いざ、マジハンドへ
出港の支度を終えたカイトたちは、マジハンドへ向かって旅立った。カイトとコスタは見張りのためにヴィーナスハンドの見張り台へ向かい、周りを見回していた。
「変なモンスターと遭遇しなければいいんだけどな」
「カイトの言う通りね。この辺りのモンスター、変なのが多いって聞いたから」
コスタはモンスターの図鑑を見てこう言った。カイトはコスタが持っているモンスターの図鑑の中を思い出し、周辺にいるモンスターのことを考えた。スケベイカのような変なモンスターはいないのだが、船を破壊するほどの力があるパワーオクトパスと言う大きなタコのモンスターがいると図鑑に書いてあったのだ。
「パワーオクトパスか……あんなのと戦ったら時間がかかるだろうな」
カイトはそう呟きながら、周囲を見回した。
一方、ヴィーナスハンドの運航を行っているセアンとケアノスは、モニターにあるモンスター探知機を見てこう言っていた。
「モンスターの気配なし。周囲に海賊の気配なし。とりあえず安全ね」
「油断しないでよセアン。モンスターが優しく襲い掛かって来ることなんてありえないから」
「分かってるから大丈夫だよ。ま、今のところは余裕を持っていようよ」
セアンはウインクをしながらケアノスにこう言って、冷蔵庫からジュースを用意し、コップに注いだ。能天気なセアンを見て、ケアノスはため息を吐いた。
「余裕を持ちすぎても危険だっつーのに……はぁ」
ケアノスはそう呟いた後、モニターを見た。
それからは、モンスターや敵意を持つ海賊との出会いはなかった。恐ろしいほど、順調な航海が続いた。セアンがあくびをしながらモニターを見ていると、見張り台からカイトが降りてきた。
「見張りの交代の時間だ。次って誰だっけ?」
「私だよー」
と、キッチンにいたライアが顔を出してこう言った。その後、ライアは急いで手を洗い、コスタがいる見張り台へ向かおうとした。だがその前に、近くにいたカイトとセアンとケアノスにこう言った。
「軽く軽食を作ったから、お腹空いたら食べてねー」
「うん。ありがとう」
「ありがとな、ライア」
「ありがたくいただくよー」
カイトたちの礼を聞いた後、ライアは急いで見張り台へ向かった。カイトはケアノスの前にあるモニターを見て、声を出した。
「本当に順調に進んでいるな」
「ええ。本当にね。気持ち悪いわ。モンスターも何もないなんて」
「誰かがやっつけたのかなー?」
「だといいんだけど」
ケアノスはセアンにこう言うと、腹を触ってこう言った。
「ごめん、ちょっとお腹が空いたから、ライアが作った料理を食べて来るね。その間、モニターの管理をお願い」
「任せて!」
セアンは笑顔でこう言った。その笑顔を見て、少し不安だと思いつつも、ケアノスはキッチンへ向かった。
見張り台。コスタとライアが望遠鏡で周囲を見回していた。そんな中、ライアがあくびをしてこう言った。
「なーんにもないねー」
「確かにね。でも、いつモンスターが来るか分からないわ」
「確かにねー。この辺って何がいたっけ?」
「パワーオクトパス。船を破壊するほどの力があるから、結構厄介ね」
「だねー。でも、あいつを倒せば美味しいタコ焼きができるんだけどなー」
「もし、遭遇して倒したらお願いね」
「りょーかーい」
ライアは腕を上げながらコスタにこう言った。そんな中、コスタは一瞬だけ水しぶきが発生したのを目撃した。
「何かいるかもしれないわね」
「何かあったの?」
「水しぶき。サイレン鳴らしてくる」
と言って、コスタは急いで近くに設置されてあるボタンを押した。
突如鳴り響いたサイレンを聞き、部屋の中で医学の本を読んでいたラージュは外に飛び出た。
「何か出たわね!」
ラージュは大剣を手にしており、敵を探すかのように周りを見始めた。そんな中、ケアノスがレイピアを持って現れた。
「モニターに何らかの気配を探知したわ! コスタの方も、目で確認したみたい!」
「ええ。さーて、どんな奴が相手なのかしらねー」
「ワクワクしながら言わないでよ。どんな敵が来るか分からないってのに」
ケアノスは呆れながらこう言った。その直後、ヴィーナスハンドの右側から大きなタコが現れた。
「反応の正体はこいつね」
「パワーオクトパス。船を壊すタコだけど……今の私たちの敵じゃないわね」
