決死の一太刀
右腕を負傷したメリスは、左手に持っていた盾をしまって左手で剣を持った。その行動を見たビャメントは、小さく笑ってこう言った。
「防御を捨てたわね」
「あなたを倒すためには、こうするしかありませんので」
メリスはそう言うと、深呼吸してビャメントに接近し、左手の剣を振り下ろした。ビャメントは攻撃をかわし、メリスの腹に向かって爪を突き刺した。爪はメリスの腹に刺さったが、メリスは無理矢理力を込めて剣を振り上げ、ビャメントの腹を一閃した。
「グガッ!」
ビャメントは悲鳴を上げながら後ろに下がった。その時、メリスの腹に突き刺さっていた爪が抜かれた。それと同時に、メリスの腹から血が流れた。
「ぐっ……うう……」
何とか一太刀与えることができたが、自分も傷ついてしまった。そう思ったメリスは、しゃがんで床の上に剣を置き、回復を始めた。攻撃を受け、後ろに下がったビャメントは回復を始めたメリスを見て、接近した。
「回復なんてさせないわよ」
「隙あり」
予想外の言葉を聞き、ビャメントは動揺した。その直後、床に置いたメリスの剣が勝手に動き出し、上に飛び上がった。その時、メリスの剣はビャメントの体に命中していた。
「が……はぁ……」
「剣に魔力を込めておいたんです。あなたが近付いたら、剣に込めた魔力を使って打ち上げるためにね」
メリスの言葉を聞き、ビャメントは血を流しながら後ろに吹き飛んだ。地面に倒れたビャメントは、震える手で血を止めようと魔力を出した。だが、激しい痛みを感じるため、魔力を解放することができなかった。その上、深い傷を受けたせいで手足の感覚を感じなくなったのだ。
「だ……があ……」
何とかして血を止めようとしたビャメントだったが、何もできなかった。そんなビャメントに対し、回復を終えたメリスが近付いて来た。
「終わりです。このままじっとしてください」
メリスの言葉を聞き、ビャメントは察した。このままだと殺されるか、捕まるかのどっちかだと。
「ふ……ふざけないで……私はまだ……戦えるわ!」
ビャメントはそう言うと、痛みをこらえながらイコルパワーを取り出し、注入した。その行動に気付いたメリスは走り出したのだが、間に合わなかった。
「ふぅ……これであんたを殺すことができるわ!」
イコルパワーを注入し終えたビャメントは、空になった液体を投げ捨て、立ち上がった。そして、強い魔力を解放した。
「くっ……強い魔力だ……」
ビャメントの魔力は、さっきより強くなっていた。イコルパワーのせいで魔力も強くなってしまったのだとメリスは察し、右手で剣を構えた。
「さて、これであんたを殺すことができるわねぇ!」
「私は死なない。絶対にあんたみたいな奴に殺されてたまるか!」
メリスは叫びながら、ビャメントを睨んだ。
デルマグは散って行く船員を見て、ため息を吐いていた。
「クッ……皆……」
チェンたちが死んでいき、船員も戦意を失って次々とシーポリスに投降している。そんな光景を見て、デルマグは小さく呟いた。
「クソ……こんなことになるなんて……」
「だったら、ブラッディークローと付き合わなければよかったじゃない」
と、後ろから声が聞こえた。デルマグは後ろを見ると、そこにはカイトとピラータ姉妹が立っていた。カイトたちの傷が治り、疲れが癒えているのを見たデルマグは、完全な状態で戦いに来たのだと察した。
「ピラータ姉妹……お前らは……」
「ちょっと待ってよ。あんたらの船員が死んだのはイコルパワーのせい。私たちがやったわけじゃないから」
「どっちにしろ、お前たちがチェンたちを死に追い込んだのは変わらない。皆に逃げろと言われたが、戦うしかないな」
デルマグはそう言って、カイトたちを睨んだ。
