更なる快楽を求めたら
ラージュから放たれる殺意を感じたビエンは、顔を赤く染めつつも、嬉しそうな表情をしていた。
ああ、この人は確実に僕を痛い目に合わせてくれる。この人は確実に強烈な一撃を放ってくる。
心の中で、ビエンはそう思っていた。次に放たれるラージュの一撃が、とてつもなく、大きな痛みを感じるだろうと考えたビエンは、更に興奮した。
「早く来てくれ! もっと、もっと僕に快楽を与えてくれ!」
「言われなくても、お望み通り痛い目に合わせてあげるわよ!」
ラージュは大剣を構え、ビエンに向かって走って行った。そして、興奮しているビエンに接近し、大剣を振り下ろした。力と殺意がこもった一撃はビエンに命中し、その時にビエンの右腕を斬り飛ばした。
「ウァッハァァァァァン!」
斬撃を受けた時、ビエンはとても嬉しそうな悲鳴を上げた。ラージュは気持ち悪いと思いつつ、大剣をしまった。
「これ以上戦うのはいい選択じゃないわ。さっさと降参しなさい」
「まだ戦いは終わらないよ。さっきの一撃もかなり興奮したけど……まだまだ僕は満足していない!」
と言って、ビエンはイコルパワーを取り出し、注入した。ラージュは驚きの声を上げつつもビエンに接近し、イコルパワーが入った注射器を破壊しようとした。だが、遅かった。ビエンは空になった注射器を投げ捨て、ラージュの方を見た。
「もっと僕を興奮させておくれよ……」
そう言うと、ビエンの筋肉が異様に膨れ上がった。ラージュはイコルパワーの作用が始まったと察し、大剣を構えた。
「まったくもう……それを使ったら死ぬわよ」
「知っているさ。海賊の暮らしなんて死と隣り合わせのようなもんだ。どうせ、降参して君たちに捕まっても、ディスターソースが僕たちを始末しに来る。だったら、最期に素晴らしい快楽を感じながら逝きたいね」
「はぁ……あほらし」
ラージュは呆れたようにため息を吐き、興奮して荒い呼吸をするビエンを睨んだ。
「あんたみたいなアホの相手はもうしないわ。どうせほっといてもあんたは死ぬ」
そう言って、ラージュはビエンの元から去って行った。去って行くラージュを見て、ビエンは叫んだ。
「オイ待てよ! 逃げないでよ! もっと僕を興奮させておくれよ! ねぇ、逃げないで! 僕と戦って!」
ビエンは息を荒げながら叫んだが、ラージュはその叫びを無視し、セアンたちの元へ向かった。ビエンは涙目になり、大声で叫んだ。
「逃げないでくれよォォォォォ! 最後に放置プレイで無視されるなんて嫌だよォォォォォ!」
ビエンは泣いていると、突如目に異変を感じた。だが、それでもビエンは情けない声を上げながら泣いていた。しばらくして、その声は止んだ。
ウイークは二本の剣を使って襲い来る船員と戦っていた。そんな中、カイトたちの魔力が静まったことを把握した。
「カイトたちの方は終わったみたいだな」
カイトたちの戦いが終わったこと、カイトたちが無事であることを察したウイークは、安堵の息を吐いた。そんな中、水で作られたチャクラムがウイークに向かって飛んで来た。ウイークは水のチャクラムを叩き落とし、前を睨んだ。
「いや~ん。結構いい男じゃな~い。私ってば運がいい~」
声の主を見たウイークは、顔を青く染めた。ウイークが目にしたのはイヤルであった。一目でイヤルがどういった人物であるかを把握したウイークは、悲鳴を上げて逃げようとした。
「あら~ん。逃げないでいい男」
イヤルはウイークの方を見つめながら、魔力を解放して水を放った。放たれた水は氷の壁となり、ウイークの逃げ道を塞いだ。
「あああああ! 逃げられないよこれ!」
「逃がさないわよ、いい男~」
不気味な笑みを浮かべながら近づいてくるイヤルを見て、ウイークは悲鳴を上げた。
「来るな! 俺にそんな趣味はない!」
「私はあるのよ。さて、楽しみましょう」