「無視する……ことはできないわね。あちらさんはやる気満々よ」
ラージュは大剣を構え、パワーオクトパスを睨んだ。パワーオクトパスは大きな腕を動かしながらヴィーナスハンドに攻撃を仕掛けた。しかし、攻撃が当たる前にバリアが展開し、攻撃を防いだ。
「カイトかセアンがバリアを張ったわね。ナイスタイミング!」
「それじゃ、私があいつを仕留めて来るわ」
と言って、ラージュは大剣を持ってパワーオクトパスの足の上に着地した。それを見たケアノスは慌ててこう言った。
「あいつの足は滑ると思うから、気を付けてね!」
「分かってるから大丈夫! すぐに終わらせるから!」
ラージュはパワーオクトパスの足を飛び移りながら頭に近付き、高く飛び上がった。
「私たちに喧嘩を売ったのが、あんたの間違いだったのよ!」
そう言って、ラージュは渾身の一撃を放った。攻撃を受けたパワーオクトパスは暴れまわったが、次第に動きが弱くなり、しばらくして完全に動きが止まった。ケアノスはヴィーナスハンドに戻ってきたラージュに近付いてこう言った。
「あのデカブツを一発で仕留めるなんてね」
「あの修行のおかげよ」
と、ラージュはウインクをしてケアノスにこう言った。それと同時に、見張り台からライアがやって来た。
「あー! もう終わってる! 暴れようと思ったのに」
「大したことがなかったわ。一発で終わったし」
「ちぇー。まぁいいや。カイトかセアンにヴィーナスハンドを停めるように伝えてー。今からあいつをばらしてくるから」
「了解。今日の晩御飯はタコパね」
ラージュはそう言って、カイトとセアンの元へ向かった。
パワーオクトパスの襲撃があったが、あれからは何もなかった。それから二日が過ぎ、カイトたちは無事にマジハンドへ到着することができた。
「ふぃー、やっと到着したなー」
「そうだね。何もなかったけど、無駄な魔力を使わなくてよかったよ」
カイトとセアンはそう言いながらヴィーナスハンドを港に停泊させた。その後、カイトたちは近くの町へ向かい、宿で泊ることにした。
宿の部屋に入り、少し休んだ後、ケアノスはカイトたちにこう言った。
「明日からはクラッチハートのことを調べるわ。あいつらがこの島のどこにいるか分かり次第、すぐに向かうわよ」
「うん。すぐに情報が集まればいいね」
「セアンの言う通り。早くあいつらを倒さないと」
セアンとライアの言葉を聞き、カイトたちは頷いた。すぐにやるべきことは決まった。カイトはそう思いつつ、背伸びをした。
「それじゃあ今日はどうする? もう夜も遅いし、晩飯もヴィーナスハンドで食べたから……もう寝るか?」
「カイトの言う通りね。今日は早めに寝て、明日早く動きましょう」
「賛成」
セアンたちもカイトの案を聞き、すぐに賛成と言った。
それから、カイトは風呂に入ることにした。宿の部屋にある風呂を見て、カイトは驚いていた。
「うわー、意外と広いなー」
宿の外見はあまり広くなかったが、予想に反して風呂は大きかった。人が六人ほど入っても少し余裕があるくらいの大きさだった。カイトは体を流し、湯船に入ってリラックスしていた。ヴィーナスハンドではシャワーを浴びていたが、カイトとしてたまに湯船につかってゆっくりしたかったのだ。
「たまにはこうやって風呂に入るのもいいな……」
「そうだねー」
「カイトの言う通り」
セアンとコスタの言葉を聞き、カイトは頷いた。そして、何故かいるセアンとコスタを見て驚いた。
「セアン! コスタ! いつの間に入って来たんだよ!」
「最初からカイトの後ろにいたよー」
「相手の歩幅と呼吸を合わせて後ろを歩けば、意外とばれないもんなんだよ」
「どこのマンガだよ。こんな光景見たらケアノスが起こるから早く出た方が……」
「もう遅いわよ」
と、呆れた顔のケアノスが風呂の扉を開けてこう言った。その後ろにはライアとラージュがいた。ライアはセアンとコスタを見て声を上げていた。
「あー! 二人ばっかりずるーい!」
「どうせなら、皆で入りましょうよ。二年ぶりだしね」
ラージュはウインクをしてこう言った。カイトはため息を吐きつつ、小さく呟いた。
「ああ……こんなんで明日大丈夫なのか?」
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします!




