逃走劇が始まる
クラッチハートの船員たちは、カイトたちによってナルクたちが倒される光景を見て驚いていた。
「そんな……ナルクさんたちがあんな簡単に倒されるなんて……」
「俺たちより強いはずなのに。なんてこった!」
船員たちは絶望した表情でこの様子を見ていた。そんな中、近くに置いてあった電話が鳴り響いた。船員の一人が電話のモニターに映った名前を見て、周りにこう言った。
「船長からだ」
「早く受話器を取れよ」
「あ……ああ」
電話の近くにいた船員は慌てて受話器を取り、口を開いた。
「もしもし」
「俺だ。ムイジだ。ナルクの奴はどうした?」
「それが……ピラータ海賊団と遭遇して、今戦っていますが……」
「何? ピラータ海賊団と遭遇したのか? それで、どんな状況だ?」
「ナルクさんたちは皆……倒されました」
「何! そうか……ナルクたちは運がなかったな。残ったのはお前たちだけか?」
「はい。ほんの一部だけです。他の奴らはみんなやられました」
「やられたのか……仕方あるまい。状況を聞いてよかった。残った奴だけでも急いで逃げろ。俺たちがいる場所は分かるな?」
「はい。今すぐにそちらへ向かいます!」
船員がこう言った直後、後ろから爆発音が聞こえた。それから少しして、船員の悲鳴が響き、吹き飛んできた船員が部屋の中に入って来た。
「あら。こんな所にも船員が残っていたのね」
と、レイピアを持ったケアノスがこう言った。後ろには、ナイフを持ったライアもいた。殺意を放っているケアノスとライアを見た船員は慌てて逃げ始めた。
「うわァァァァァ! ど……どどどどど……どうするんだよ!」
「とにかく脱出用のボートまで走るんだ!」
「あいつら追いかけて来るぞ!」
近くにいた船員がこう言った。後ろを見ると、ケアノスとライアが物凄い速さで追いかけて来るのが見えた。
「お……鬼だ!」
「驚いている場合じゃないぞ! 倒すことはできないけど、あいつらの走る邪魔だけはできる!」
「そうか! タルでも何でもいいから、あいつらの足元に転がせ!」
船員たちは無我夢中で近くにあったタルやカンテラを地面に転がした。それを見たケアノスは走る速度を落としたが、ライアはカンテラを踏んでしまい、転倒した。
「あいたたたたた……酷いことをするなー」
「厄介なことをしてきたわね。魔力の攻撃よりも、こうやって邪魔をされるのが一番厄介ね」
ケアノスは転がって来るタルを蹴り飛ばしながらこう言った。そんなことをしていると、逃げた船員たちはどこかへ行ってしまった。ケアノスは追いかけようとしたのだが、相手との距離を詰めるのは難しいと判断し、追いかけるのを諦めた。
「あいつらは逃げたし……倒した奴らを拘束してヴィーナスハンドへ連れて行きましょう」
「うーん……そうだね」
ライアはナイフをしまい、ケアノスにこう返事をした。
戦いが終わった後、人も物もなくなったクラッチハートの海賊船はカイトの攻撃によって海に沈められた。
「ああ……」
「俺たちの船が……」
「酷い。酷すぎる……」
沈んでいく海賊船を見ながら、捕まったクラッチハートの船員はこう言った。悲しんでいる中、セアンがクラッチハートの船員を縛っている縄を引っ張った。
「はいはい。悲しむのは牢屋の中でお願いね。早く立って、牢屋へ行きなさい!」
「ヒェェェェェ!」
セアンは悲鳴を上げるクラッチハートの船員を、無理矢理牢屋へ連れて行った。カイトは周囲を見回しながら、近くにいたラージュにこう言った。
「なぁ、シーポリスに今回のことを伝えたか?」
「ええ。戦いが終わってすぐに連絡したわ」
「早いな。で、いつ来るんだ?」
「早くても明日って言ってたわ。近くにヨテケって島があるから、そこで合流することになっているわ」
「そうか。シーポリスか……」
カイトはシーポリスと聞き、サマリオやツリー、メリスのことを思い出した。
「なぁ、サマリオさんたちも元気か?」
「私たちも会うのは久しぶりなの。カイトと同じように修行してたから、この二年会ってないの。連絡をした時、久しぶりだって驚いていたわよ」
「そうか。俺はてっきり連絡をしていたかと思ったんだけど」
