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見えない弾丸


 戦いを終えたセアンとライアは合流し、傷の手当てを行っていた。セアンはリュックから包帯を取り出し、ライアの治療を行っていたのだが、ラージュみたいに巻くことはできなかった。


「セアン、焦ってる?」


「ちょっとねー」


 巻き方がぐちゃぐちゃな包帯を見て、ライアはセアンにこう言った。ライアはため息を吐き、ラージュがいる方向を向いた。


「ラージュが早く戦いを終えてくれればいんだけど」


「苦戦してるみたいだから、治療したらすぐに援護に行くわよ」


「ラージュが苦戦?」


 セアンの言葉を聞いたライアは、ラージュの戦いの様子を見て驚いた。ラージュは動き回るだけで、攻撃を行わなかったのだ。


「ラージュが攻めない。相手が何かしてるのかな?」


「多分ね。きっと敵が嫌な方法で戦っているのよ」


 セアンは治療道具をリュックに入れながらこう言った。




 ラージュは何度も呼吸をして気を紛らわせていた。目の前の男は何も動いていないのだが、攻撃はすでに始まっているのだ。


「どうしたお嬢さん? わしに近付かないのか?」


「うるさいわねオッサン」


 敵の初老の男の挑発を聞き流し、ラージュは敵の攻撃を見抜くことを優先に動いていた。しばらくしてラージュは動き出したのだが、どこからか何かが地面に向かって飛んできてぶつかった。


 まただ。


 ラージュはそう思って後ろに下がった。周囲から、見えない何かがラージュに向かって飛んできて、攻撃を仕掛けているのだ。


「フッフッフ……どうやら、降参したいようだな」


「勝手に降参したいとか思わない方がいいわよ。あんたの攻撃も、何か仕掛けがあるってこと、理解してるから」


「ほう。それじゃあさっさと仕掛けを解くんだな。ま、経験の浅い若造がわしの攻撃のトリックを見抜くことなんて絶対に不可能だがな……」


「勝手に決めつけるなクソジジイ!」


 ラージュは大剣を魔力に込めて勢いよく振り下ろした。大剣の刃から衝撃波が放たれたが、見えない何かが邪魔をして衝撃波をかき消した。


「グッ……」


「おいおい、このトゥートをもう少し楽しませてくれよ。そうだ。ストリップショーをわしの目の前でやったら命だけは助けてやるぞ」


「このスケベジジイ! 誰があんたの前で脱ぐもんですか!」


 ラージュはトゥートに向かってこう叫んだ。その後、深呼吸をしてトゥートの攻撃を考えた。


 トゥートの武器は見えない何か。それを利用してトゥートは戦っている。武器が見えない以上、相手に攻撃を当てるのは楽である。トゥートの攻撃がラージュに命中していないのは、わざと外している可能性もある。そう考えたら、ラージュは腹が立った。


 しかし、ラージュはここで我に戻った。怒りで我を忘れたら負けることをこれまで戦った敵を見て学んだからだ。冷静になったラージュはどう戦うか考えた。そして、ある考えが浮かんだ。どんな攻撃をするときも、トゥートが何かしらの動きをすると。


「どうしたんだい? 早く服を脱げよ。もし嫌だったら、わしが無理矢理脱がしてやるからな!」


 と言って、トゥートは素早く両手を動かした。その時、ラージュは察した。トゥートが攻撃を仕掛けたのだと。攻撃をかわすため、ラージュは大きくジグザクに走り出した。その時のトゥートの表情は、とても嫌そうな表情だった。


「嫌そうな顔ね。何か不都合なことがあったのかしら?」


「いやぁ、別に」


 ラージュに声をかけられたトゥートは、すぐに元の表情に戻った。だが、ラージュは大きく動くことが、トゥートにとってあまりよろしくない行為であることを把握した。


「ようやく淫らなことを考えるスケベ野郎に一発与えることができるわね!」


 ラージュはトゥートに接近して、力を込めて大剣を振り下ろした。トゥートはその動きに反応したのだが、ラージュの攻撃の方が早かった。大剣の刃はトゥートに命中し、大きく吹き飛ばしたのだ。


