クラッチハートを追いかけて
翌朝、カイトは異様な体の重さを感じて目を開けた。ゆっくりとした動きで周囲を見回し、体の重さの原因をすぐに理解した。
「やっぱりな……」
カイトは小さく呟きながらため息を吐いた。カイトの体の上には下着姿のセアンたちが眠っていたのだ。セアンはカイトを抱き着くようにして寝ており、コスタもその横でカイトを抱いて寝ていた。ケアノスはカイトが寝やすいようにと考えてくれたのか、同じベッドだがカイトから少し離れた所で寝ていた。しかし、寝相の悪さからかケアノスの左足がカイトの額の上にあった。で、ラージュはカイトの足を抱きしめて寝ていた。
「んが……あり? どうしてここで?」
と、ベッドの下からライアの声が聞こえた。ライアはすぐに起き上がり、周りを見回して声を上げた。
「あー! 皆ずるい! カイトの近くで寝てる!」
ライアの声を聞き、セアンたちが目を覚ました。
「ん……ええ! また変な寝相で寝てたのかしら? ごめん、カイト!」
ケアノスは謝りながら左足をカイトからどかした。ラージュはあくびをしながら起き上がり、カイトたちを見た。
「おはよう。とても気持ちのいい朝ね」
「気持ちよくないよ。誰かにベッドから蹴落とされたんだからさー」
「でも、爆睡してたじゃない」
文句を言うライアに対し、ラージュは小さく笑いながらこう言った。目を覚ましたケアノス、ライア、ラージュはすぐに気が絵を始めたが、セアンとコスタだけは動かなかった。
「セアン、コスタ。もう朝よ。早く起きなさい。あんたらが起きないと、カイトが起き上がれないじゃないの」
ケアノスはこう言ったが、セアンとコスタは動く気配を見せなかった。カイトはセアンとコスタの顔を見て、目をつぶっているのでまだ寝ているのだろうと思った。だが、ケアノスはそうは思わなかった。
「二人とも、今すぐに目を覚ましなさい。でないと、ハチの巣になるわよ」
ケアノスはそう言ってレイピアを持ち、魔力を解放した。その魔力を感じたセアンとコスタは慌てて起き上がった。
「あはは……おはよー」
「何だか気持ちのいい朝ね」
「寝たふりをしてカイトに抱き着くのは止めなさい。今日はクラッチハートを追いかけるから、大変よ」
「はーい。それじゃ、サクッと準備しますかー」
セアンはそう言って背伸びをしながらベッドから降り、コスタも首を回しながら起き上がった。それに続いてカイトも起き上がり、軽く腰のストレッチを始めた。
朝食を食べ、チェックアウトを済ませたカイトたちは、いらない荷物をヴィーナスハンドへ置いて再び外へ出た。
「さてと、あいつらがどこにいるのか調べないとね」
「洞窟にいるかもしれないって話だし、そこんところを重点的に探そうよ」
ライアがケアノスにこう言うと、ケアノスは返事をした。カイトは腕のストレッチをし、周囲を見回した。
「どこかに情報が集まる場所はないのかな?」
「酒場は……まぁ、こんな朝早くから酒場はやっていないわね」
「それじゃあ、朝市にでも顔を出しましょう。人がいるし、そこそこ情報もあると思うわ。それに、荒くれ共も少ないし」
ラージュの言葉を聞き、カイトたちはなるほどと呟いてうなずいた。
その後、カイトたちは町の朝市に向かった。それから店を出している人や買い物をしている人にクラッチハートがどこにいるか、あるいは怪しい場所に怪しい奴がいないか情報を集めた。カイトはあまり情報が集まらないかもしれないと思っていたが、その予想に反して情報はかなり集まった。
数時間後、カイトたちは朝市の外に出て、話を始めた。
「結構楽に情報が集まったねー」
「集まったからって言って、その情報が正確かどうか分からないわよ」
楽観するライアに対し、ケアノスがこう言った。カイトは手にしているメモ帳を手にし、口を開いた。
「とりあえず話を進めるぜ。島の北東の洞窟に変な船が停泊している。マストにはドクロのような絵が描かれている」
「他の海賊の可能性もあるけど、行ってみる価値はあるわ」
セアンの声を聞き、コスタは確かにと呟いた。
