手品のような技
ケアノスの攻撃によって海へ落ちるセロハンを見ていたクラッチハートの魔力使い、ピンセは動揺を覚えていた。
マジで? 私たちそれなりに場数を踏んでいるから強い海賊団だと思ってたんだけど。ピンもアフィルもホッキスもセロハンもあんなにあっさりやられるなんて思ってもいなかったんだけど!
次々と散って行く仲間たちを見て、ピンセは自分も派手にやられて海に落ちるのではと思っていた。そんな中、上からナイフを持ったライアが斬りかかってきた。
「喰らえェェェェェ!」
「イギャァァァァァ!」
ライアの声を聞いたピンセは、悲鳴を上げながら攻撃をかわした。最初の攻撃は何とかかわすことができたため、傷を負うことはなかった。だが、ライアはすぐにピンセが後ろへ下がった位置を確認し、追撃を放った。
「止めてェェェェェ!」
再び飛んでくるライアを見ながら、ピンセは横へ飛んで攻撃を回避した。攻撃を終えたライアはピンセを見て、再びナイフを構えた。
「やる気があろうがなかろうが、私たちの敵として出てきた以上、やるしかないから。すぐに楽にしたいなら降参して捕まって」
ライアはピンセに向かってこう言った。この言葉を聞いたピンセは心の中でこう思った。
確かに楽になるならすぐに降参して言うことを聞いた方がいい。だけど、ここで降参したら他の皆に何て言われるか……痛いのは嫌だけど、皆から嫌な目で見られるよりはましだ! えーい! こうなったらやけくそだー!
戦う覚悟を決めたピンセは杖を構え、ライアを睨んだ。ピンセが戦うことを決めたと察したライアはため息を吐き、ナイフを構えた。
「こうなった以上、痛い目を見るかもしれないってことを覚悟してね」
「優しくお願いします」
「無理だね」
ピンセの頼みを破棄したライアは飛び上がりつつ、ナイフを振り下ろした。ピンセはとりあえずと考え、バリアを発した。
「んがっ! きっつ!」
ナイフの刃がバリアに当たった時の感覚で、ライアはピンセの魔力が強いことを察した。攻撃が防御された後、ライアは後ろに下がって魔力を解放した。
あのバリアを壊すためには、それなりに強い魔力を使わなければならない。
そう思い、魔力と力を込めてピンセが作ったバリアを壊すために身構えた。ライアがバリアを壊し、自分を攻撃するつもりだと察したピンセはバリアを解除し、杖に魔力を込めた。
「これで倒れてくれればいいんですが」
そう呟き、杖の先端にある宝石からシャボン玉を発した。
「うわー、何だか懐かしい」
発したシャボン玉を見たライアは、思わず呟いた。しばらくして、シャボン玉が割れてそこから風の刃が放たれた。
「なっ!」
風の刃を見てライアは驚いた。シャボン玉の中に風の刃があるとは思ってもいなかったからだ。
「こんな技を使うなんて!」
次々と飛んでくる風の刃をかわしながら、ライアはシャボン玉を出し続けるピンセを見た。風の刃をかわし切った後、ライアはナイフに魔力を込めて振るい、刃の衝撃波を発してピンセに攻撃を仕掛けた。
「うわわわわわ! 衝撃波を出すんですかぁ!」
ピンセは慌てながらもバリアを出し、刃の衝撃波を防御した。この様子を見たライアは、ピンセが持つ魔力が予想以上に強いことを把握した。その後、この戦いを長引かせたら状況が悪くなると判断したライアは、速攻でこの戦いを終わらせることを考えた。
狙うならあの杖。あれを壊せば攻撃を止めることができる!
そう思ったライアは、猛スピードでライアに接近してナイフを構えた。ライアの接近を察したピンセは杖から炎を発した。
「炎も出せるの? ちょっと、どれだけの属性を持ってるのよ!」
いきなり現れた炎を見て、ライアは動きを止めて高く飛び上がった。それを見たピンセは宙に浮くライアを見て、杖を向けた。
「今なら倒せる……はずです」
と言って、巨大な火の玉を何発も発射した。
「うっそ! そんな威力がある火の玉を何発も!」
ライアは魔力を使って飛んでくる火の玉をかわしたが、天井に命中する火の玉を見てライアはあることを察した。
あの火の玉は見た目だけだ! 威力はそこまでないけど、大きさでごまかしているだけだ!
