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大きなダメージを狙え


 優れた治癒術と槍の技術、そして風を水の魔力を持っているチェンを相手にカイトは戦っている。カイトは受けた傷を治しながら戦っているが、チェンの治癒術はカイトの治癒術より優れているため、治す速度が違う。どれだけダメージを与えても、チェンはその傷を治してしまうので、彼を倒すには治癒できないほどのダメージを与えなければならないとカイトは思った。そんな中、チェンはカイトに迫ってきた。


「何を考えているか分からないが、君はここで死ぬ運命だ!」


 と言って、チェンは槍に魔力を流し、水を発して凍らせた。その長さは元の槍の長さより三倍近く長くなっていた。その矛先には、風の刃が唸るような音を上げて発していた。この攻撃を受けたらまずいと察したカイトは、攻撃をかわすことを決めた。だが、チェンはカイトが逃げた方向に向かって槍を回した。


「ゲッ!」


 飛んで来た槍を見て、カイトは反射的にしゃがんで攻撃をかわした。だが、すぐに二撃目の攻撃がカイトを襲った。


「これで終わりかと思ったかい?」


 足に攻撃を受けたカイトを見て、チェンはにやりと笑った。振り回している槍をもっと早く回したため、カイトは連続で攻撃を受けてしまった。


「ぐわァァァァァ!」


 カイトは傷だらけになりながら後ろに吹き飛び、壁に激突した。続けて傷を負ったカイトだが、魔力を解放して皮膚を固くしていたため、酷い傷を負うことはなかった。だが、無数の切り傷ができてしまい、体中から血が流れている。


「クッ、菌が入ったらどうすんだよ。この船、汚そうだし」


「ご心配には及ばない。船は毎日丁寧に掃除しているさ」


 チェンは魔力を抑え、槍を纏っている氷や風を消した。カイトは立ち上がり、刀を構えてチェンを睨んだ。その姿を見たチェンは驚きの声を上げた。


「おや。これだけの傷を受けてまだ立ち上がるんだね」


「簡単にくたばってたまるかよ。あんたは必ず俺が倒す」


「どうやって倒すんだね? この傷で、私を倒すとは思えないが」


 そう言って、チェンはカイトを見下すように笑った。その時、カイトは隙を見てチェンに接近し、刀を振り下ろした。会話の中、チェンはカイトがすぐに動かないだろうと思っていたため、完全に油断していたのだ。


「ガハッ……君……まだ……動けるのかい」


「当たり前だ。体中に切り傷ができただけだ。深い傷は一つもない」


「そんな……酷いね……油断させるなんて……」


「海賊の喧嘩にルールはないって聞いたからな。油断したあんたが悪い」


 カイトがそう言うと、チェンの体から血が流れた。カイトが放った斬撃は、かなり深かったのだ。


 これはまずいね。こうなったら……仕方ない。


 チェンは心の中でこう思い、懐から注射器を取り出した。それを見たカイトは急いで注射器を破壊しようとしたが、遅かった。カイトが動いた直後にチェンは注射器の針を自分の左腕に突き刺したのだ。


「これが何なのか……分かっているようだね」


「イコルパワーだろ? そんなもん使うなよ!」


「使わないといけない状況だから使うんだよ。ごめんね、君を道連れにするよ」


 チェンがこう言うと、チェンの体は急に膨張し、巨大化した。カイトは舌打ちをし、巨大化したチェンを睨んだ。


「クソッたれ! こうなったらやるしかない!」


 カイトは魔力を解放し、巨大化したチェンに向かって刀を振り下ろした。だが、チェンはその攻撃を左手で受け止め、カイトを見た。


「理性が残っているうちに言っておくよ。勢い余って死なせたら悪いね」


「だったら今すぐにラージュにこのことを伝えろ! ラージュなら、イコルパワーの解毒方法を知っている!」


「そうらしいね。でもね、今私が使ったのは新型。旧型のイコルパワーの解毒方法なんて使えないよ」


 話を聞いたカイトはショックを受けた。ラージュがあれだけ頑張って見つけた解毒方法が、こうも簡単に使えなくなるとは思ってもいなかったからだ。チェンは苦しそうな顔をし、カイトにこう言った。