「グアッハァッ!」


 トゥートは血を流しながら後ろに転がり、しばらく倒れた後、立ち上がった。


「グウッ……大人しくしてればいいものの……」


「大人しくしてたら、あんたに攻撃されるからね」


 ラージュは大剣を構えてこう言った。その直後、トゥートは右手を前に出した。それに合わせ、ラージュは大剣を盾にするかのように前に出した。すると、何かが大剣に命中した。


「あんたの攻撃が命中したか……もしかして、風を使って戦っているのね」


「ご名答」


 ラージュの言葉を聞いたトゥートは、にやりと笑ってこう言った。ラージュは大剣を構え、トゥートに近付いた。


「すごいわね。風の魔力を発すると、どんな威力でも風の渦みたいなのが発生する。私たち姉妹も風を使うけど、どうやって風を出しても渦が発生して攻撃を悟られるの。あんたの風は何も見えない。相手に風を悟られずに攻撃できる……すごい技術ね」


「ヘッヘッヘ……あんたみたいな美人にこう言われるのは照れる。敵として出会いたくなかったね。絶対に殺せって言われたからな!」


 と言って、トゥートは魔力を解放して後ろに下がった。危機を察したラージュは素早く後ろに下がった。すると、ラージュがいた足元に弾丸が埋められたような跡ができた。


「風の弾丸。えげつない方法で戦うわね」


「見えない弾丸がお前を襲うぞ。わしはこの方法で、何人もの敵を始末してきたんだ! さぁ、覚悟しろ!」


 その後、トゥートが放つ見えない弾丸がラージュに襲い掛かった。いくら離れても、ラージュがいた場所に弾丸が撃ち込まれる。このまま離れたら、攻撃できないと察したラージュは、トゥートに隙がないか様子を見た。だが、トゥートはその隙を与えることはせず、攻撃を続けた。


「ホレホレホレホレ! 立ち止まったらハチの巣になっちまうぜ!」


 トゥートはそう言いながら攻撃を続けた。ラージュは歯を食いしばりながら走り続けたが、しばらくして壁から弾が当たる音が聞こえた。


「まさか跳弾も!」


 見えない弾丸の中に、跳弾のように動く弾もある。そう察したラージュは素早く上半身を後ろに反らした。すると、何かがラージュの上を通ったのか、ラージュの前髪が何かに当たって少しだけ落ちた。


「フン。察しがいいな」


 上半身を反らすラージュを見て、トゥートはにやりと笑いながらこう言った。ラージュはすぐに元の態勢に戻り、再び見えない弾丸から逃げ始めた。




 戦いの様子を見ていたセアンとライアは、少しハラハラしていた。


「どうしよう。このままだとラージュがやられるよ」


「確かに。私たちが援護に入っても、あのエロジジイを倒せるかどうか」


 セアンはこう考えていた。自分たちが援護に入っても、的が増えるだけ。それに、大きな大剣を使って戦うラージュの邪魔になる可能性もあると。


「セアン、早く援護に行った方がいいかな? ラージュの邪魔になるかな?」


「確実に邪魔になるね。それに、援護に行ったとしても的が増えるだけ。あのエロジジイは私たちを倒すために見えない弾丸を増やすと思うよ」


「増やす?」


「魔力を感じてよ。あのエロジジイが放つ弾丸の魔力はそこまで強くない。強くないけど、普通の弾丸のように人を撃ち抜く威力はある」


「じゃあ私たちが援護に行ったと同時に、エロジジイはもっと弾丸を増やすってことか。卑怯な手を使うなー」


 ライアが悔しそうにこう言った直後、セアンはラージュの顔を見て、にやりと微笑んだ。その笑みを見たライアは不思議に思い、セアンに聞いた。


「何? その笑い?」


「ラージュが何か閃いたみたい。私たちが援護に行かなくても、どうにかなるかもね」


 セアンの言葉を聞いたライアは、ラージュがどう動くか確認し始めた。


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