メリスはビャメントの攻撃をかわしながら、様子を見ていた。イコルパワーを使った結果はどうなるかを、メリスは把握していた。自分が手を出さなくても、イコルパワーの副作用でビャメントはいずれ命を落とす。
「ほらほら! 逃げないでよ!」
「拒否します」
メリスはそう答えると、高く飛び上がった。ビャメントもその後を追いかけるように飛び上がり、メリスの後を追いかけた。
「さぁ、死になさい!」
と言って、ビャメントは両手の爪をメリスに向かって突いた。物凄く早い突きだったが、メリスは盾を使って攻撃を防御した。
「硬い盾ね……これじゃあ攻撃が通らないじゃないの!」
「知ったことじゃないわ」
メリスはそう言って魔力を解放し、ビャメントを吹き飛ばした。ビャメントは空中で態勢を整え、床の上に着地した。
「さぁ~て、今度こそあんたをこの爪で突き刺してあげるわよ」
「無理よ。そんなこと」
「無理とか言わないの。やってみないと分からないわ!」
ビャメントはにやりと笑うと、物凄い速さでメリスの周りを走り回った。速さを利用してメリスの目をごまかし、隙を突いて攻撃するつもりなのだ。だが、メリスは走り回るビャメントを目で追いかけなかった。メリスはこう考えていた。走り回って目をごまかし、その隙に攻撃するのなら、必ず接近する。その時に攻撃すればいいのだと。
「突っ立っているだけ? 殺される覚悟ができたってわけね!」
ビャメントは叫びながら、メリスの背後から飛びかかった。だが、メリスはビャメントの方を向き、剣を振るった。
「なっ……」
「速さを使ってごまかしても、いずれ私を攻撃するために近付く。その時に攻撃すればいいだけ」
「そんな……」
一閃されたビャメントは、血を流しながらその場に倒れた。イコルパワーのおかげで防御力が上がったとビャメントは思ったのだが、メリスが放った斬撃でダメージを受けてしまった。
「イコルパワーは……強くなるんじゃないの……」
「魔力を込めて斬ったから、そこそこダメージが入ったんじゃないの? それか、イコルパワーの作用がまだしっかり働いてないんじゃないの?」
「クソ……」
ビャメントは小さく呟くと、目の異常を感じた。メリスはビャメントの目が膨らみ始めた光景を見て、ビャメントの命があと少しだとさっした。
「終わりね」
メリスはため息を吐いてビャメントのもとを去って行った。ビャメントはメリスに向かって文句を言っていたが、しばらくしてビャメントの悲鳴が響き、それから声が止んだ。
戦いを終えたメリスはシーポリスの船に戻り、座って休んでいた。そんな中、仕事をさぼっていたツリーが近付いた。
「お疲れさーん。とりあえず、強そうな敵を一人倒したんだね」
「一人倒しただけで疲れましたよ。まだ……私は弱いです」
「強敵一人倒しただけで十分よ。もう少し休んだらまた行くでしょ?」
「ええ……カイトさんたちが船長と戦いを始めました。休んだら援護に行く予定です」
「で、サマリオは? まだ戦ってるの?」
「多分戦っています。ですが、サマリオさんが負けるとは思いません」
メリスは深く呼吸をすると、ツリーの顔を見てこう言った。
「それよりも、ツリーさんも援護してくださいよ。ずっと安心な所にいたんですか?」
「何をバカなことを言うの? 私もシーポリスの戦士よ、皆の無事を祈っていたんだから!」
「祈るんだったら、戦ってください」
メリスはツリーを見ながらこう言った。メリスの目を見て、ツリーは冷や汗をかいた。
「分かったわよ。私も何かするわ」
「何をするんですか?」
「えーっと……疲れを癒す? とか……」
「もう少しまともなことをしてください。私より強い魔力を持っているんだったら、それを使って治療してくださいよ」
と、メリスはツリーに向かってこう言った。
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