煽りと煽りの激突
ムタはチェン、ヤンジ、ムダンが続けて倒れたことを察し、床に向かって唾を吐いた。
「あいつら、アーシと同格のような態度をとってたけど、結局やられるんじゃあ役立たずと一緒じゃない」
「仲間に向かってその言葉は酷いんじゃない?」
と、レイピアを構えたケアノスがこう言った。ケアノスの声をムタは嫌そうな声を上げながら、ケアノスの方を振り返った。
「何言ってんだオメー? 海賊風情がいい子ちゃんみたいなことを言うんじゃねーよ」
「悪いわね。礼儀が正しいのは子供のころからなのよ」
「ケッ。ガキの頃からつまんねークソみたいな性格なのね。まーいーやー。ちーっと暇だし、あんたアーシの相手になってよ」
ムタは魔力を解放し、火、水、雷、風の球体を発した。それを見たケアノスはムタが全属性の魔力を使えることを把握した。
「私のこれ見てビビった? キャハハハハハ! アーシは多分世界で一番強い魔力使い! 世界で珍しく全属性の魔力が使えんの。努力なんてしてないわ、アーシは天才だから何でもできるのよ!」
「自分で自分のことを天才と言えるのね。バカみたい」
「アーシは天才。あんたは無能! 天と地の差を教えてあげるわよ!」
叫び声を上げながら、ムタはケアノスに向かって魔力の球体を放った。飛んでくる球体を見ながら、ケアノスは動き、飛んでくる球体をかわした。だが、ムタの表情には焦りの色がなかった。
「避けられたーって思ってもいないわよ」
そう言って、ムタは指揮者のように両手を動かした。その動きに合わせるかのように、飛んで行った球体が再びケアノスの元へ飛んで来た。
「ま、こうなるだろうとは思っていたけど」
ケアノスは小声でこう呟くと、風の魔力を飛んでくる球体に向けて放った。風の魔力は球体に当たって破裂したが、風の球体だけ残り、ケアノスに向かって飛んで来た。
「キャハハハハハ! ざーんねーん! アーシの風が強かったよーね!」
ムタは風を操りながらこう言った。ケアノスはムタの風をかわし、ムタの方に向かって走り出した。だが、ムタは両手から雷と水の魔力を発し、床に向けて投げた。
「アーシの元には来させないよ! 感電して死ね」
その直後、ケアノスの下から電撃を帯びた氷の壁が現れた。ケアノスは氷の壁に当たる寸前に後ろに下がり、攻撃をかわしていた。その様子を見ていたムタは大声で笑った。
「キャハハハハハ! 攻撃をかわしてホッとしたでしょ! またまたざーんねーん! アーシの氷ちゃんは動くのよ!」
ムタがそう言うと、電撃を帯びた氷の壁はケアノスに向かって動いた。それを見たケアノスは魔力を解放し、氷の壁を破壊した。氷の破片が周囲を舞う中、ムタは笑顔を見せていた。
「やるねぇ。ちーっと本気を出しちゃおうかなー」
ムタはそう言うと、両手に氷の刃を作ってケアノスに迫った。
「今度は直接私を叩くつもりなの? くだらない手品はもうおしまい?」
「おしまいなのはあんたの命! そんでもって、あんたを殺したら次はあんたの姉妹をぶっ殺す!」
「そうはさせないわ。あんたはここで私に倒される」
「あんたみたいな三流海賊がアーシを倒せるなんて思わないでよね」
「うるさい口ね。それとあんた、体中からおばさんの臭いがするわ。首元のしわも酷いし、顔も厚化粧しているのが分かるわよ。見た目と比べて実年齢がかなり上でしょ。多分、三十は越えているわよね? いい歳して子供っぽい口調と服装は止めたら?」
ケアノスの言葉を聞き、ムタの額に青筋が走った。その瞬間、ムタの厚化粧にひびが入った。
「このクソガキ! アーシはまだ三十だよ! 三十路超えてねーわボケ!」
「あらごめんなさい。これ以上あんたを怒らせたら、厚化粧が台無しになっちゃうわね」
ケアノスは再びムタを挑発した。その言葉を聞き、更にムタの怒りが爆発した。
