風の爪がメリスを襲う
イヤルはイコルパワーを使ってしまい、体が肥大化した。不気味な笑みを浮かべて近付いてくるイヤルを見て、ウイークは無我夢中で魔力の攻撃を放った。だが、魔力を使った攻撃を当ててもイヤルは後ろに引くことはなかった。
「効かないわよ。さぁ、観念して私のおもちゃになりなさいよ」
「ふざけんな! お前みたいな野郎のおもちゃになってたまるか! ぜってー酷いことされるよ」
「私、おもちゃは大事に扱うわ。だから、安心してね」
「安心できるか!」
ウイークは叫びながら魔力を解放し、高く飛び上がった。イヤルを飛び越え、後ろに回ろうと考えたのだが、イヤルは飛び上がったウイークを捕まえてしまった。
「ぐあっ! クソッ!」
「うふふ。逃げようって考えても無駄よ。私がちゃーんと捕まえちゃうから」
肥大化した両手でウイークを捕まえ、イヤルはウイークを見て笑みを浮かべた。ああ、俺はこんな所でやられるのかとウイークは思ったのだが、突如イヤルの動きが止まった。
「ん? どうした?」
ウイークは声をかけたが、イヤルは返事をしなかった。そんな中、イヤルの両手が開き、拘束されていたウイークが解放された。ウイークはすぐに後ろに下がり、イヤルの様子を見た。
「はぁ、俺の運がよかったのか、あいつの運がなかったのか……」
ため息を吐いた後、ウイークはそう呟いて氷の壁へ向かい、殴った。分厚かった氷の壁は一発のパンチで粉々に砕け散った。
「死にかけているから、魔力も弱まったんだな」
ウイークはそう呟くと、イヤルから離れて行った。その後、美しい氷の粒の雨を浴びながら、イヤルはその場に倒れ、二度と動くことはなかった。
ビャメントは周囲の状況を把握し、歯を食いしばっていた。
「ピラータ姉妹……シーポリス……奴らさえいなければ皆は……」
チェンたちがイコルパワーを使い、命を落としたことをビャメントは把握していた。そんな中、強い魔力を感じ、ビャメントは我に戻った。
「シーポリス……」
目の前にいるメリスを見て、ビャメントは憎しみを込めながら呟いた。メリスはすでに剣を抜いていて、すぐにでもビャメントに斬りかかろうとしていた。
「よくも私たちの仲間を殺したわね!」
「あの人たちが命を落としたのは、イコルパワーを使ったからです。私たちが手を下したというわけではありません」
「あんたらが私の仲間を追い込んで、イコルパワーを使わせたのよ! あんたらが殺したようなもんじゃない!」
ビャメントは両手にかぎ爪を付け、魔力を解放してメリスに襲い掛かった。
「死ねぇ!」
メリスに接近したビャメントは、両手を大きく振り上げてメリスに向かって振り下ろした。メリスは左手の盾でビャメントの攻撃を防御し、右手の剣をビャメントの腹を突こうとした。だが、攻撃が来ると察したビャメントはメリスの盾を蹴り、その反動を利用して後ろに下がった。
「猿みたいな人ね」
「身軽さを武器にしているからね。さぁ、あんたを殺した後は、あんたの仲間を殺してやるわよ!」
ビャメントは両手の爪に風を纏い、メリスに向かって振り回した。纏っていた風が爪のような形となり、メリスに向かって飛んで行った。衝撃波が来ると思いながら、メリスは魔力でバリアを張り、攻撃を防いだ。しかし、メリスの予想は大きく外れた。ビャメントが発した爪の衝撃波の威力は、バリアを粉砕するほどの威力があったのだ。
「グッ!」
バリアが壊れたことを瞬時に察知したメリスは高く飛び上がり、後ろに下がった。だが、メリスが後ろへ逃げると予測したビャメントはメリスの着地地点に移動しており、着地の隙を狙って攻撃を仕掛けようとしていた。
「さぁ、死になさい!」
そう言って、ビャメントはメリスの腹に向かって爪を突き刺そうとした。だが、メリスは盾を使ってビャメントの攻撃を防いでいた。
「ぐ……ぐぐぐ……」
「私の盾を簡単に壊せると思わない方がいいですよ!」