「私たちが修行をしていた場所に、電話とか通信機具がなかったのよ」
「そんな不便な所で修行をしていたのか」
「まぁ、そのおかげで集中して修行ができたけどね」
と言って、ラージュは笑った。
その後、カイトたちはヨテケと言う島に向かった。セアンとコスタはヨテケにあるシーポリスの駐在所へ向かい、捕らえたクラッチハートの船員を連行してもらった。
「いやー。ピラータ海賊団の皆さんがこーんなド田舎の島に来るなんて。思ってもいなかったですよ」
「それに、明日にはシーポリスのお偉いさんも来るって言っていましたので。本当に何が起きるのか分かりませんねー」
ヨテケのシーポリスの戦士は、驚きながらセアンとコスタにこう言った。その話を聞き、カイトは合流することがもう伝わっているのかと感心していた。そんな中、ケアノスの驚く声が聞こえた。
「この島って宿屋がないんですか?」
「ごめんねー。狭い島だから、宿屋を作る余裕がないんだよ。ここによる人たちはみーんな自分の船で寝ているんだよ」
この話を聞き、宿屋がないことをカイトは察した。ヴィーナスハンドで寝ることになるのかと思い、カイトは背伸びをしてケアノスに近付いた。
「宿屋がないなら仕方ないな。ヴィーナスハンドで寝ようぜ」
「うーん……そうね。久しぶりに宿屋でゆっくりしようと思っていたんだけど……こういうこともあるってわけね」
「そういうことだな。俺としては、よく使っているヴィーナスハンドで寝る方が安心感もあってゆっくりできるんだけどね」
「あら、そうなのね。私もヴィーナスハンドで寝る方も好きだけど……まぁ、たまには違い場所で寝て旅行気分を味わいながら寝る方も好きなんだけどね」
「そうか。そういう考えもあるか」
カイトとケアノスは笑いながら話をしていた。そんな中、食材を持ったライアがやって来た。
「何の話をしてるのー?」
「宿屋がないから今日はヴィーナスハンドで寝るってこと」
「そうなんだ。それじゃ、今日はヴィーナスハンドで夕食だね。カイト、久しぶりに一緒に寝ようよ」
ライアのこの言葉を聞いたケアノスは、顔を真っ赤にしながらライアの頭を叩いた。
「いったー! 何すんのさー!」
「そういうことを外で言わないの! まったく、そんなことを言ってると変なイメージを持たれるじゃないの!」
ケアノスは呆れながらこう言ったが、セアンがカイトに近付いてこう言った。
「カイトー。今日は久しぶりにゆっくりできそうだし。ベッドの上で激しく」
「セアン?」
ケアノスは殺意を発しながらセアンに近付いた。今のケアノスを怒らせたらまずいと察したセアンは、失礼しましたと言いながらカイトから離れた。
一方、シーポリスの船がヨテケの島へ向かっていた。その船の中には、成長したメリスがいた。メリスは外をずっと見ていたが、シーポリスの戦士が近付いてこう言った。
「久しぶりにセアンさんたちと会えますね」
「ええ。二年ぶりね。あの事件の後、ずっと連絡ができなかったけど……生きててよかったわ」
「ゴイチ王国で修行をしていたんでしょう。連絡をしてきたということは、カイトさんも生きていたってことですよ」
「不幸な話は聞いていないから、きっとカイトもいるわね。皆に会うの、久しぶりだなー」
そんな話をしていると、部屋の中に別のシーポリスの戦士が入って来た。
「緊急です! 巨大なスケベイカが現れ、航海の邪魔を始めました!」
「ちょっと待ってて。すぐに片付けるから」
メリスは剣を持ち、外に出た。外に出て海を見ると、巨大なスケベイカが船の行く手を阻むように姿を見せていた。
「迷惑なイカね」
メリスがため息を吐きながらこう言うと、スケベイカはメリスの存在を察し、興奮し始めた。メリスは魔力を解放し、スケベイカの足の上に着地して素早く剣を振るった。攻撃の後、スケベイカの頭の上半分がゆっくりとずれ落ちた。その様子を見たシーポリスの戦士は、驚きながらこう言った。
「流石メリス少佐。この二年で強く、たくましくなった……」
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