五つ子の正体
カイトはセアンたち五つ子と共にアラヤーダンの宿屋にある飯屋にいた。カイトはセアンたちに対し、一緒にベルードウルフを倒してくれたことの感謝の言葉を言おうとしたが、その直後に店員が品物を持ってきた。タイミングを失ったと思ったが、セアンがカイトの方を向いていた。
「さーてと、それじゃあ君の名前を教えてもらおうかな」
そう言いながら、セアンは骨付き肉を片手に持ってこう聞いた。
「俺はカイト。フルネームで夏日海人。信じてもらえるかどうか分からないけど、この世界の生まれじゃない」
「カイトか。よろしくね、カイト。そいじゃ、私たちの紹介もするからちゃんと覚えてね。改めて、私はセアン。セアン・ピラータって名前。それで……」
セアンはそう言って席から立ち、コスタに近付いてこう言った。
「この子はコスタ。狙撃手をやっているの。さっきベルードウルフを撃ったの、この子なの。狙撃の腕は結構いいの」
「そうなのか。よろしくな、コスタ。あの時は助かったよ」
何も言わないコスタに近付き、カイトは握手を求めたが、コスタはカイトを見て、すぐにそっぽを向いた。嫌われたか、何か気が障ることでもしたのかと思ったが、メガネの少女がこう言った。
「私はケアノス。航海士よ。コスタは無口であまり喋らないから、気にしないでね。まぁ、悪い子じゃないわ」
「そうなんだ。対応が難しいな……」
「コスタとケアノスの紹介が終わったから、次は私の番だねー」
と言って、ケアノスの後ろで食事をしていた活発な少女がケアノスを飛び越し、カイトに近付いてこう言った。ケアノスは危ないと言ったが、その少女はその言葉を聞き流していた。
「私はライア。料理人だよー。よろしくね」
「ああ、よろしくな、ライア」
カイトとライアが握手をする中、カイトの後ろにいた少女が近付いて声を出した。
「私はラージュ。こう見えて医者なの。何かあったら私が治療するわ。よろしくね、カイト」
「よ……よろしく」
セアンたちと比べ、どこか大人っぽいラージュの態度を見て、少しカイトは戸惑った。そんな中、何者かが酒場に乱入してきた。
「邪魔だどけ! ドシラーエ様のお通りだ、早く道を開けろ!」
「この店でいい酒を持ってこーい!」
「酒も欲しいが女も欲しい! 今すぐに用意しろ愚民ども!」
ドシラーエと名乗った男とその手下が怒鳴り、周りの客を蹴ってどかしながら店の中に入って行った。ドシラーエを見た一人の客が、嫌そうに呟いた。
「賞金首のドシラーエか、俺に力があればあんな奴ぶっ飛ばして賞金手にするけどな。迷惑だよ、本当にもう……」
「おい、今くだらなくて面白くもないジョークが飛んできたが、誰が言った?」
先ほどの独り言を、ドシラーエが耳にしてしまった。ドシラーエはその客に近付き、首を掴んで宙に上げた。客は苦しそうな声を上げながらも、何とかドシラーエの手を首から外そうとしたが、ドシラーエの力はとんでもなく強く、離れようとはしなかった。
「あがっ……がっ……あ……」
「お前か? くだらないジョークを言ったのは? ジョークを言うなら俺様を爆笑させるジョークを言うのだな! くだらないジョークを言った罰だ、ここでお前を殺す!」
息苦しそうな客の顔を見て、ドシラーエの部下は爆笑していた。カイトは刀を手にし、ドシラーエに攻撃しようと考えたが、その前にセアンたちがドシラーエに近付いていた。
「止めなよ、デカブツ。周りの人に迷惑かけてるじゃん」
「痛い目にあいたかったら、私たちが相手になるわ」
「ここで暴れる以上、どうなっても私たちは知らないから」
セアンたちは武器をドシラーエに向けてこう言った。声を聞いたドシラーエは不機嫌そうにセアンたちの方を振り返って顔を見た。まずいと思ったカイトはセアンたちを守ろうとしたが、セアンたちの顔を見たドシラーエとその部下の様子が変わったことを察した。
「は……はへ……え……え……」
「え……マジで……」