ピンセが発した火の玉は見せかけだと察したライアは、ピンセに攻撃を仕掛けた。ピンセはまだ火の玉の攻撃を続けているが、威力が弱いと知ったライアはナイフを振るい、火の玉を消しながらピンセの元へ向かった。
「ハッタリは通用しないよ!」
そう言いながら火の玉を消していった。二人の距離が縮まる中でも、ピンセは火の玉を出し続けていた。ライアは無駄なことをやるなと思いつつ、発生した火の玉に向かってナイフを振るった。次の瞬間、その火の玉は爆発を起こした。
爆発音を聞いたカイトとセアンは、反射的に音がした方向を向いた。
「今のは?」
「すげー音がしたけど、誰かが大技を使ったのか?」
カイトとセアンは周囲を見回したが、それと同時にクラッチハートの船員が襲い掛かった。
「んもう! 誰かがやられたかもしれないのに、確認の邪魔をしないで!」
セアンはそう言いながら、襲い掛かってきた船員の腹を蹴り、海へ吹き飛ばした。カイトも刀を使って船員を斬り飛ばしつつ、周囲の様子を確認していた。そんな中、カイトとセアンはライアの魔力が強くなったことを察した。
「あの爆発の中にライアがいたのか?」
「みたいだね。あの爆発を受けて、闘志に火が付いたみたい」
カイトとセアンはそう言いながら、爆発のせいで発する煙を見た。
威力の弱いな火の玉を発する中、強い威力の火の玉を発するという戦法で攻撃していたピンセ。彼女の狙い通りに、ハッタリだと思い込んだライアは威力の強い火の玉に攻撃し、爆発に巻き込まれた。だが、この爆発を受けてもライアはまだ生きていた。
「あわわわわわ……そんな……強い魔力を込めて発したのに……まだ生きているの?」
「悪いねー。こんな攻撃じゃあ私はくたばらないよ」
煙をナイフで斬り払いながら、ライアが姿を現した。爆発を受けたライアだったが、服やズボンが多少焼けた程度で、あまりダメージを負った様子を見せなかった。
「ちょっとばかし私を本気にさせたね。こうなった以上、あんたじゃ私を止められないかもね」
「ヒェェェェェ! 手加減してくださーい!」
「そうはできないねぇ!」
手加減を望むピンセにそう言うと、ライアは素早く移動を始めた。ピンセはライアの動きを目で追えなかったため、当たってくれと願いながら風の刃や破裂する火の玉が入ったシャボン玉を発した。動きの邪魔をして、シャボン玉を放つだろうと考えていたライアは、現れたシャボン玉を見て予想が当たったと思いつつ、風を発して近くにあるシャボン玉を海の方へ動かした。
「えええええ! 風を使ってシャボン玉を……そんなのってありですかァァァァァ!」
ライアの風によって動くシャボン玉を見て、ピンセは慌てながら叫んだ。まぐれで当たってくれるだろうと思っていたのだが、その願いはかなうことはなかった。
「残念だったね。私はそこまで優しくないよ!」
ピンセの隙を見て、ライアはピンセの背後に回ってナイフを構えた。ライアの声を聞いたピンセは後ろを振り向き、悲鳴を上げた。
「イギャァァァァァ! か……勘弁……命だけはお助けをォォォォォ!」
ピンセの叫びが響く中、ライアはナイフを振るった。次の瞬間、何かが割れる音がした。ピンセは目を開け、何が起こったのか確認した。
「あ……杖の宝石が……」
ピンセは手にしている杖の先端にある宝石を見た。宝石の一部分が斬り落とされ、その下には宝石の破片が散らばっていた。ライアは驚いて茫然とするピンセに近付き、ナイフを向けた。
「これであんたは戦えない。もし、逆らおうなんて考えたら痛い目に合うから」
戦う手段を失ったピンセは、杖を地面に置いて両腕を上に上げてこう言った。
「降参です」
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