「そろそろ本能が牙を向きだしそうだ。とりあえず……私だけが逝くか、一緒に逝くかの二択になりそうだね……」


「ふざけんな。俺はまだ死なない。セアンたちを置いて死ぬわけにはいかない」


「フッ、男らしいことを言うじゃないか……でも、世の中は君の思い通りに動かないもんだよ……グッ!」


 チェンは小さなうめき声を上げた後、獣のような声を上げた。そして、近くにいたカイトに向かって勢いよく左腕を伸ばした。捕まると思ったカイトはチェンの左手をかわし、刀の刃に風を発した。


 もうダメか。あのオッサンは……もう助からない。


 カイトは心の中で、チェンはもう助からないことを察した。そして、再び迫るチェンの左手を見て、刀を振るった。刀の刃はチェンの左手に命中し、纏っていた風が追い打ちを仕掛けるようにチェンの左手を傷つけた。


「グオオオオオ!」


 攻撃を受けたチェンは後ろに下がり、左手を抱えた。カイトはチェンに接近し、両足の太ももを斬ってチェンを転倒させた。


「これで終わりにするぞ。おっさん、逝くのはあんただけだ。恨まないでくれよ」


 カイトはそう言って、両手を前に出し、風と刃の衝撃波を放った。攻撃を受けたチェンは後ろに吹き飛び、壁に命中した。


「やった……か」


 吹き飛んだチェンを見て、カイトは様子を調べた。イコルパワーを使った者の末路は何度も見て来たカイトだが、チェンが使った新型がどうなるかは分からなかった。もしかしたら、旧型と同じように目玉や体が膨らんで破裂するのだろうとカイトは思っていた。


 しばらくすると、チェンは立ち上がった。カイトはまだ戦うつもりなのかと思い、刀を手にしたが、チェンはカイトの方を見て笑みを浮かべた。


「理性が戻った」


「何だよ。でも、俺と戦うつもりだろ?」


「私の負けだ。理性は戻ったけど、体は限界の用だ」


 チェンはそう言って、異様に膨張した左腕をカイトに見せた。その瞬間、チェンの左腕は破裂した。


「どうやら新型のイコルパワーも旧型と同じように、使ったら体中が破裂して死んでしまうようだ。廃人になると聞いていたが……それは別の末路だったかもしれないな」


「そんな……でもあんたは……」


「私を哀れだと思っているのか? それとも救いたいと思っているのか? 無駄だ。言っただろ、世の中は君の思い通りには動かない。救えぬ命もあるということだ」


 チェンがそう言うと、今度は右腕が破裂した。チェンは小さく笑い、カイトに向かって口を開いた。


「そろそろお別れのようだ。目も熱くなってきたし。少年、君は優しい心を持っているようだが、優しさだけでは世の中を渡れない。非情になることも必要だ。ま、君がこれからどんな人生を歩むのか……あの世でゆっくりと見るとするよ。それじゃ」


「おい! 待て!」


 カイトはチェンに近付こうとしたが、その前にチェンは船から飛び降りた。カイトが近付いた時にはチェンは海に着水しており、その直後に血が混じった水しぶきが舞った。


「く……くぅぅぅ……クソッたれ!」


 カイトは床を殴り、こみ上げてきた感情を爆発させた。こんな形で戦いに勝利しても、カイトは嬉しくなかったからだ。




 ヤンジはチェンの魔力が消えたことを感じ、目を開いて驚いた。


「チェン……お前が負けるとは……」


「私たちのカイトが勝ったみたいだね」


 と、ヤンジの近くからセアンの声が聞こえた。ヤンジはセアンの方を見て、斧を構えた。


「お前の彼氏がうちの若いのを始末したってことか?」


「イコルパワーでも使ったんでしょ? 私たちは命を奪わないよ」


「そう聞いている。だが、どうして命を奪わない? 海賊同士の戦いは喧嘩じゃない。殺し合いだ」


「殺し合いとか私たちはそんなこと考えてないわ」


「そんなに優しいと、後で苦労するぞ」


「ブラッディークローのせいで今の人生苦労だらけよ」


 セアンはそう言って、ハンドガンをヤンジに向けた。それを見たヤンジは小さく息を吐いた。


「やってみろ。そんな小さな銃でワシを倒せると思うなよ」


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