「何ボーっとしているの? 私たちの言うことを聞きなさいよ。それとも、ここで私たちと戦うつもりなの?」
苛立ったセアンがこう言うと、我に戻ったドシラーエと部下は叫び始めた。
「う……嘘だろ……ピラータ姉妹だ!」
「ゲェッ! 何でこんな所に!」
「ほ……本物か? 他人の空似じゃ……なさそうだ……ヒェッ!」
ドシラーエとその手下はセアンたちの顔を見て、後ろを向いてそのまま逃げようとした。だが、ライアが出入り口の前にジャンプして移動し、ドシラーエたちの逃げ道を防いだ。突如現れたライアを見て、もう逃げることはできないと察したドシラーエとその部下は、その場に座り込んだ。
「ねぇ、あんたらの賞金っていくら? 早く教えてよ」
「ひゃ……百万ネカですぅ……」
「百万か。こりゃー大儲けだねー。弱そうだと思ったけど、結構いい値だ。何かやらかしたの?」
「あなた方の同業者です。各地でそれなりに暴れていました」
「ということは、町を襲いまくったり、人を殺したりするからそれだけ値が付いたんだね。それじゃ、捕まえるからそれまで大人しくじっとしていてねー。抵抗しようとしても無駄だからね。もししても、どうなるか……ちゃーんと考えてね」
ライアは笑顔を見せながらそう言って、ドシラーエとその手下を店の人が用意した紐を縛った。ドシラーエとその部下が大人しくなり、捕まったのを知った店の客や店主は、歓喜の声を上げた。
「マジか! ピラータ姉妹がここにいたなんて! 今日の俺は運がいい!」
「話では聞いていたけど、こんなにかわいい子だったなんて」
「一緒に写真撮ってもいいかなー?」
「いやー、助かった。ドシラーエも運がなかったなー」
などの声を聞き、カイトはセアンたち姉妹が一体何者か分からなくなった。
その後、カイトはセアンたちに連れられ船着き場に移動した。
「さっきはごめんねー。自己紹介の途中でいろいろあって」
「セアンたちは悪くないよ。あいつらが悪いからさ」
「でもでも、そのおかげで大儲け~」
「そうね、百万ネカは大きいわ」
ケアノスは百万ネカの札束を持ってこう言った。それを見たラージュは、ケアノスにこう言った。
「明日、私が銀行へ行ってくるわ」
「頼むわ、ラージュ。でも、この前みたいに銀行強盗を薬漬けにするのは止めてね」
「もうあんなことはしないって。大騒ぎになったから、反省したわよ」
「何やったんだ、この人? いろいろとおっかない単語が出てくるけど」
カイトはラージュを見て、不安そうに呟いた。そうしていると、セアンがカイトにこう言った。
「ここだよ。私たちの家で、船! 名前はヴィーナスハンド!」
と、セアンはカイトにこう言った。船の帆には大きなドクロマークが描かれていた。それを見て、カイトは恐る恐るセアンにこう聞いた。
「なぁ、セアンたちってもしかして……海賊?」
「そうだよー。姉妹で海賊家業やってるのー」
セアンの軽い返事を聞き、カイトは驚いた。カイトのイメージの海賊は各地を回り、暴れまわって金品を盗む物騒な輩。漫画の場合は自由な冒険者というイメージが強いが、現実の海賊は危ないという考えを持っていた。
「あ……あの、その……やっぱ俺、野宿するから。それじゃ、お世話になりましたー」
「ちょっと待ってよ、カイト。私たちはカイトが思っているよりもまともだって。賞金首にもなってないし」
「セアンの言う通りよ、安心して。悪いことは絶対にしないわ」
ケアノスが腰を抜かしたカイトにこう言った。そんな中でも、セアンはカイトを自身の海賊船に連れて行った。連れていかれる中、カイトはこれから自分がどうなるのだろうと考えた。
セアンたちの正体が明らかとなり、そろそろこの話も動き出します。カイトの前に現れたセアンたちが五つの運命なのか? それは徐々に明らかとなります。
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