イヤルはそう言うと、派手な装飾が付いた剣を手にし、ウイークに向かって振り下ろした。ウイークは左手の剣で攻撃を受け止め、右手の剣をイヤルの左足に向かって突いた。イヤルは左足を上げて攻撃をかわし、上げた左足でウイークの頭にかかとを落とした。
「グガッ!」
「こう見えても、私って蹴りも強いのよね~。勘弁してね、いい男」
「その気持ち悪い喋り方をどうにかしろ!」
後ろに下がったウイークは、魔力を解放して火と雷が混じった衝撃波を放った。攻撃を受けたイヤルは悲鳴を上げながら後ろへ吹き飛んだ。
「イヤ~ン。酷いことをするわね~。でも、気持ちよかったわ」
「うげっ、そっちの癖もあるのかよ!」
ウイークはイヤルを見ながら、冷や汗をかいた。その後、イヤルはウイークを見つめながらくねくねとした動きで近付いてきた。
「もっと私を楽しませて~」
「一人で楽しんでろ! 俺はお前みたいな変な趣味は持ってねーぞ!」
「そんなことを言わないでよ。そんなことを言うと、無理矢理にでも楽しませてもらうわよ」
イヤルから強い魔力を感じたウイークは、すぐに攻撃を仕掛けた。だがその前に、イヤルは両手を地面に付けた。
「何をするつもりだ!」
「空間を作るのよ。あなたと私しかいない、特別な空間を」
と、イヤルはウインクをしながらこう答えた。その直後、二人を包むように氷の壁が現れた。ウイークは察した。氷を使って閉じ込めるつもりだと。
「テメーの悪趣味に付き合うつもりはねーよ!」
ウイークは飛び上がって逃げようとしたのだが、その前に氷の天井が作られてしまった。ウイークは激突する前に後ろに下がり、激突から回避した。
「チッ、こうなったらやるしかねーのか」
ウイークは舌打ちをしながら手招きをするイヤルを見た。
戦いを終えたカイトたちは一度集まり、傷を癒していた。
「ありがとうラージュ。何とかなったよ」
包帯を巻かれたカイトは、ラージュに礼を言った。ライアは新しい服を着ながら、コスタと話をしていた。
「他に敵はいる?」
「まだ船員はいるけど、ほとんどが戦意を失っているわ。逃げようとする奴が多いけど、一部はシーポリスの戦士と戦っているわ」
「流石に私たちと戦おうとする奴はいないか」
「怪我したけど、まだ戦えるからね」
コスタは望遠鏡を見ながら答えた。そんな中、氷で包まれた部屋を見つけた。
「何あの変な氷の部屋? さっきまで、あんなのなかったのに」
「どれどれ? ん? 本当だ、何あれ?」
着替えを終えたライアも望遠鏡を持って、氷でできた部屋を見た。魔力を探知すると、そこから強い魔力を感じた。
「中から強い魔力を感じるよ。中で誰かが戦っているわね」
「この魔力って……ウイークだ! 大丈夫かな?」
不安そうに呟いたコスタだったが、その呟きを聞いたセアンがこう言った。
「大丈夫でしょ。ウイークだよ? そんな簡単にやられないって」
「そうかなー? 魔力を感じる限り、結構動揺しているようだけど」
「変な奴を相手に戦っているんじゃない? 気持ち悪い奴とかさ」
「あー。ありえるかも」
「ウイークって、女の子からは全然モテないけど、変な趣味を持つ人にモテモテなんだよねー」
セアンの言葉を聞き、ライアはウイークから聞いた体験談を思い出した。
「確かに。女の子をナンパしようとしたら、女装した男性たちに逆ナンされて大変だったって話があったなー。いやー、あの話は笑った」
「あったねー、あの話。逃げ回っても追いつかれて、隙を見て逃げても何故か先回りされまくったんだっけね。命の危機を感じたって言ってた」
「あの話は傑作だったねー」
セアンとライアは笑いながらこう話をしていたが、話を聞いていたカイトは、どんな話なのか気になった。
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