!」
そう言いながら、コスタが激突した岩盤に向かって歩き始めた。まだ砂煙が発していたが、オラウは砂煙を払いながら岩盤に近付いた。
「どれどれ、どんな間抜けな姿になったんでしょうねぇ?」
コスタの無様な肢体を見て、大笑いをしてやろうとオラウは思っていた。だが、目の前にあったのはひび割れた岩盤だけだった。
「何! あいつの死体がない!」
「勝手に殺さないでよ」
その時、コスタの声が聞こえた。その声を聞いたオラウは驚き、周囲を見回した。だが、その前に発砲音が聞こえた。
「なっ……」
オラウは察した。岩盤に激突した後、追撃で風の弾丸を放った。だが、攻撃はコスタに命中しなかった。岩盤に風の弾丸が激突した際に発生した砂煙を利用し、コスタは身を隠した。そして、オラウの隙に合わせて狙撃をしたと。
「ぐ……クソ……」
オラウは小さくこう呟き、周囲を見回した。今、コスタが放った弾丸がオラウの右の脇腹を貫いたのだ。
あの小娘! 見つけ出したらえげつないことをして、一生俺のオモチャとして弄んでやる!
そう思ったオラウだったが、見えない場所からコスタの弾丸がオラウを襲った。次々と飛んでくる弾丸を受け、オラウは悲鳴を上げた。
「クソがァァァァァ! どこだ? あのクソアマどこにいやがる! 卑怯だ! 姿を見せやがれェェェェェ!」
怒り狂ったように、オラウは叫んだ。その叫びの後、遠くの木々からコスタが姿を現した。姿を見たオラウは、怒りの形相でコスタを見た。
「そこにいたのかぁ……そこでじっとしていやがれ、俺が……殺してやるからよぉ……」
「無駄よ。今のあなたじゃあ私を殺すことは不可能よ」
と言って、コスタは片手でスナイパーライフルを持ち、オラウの右足に向かって弾丸を放った。攻撃をかわせなかったオラウは右足に弾丸を受け、転倒した。
「ガァッ! こ……この女!」
「お望みであれば、そのまま左足も使えないようにしてやるわ。それとも、どっちかの腕もおじゃんにする? 私はどっちでも構わないわ」
コスタは冷たくそう言うと、オラウに近付いた。オラウはコスタを見上げ、あることに気付いた。
「オイ……俺の攻撃を受け、岩盤に激突したはずなのに、どうして傷がないんだよ?」
「すぐに治療したわ、あんな傷」
「すぐに治療だと……そんな魔力がお前にあるのか?」
「あるから治療できたのよ。残念、相手が悪かったわね」
コスタの言葉を聞き、オラウは悔しそうに歯を食いしばった。それでも、オラウはコスタに飛びついて噛みつこうとした。だが、何かすると予想していたコスタはオラウの右足にスナイパーライフルの銃口を合わせ、引き金を引いた。放たれた弾丸は、オラウの右足を打ち抜いた。
「ガァッ! ガッ……クソ……が……」
右足への攻撃を受け、オラウは悔しそうに悲鳴を上げた後、意識を失った。
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