「セアンの言う通り、行ってみる価値はあるわ。たとえ別の海賊でも、倒せば賞金を貰えるし」
「そうだね。それじゃあ早く行こうよ!」
ライアはカイトたちを見てこう言った。それに続くようにセアンも行く気を見せた。
マジハンド、北東の洞窟。ここにはクラッチハートの船があった。カイトたちが戦った船よりも大きく、船員も多い。
「やはり、ナルクたちはやられたのか?」
「はい。昨晩、様子を調べに行った奴らから連絡が入りました。ナルクたちはピラータ海賊団に倒され、現地のシーポリスに捕らえられたと」
そう話すのは、クラッチハートの船長、ムイジとその部下である。部下からナルクたちが捕まった話を聞いたムイジはため息を吐き、周囲を見回した。
「そろそろここを根城にするのは限界だな。いずれ、ピラータ姉妹は俺たちの場所を察知し、攻めに来る」
この話を聞いた部下たちは、驚きの声を上げた。だが、笑う声もあった。
「あいつらが来るんだとしたら、返り討ちにしてやりましょうよ!」
「そうですそうです! 俺たちは強い! ピラータ姉妹が二年間何をしてたのか分かりませんが、海賊家業をさぼっていた分弱っていますよ!」
と、一部の部下たちは笑っていた。そんな中、一人の船員が魔力を解放した。
「都合のいいことを考えるな。この二年で修行をしていたとしたら、俺たちが勝てるかどうか分からんぞ」
「そ……そりゃー確かにそうですけど、考えてくださいよピンさん。二年間ですよ。急に行方が分からなくなったんだ。この二年で強くなったって……」
ピンは船員を睨みながらこう言った。
「成長は人によって違う。あいつらは化け物と言う話を聞いている。普通の人間と一緒にするな」
ピンの言葉を聞き、船員は黙った。ムイジはピンの言うことと同じことを考えていた。だが、強くなったと言うと逆に部下のやる気が下がり、戦いになった時にすぐにやられるのではと考え、黙っていたのだ。
「これ以上言うなピン。あいつらがどれだけ強くなったのかは正直俺も分からん。強くなった可能性があると思わせるのは大事だが、あまりネガティブなことを言うと船員もやる気を落とす。それ以上言うな」
「分かりました。すみません、真面目になりすぎました」
「その通りだ。たまにはバカなことを考えるのも必要だぞ、ピン」
ムイジはそう言って手元のコップを手にし、中に入っている水を飲んだ。
カイトたちは北東の洞窟の中へ入り、探索していた。
「久しぶりに洞窟に入るねー」
「ウラミニクシーミのことを思い出すね。あのオッサン、今でも生き埋めになってるのかなー」
「恨みと憎しみと一緒に埋まっているでしょうね」
セアンとライアとラージュはそんな話をしながら前を歩いていた。カイトは顔にかかるクモの巣や水滴を払いながら進み、ケアノスも曇るメガネを拭きながら歩いていた。
「かなり湿っぽいわね。海が近いからかな……」
コスタはスナイパーライフルを手にし、湿気を気にしていた。そんな中、前を歩いていたセアンが急に止まれとジェスチャーをした。
「誰かが来る」
セアンの言葉を聞き、カイトたちは動きを止めた。しばらくすると、見張りのクラッチハートの船員が顔を見せた。その船員はカイトたちの存在に気付いておらず、周囲を見回していた。だが、しばらくしてカイトたちの存在に気付き、逃げた。
「あ! 逃げた!」
「追いかけるわよ! あいつが誰だか分からないけど、私たちの敵であることには変わりないわ!」
「おい! コラ待て! これ以上逃げても意味がないぞ!」
「カイト、そんなことを言っても相手は止まらないよ」
「ここであいつの足を撃つ?」
とんでもないことを言ったコスタに対し、ケアノスは慌ててこう言った。
「止めなさい! 皆、逃げているあいつを追いかけましょう。逃げた先にあいつの仲間がいるかもしれないわ!」
「そうだね!」
セアンはそう言って、逃げたクラッチハートの船員を追いかけた。
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