「お前だけは絶対に! ぜェェェェェッたいにぶっ殺す!」
ムタは魔力を解放し、火と風の渦を放った。ケアノスはその攻撃をかわすが、エンデルングの船員や船が傷付いた。
「ギャァァァァァ!」
「ムタさん! 暴れないでください!」
「あんたの攻撃に巻き込まれたら、俺たち死んじゃいますって!」
船員は悲鳴を上げながらこう言ったが、ムタの耳にこの言葉は届かなかった。
「どこに攻撃しているのよ。私はここよ」
攻撃をかわしながらケアノスは挑発を続けた。ムタはさらに怒り出し、ケアノスに攻撃を仕掛けた。
戦いやすい女だ。
ケアノスは心の中でこう思った。ムタをわざと挑発しているのもケアノスの作戦。よくあるわざと相手を挑発させて、体力と魔力を奪ってから攻撃するといういつもの手である。ケアノスはムタと戦う前、ムタの魔力を察知して彼女の強さを把握したのだ。そして、ムタをわざと周囲が見えなくなるまで怒らせ、感情が入った攻撃でエンデルングを壊滅させようとケアノスは考えたのだ。
その考えは的中した。ケアノスの予想通り感情的になったムタは無駄に魔力を使い、エンデルングの船員や船を攻撃しだしたのだ。
そろそろ頃合いだろう。
そう思ったケアノスはムタの前に立ち、レイピアを振るった。攻撃を受けたムタは後ろへ吹き飛び、苦しそうに血を吐いた。
「グフェェェ……こ……このガキ……」
「これ以上動かないで。下手に暴れるとあんたをもう一度斬るわよ」
ケアノスはレイピアの刃を向けてこう言った。ふざけるなと思いながらムタは魔力を解放しようとしたが、急に体が重くなり、その場に倒れた。
「そ……そん……な……」
「それだけ暴れて体に限界が来ているのは、歳を重ねた結果よ。さ、観念しなさい」
ケアノスはそう言ってムタに近付いたが、ムタは素早くイコルパワーを取り出し、注入した。
「なっ! あなた、それを使ったらどうなるか知っているでしょ!」
「あんたみたいなクソガキに倒されるより、暴れて死んだほうがましだよ!」
ムタはそう言いながら、笑い声を発した。
一方、ライアはエンデルングの船員と戦いながら、ケアノスの戦いの様子を見ていた。
「うわー、強い魔力を持ったおばさんだなー。ケアノス、大丈夫かな?」
目の前の船員を蹴りながら、ライアは呟いた。そんな中、鞭が動く音が聞こえた。ライアは素早く後ろにいた船員を盾にし、攻撃を防いだ。
「あらん。失敗しちゃったわね。いい子を見つけたと思ったんだけど」
そう言いながら出て来たのはハライ。ハライは際どい衣装に着替え、鞭を操って船員を引き寄せた。
「あなた、あんな子に捕まるなんて弱い証拠よ」
「あいつらが強すぎるんです……」
「ダメな子ね。あなたみたいな子はお仕置きするわよ」
「か……勘弁してください」
「だ、め、よ。お仕置きを受けなさい」
ハライはそう言って、風で大きな狼の頭を作り出した。その大きな狼の頭は大きな口を開け、鋭い牙を見せた。
「ヒッ、ヒィィィィィ!」
それを見た船員は何とか逃げ出そうとしたが、ハライの鞭はかなり絡まっていて、そのせいで身動きが取れなかった。そんな中、狼の頭は船員に近付き、体の上半分に噛みついた。
「ウワッ!」
目の前の悲惨な光景を見て、ライアは思わず顔をそむけた。狼の頭が消えた後、床にぐちゃぐちゃになった血まみれの肉片が落ちた。
「ダメな子はあの世で反省しなさい。あなたもよ、ピラータ姉妹。私たちの計画を邪魔したら、殺すわよ」
「なーにが殺すわよ、よ! あんたみたいなスケベおばさん、私がぶっ倒す!」
「おばさんなんて失礼ね。私はこう見えても二十八よ」
「似たようなもんじゃないの!」
ライアはナイフを持って、ハライに襲い掛かった。
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