メリスはそう叫ぶと、風の衝撃波を放ってビャメントを吹き飛ばした。
「私を同じ風の魔力……この女……」
着地したビャメントは、メリスを睨みながら爪を構えた。メリスはその場から動かず、ただ魔力を解放していた。
待て。待つんだ私。今は冷静になるんだ。
一歩も動かないメリスを見て、ビャメントは自分で自分に冷静になれと告げた。その後、深い呼吸をしてメリスがどう動くか考えた。
怒りに任せて接近戦。相手は盾を持っている。そして、魔力を解放している。反撃を行うのは間違いないだろう。何も考えずに突っ込んだら確実に反撃を喰らう。では何を考えて行動すればいい? そうだ、相手の動きを封じて攻撃すれば、致命傷にならなくてもダメージを与えられる。
そう思ったビャメントは、魔力を解放して爪を振るった。反撃の構えを取っていたメリスは飛んでくる爪の衝撃波を見て、盾で防ぐ体制を取った。盾のおかげでメリスは衝撃波を受けずに済んだのだが、この光景を見たビャメントはにやりと笑っていた。今のメリスの後ろはがら空きだからだ。
「さぁ、このまま私の攻撃を喰らいなさい!」
ビャメントはそう言いながら何度も風の衝撃波を放った。メリスは盾を使い、飛んでくる風の衝撃波を防御していた。だが、ビャメントが無駄だと分かっても、何度も衝撃波を放つことに不信感を抱いていた。その直後、後ろからかすかに魔力を感じた。
「チィッ!」
メリスは舌打ちをしながら、剣を後ろに振るった。その直後、金属がぶつかり合う音が響いた。
「あら。私の動きを察したのね」
メリスの後ろには、両手の爪を振り下ろしたビャメントがいた。メリスは力を込めてビャメントの両手の爪を押し返そうとしたのだが、相手は両手で自分は片手。押されるのも時間の問題だ。
「運がよかったわね。でも、いつまでもこの状態が続くとは思えないわ。いずれ、私の爪はあんたの体に傷を付ける」
「そんなことは……させ……ない!」
「いーや、させるわ。後ろを見なさい」
ビャメントにこう言われ、メリスは後ろを振り向いた。後ろからは、防いだはずの風の衝撃波があったからだ。
「どう……して……」
「時間差であんたに飛んで来るように仕掛けたのよ。本命の攻撃はそっち。一発でも攻撃を当てたら、あんたは崩れる」
ビャメントは笑いながらこう言った。その後、メリスの後ろから飛んで来た衝撃波がメリスに直撃した。
「キャアアアアアアアアアア!」
衝撃波を受けたメリスは態勢を崩してしまった。その隙を見て、ビャメントは両手の爪を何度も振るった。
「さぁ、ズタズタにしてやるわ、シーポリス!」
ビャメントの攻撃を受け、メリスの服や体はズタズタに切り裂かれてしまった。服はほとんど破れ、肌からは大量に切り傷ができ、そこから血が流れていた。
「ぐう……うう……」
痛みをこらえながら、メリスは立ち上がった。だが、突如右腕に激痛を感じた。右腕を見ると、そこからは異常に血が流れていることを把握した。
「運が悪いわね、あんた。利き手に深手を負ってしまったようね」
メリスの苦痛の顔を見ながら、ビャメントがこう言った。メリスは盾をしまい、左手に魔力を解放して傷の手当てを行った。だが、ビャメントがメリスに接近して攻撃を仕掛けた。
「回復なんてさせないわよ。このままあんたを斬り殺す!」
「悪いけど、私は死ぬわけにはいかないのよ。あんたみたいな奴を倒すまで、私は倒れない!」
メリスは叫びながら開放している魔力を強くし、治癒速度を速めた。その結果、メリスが受けた傷の半分が治った。
「傷が治ったようだけど、まだ完治していないようね。その右腕、まだ動けないでしょ?」
ビャメントは笑いながらそう言った。だが、メリスは左手に剣を持った。
「それでも十分に戦えるわ。今度こそ、あんたを倒す」
メリスはビャメントを睨み、こう言った。
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