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紳士の攻撃方法


 カイトはライアとメリスの治療を受ける中、不意打ちを受けた自分が情けないと思っていた。そんな中、浮かない表情のウイークが戻って来た。


「ウイーク、勝ったんだね。でも、その様子じゃあ……」


「ご想像の通り。俺の相手はイコルパワーを使って自滅した」


 ウイークはそう答えると、ため息を吐きながら地面に座った。ウイークとライアの会話を聞き、イコルパワーによる犠牲者がまた増えてしまったとカイトは思った。


「悲惨な結果を生み出すしかないのに、どうしてそんなものを……」


「何が何でも勝ちたいんだろう。死んでも相打ちだからな……」


 メリスの言葉に対し、カイトはこう答えた。答える中、カイトはこう思った。死んでまでも掴んだ勝利に意味はないと。




 ラージュは大剣を振り回しながら、ターティーに攻撃を仕掛けていた。


「お嬢さん。その攻撃はもう見切っているよ」


 ターティーは体を左右に振り回しながらラージュの攻撃をかわしていた。かすりはするだろうとラージュは思っていたが、ターティーの体に切り傷はなく、服にも傷はなかった。


「本当に私の攻撃を見切っているようね。驚いた」


「当たり前のことですよ。大振りの攻撃は威力が大きいが、動きが遅いから簡単に見切ることができる」


 ターティーは胸ポケットから葉巻を取り出し、火の魔力を発して葉巻に火を付けた。その様子を見て、ラージュは嫌そうな顔をした。


「私、煙草は嫌いなんだけど」


「すまないが、今の時間は私のリフレッシュタイムだ。葉巻を一本吸わないと気が落ち着かないのでな」


 そう答えながら、ターティーは口から煙を吐いた。それを見たラージュはため息を吐いた。


「煙草は体に悪いわよ。それでも吸い続けると、あなた病気になるわよ」


「海賊家業をやっている身だ。いつ死んでもおかしくない状況なのでな。ならそれまで、好きなことをしたい」


「その血に塗られたグローブで人を殴り殺すことも好きなことのうちに入るのかしら?」


「その通りだ。さて、戦いを始めよう」


 ターティーは吸い終えた葉巻を地面に押し当て火を消し、足で踏み潰した。その直後、ターティーは魔力を解放してラージュに接近した。行動を察していたラージュは横へ飛び、ターティーの突進をかわした。


「甘いぞお嬢さん」


 ターティーはそう言うと、ラージュの方を向いて猛スピードでラージュに突進を仕掛けた。急に向きを変えての二度目の突進。そう来るだろうとラージュは予測していた。再び迫って来るターティーに対し、ラージュは反撃の手を用意していた。


「甘いのはそっちじゃなくて?」


 ラージュの言葉を聞いたターティーは不信感を持った。そして、ラージュの態勢を見て目を開いて驚いた。ラージュは大剣を振り上げる構えを取っていたのだ。


「ほう……無茶な姿勢をする」


「そうでもないわよ」


 ラージュはターティーにそう言って、大剣を振り上げた。攻撃を受けたターティーは後ろへ吹き飛び、地面に激突して倒れた。


「ふぅ……痛いねぇ」


 倒れたまま、ターティーはそう言った。ラージュはとどめを刺すためにターティーの元へ向かったが、ターティーの周りに火の玉が現れた。


「私たちは君たちを殺すように言われてここに来たんだ。そんな簡単にやられるわけにはいかないねぇ」


「しぶといおっさんは嫌われるわよ」


「しぶといよりも、渋いって言われたいねぇ」


 ターティーは背中に付着した土埃を払いながら立ち上がった。そして、周囲に発していた火の玉を左右の拳に付着させ、ラージュを見た。


「本気を出させてもらうよ。火傷するかもしれないけど、私を本気にさせたお嬢さんが悪いんだからね」


「上等。かかって来なさいよエセ紳士」


 ラージュは大剣を構えてこう言った。その直後、ターティーは猛スピードでラージュに接近して左のフックで攻撃を仕掛けた。あまりにも早すぎる左のフックはラージュに命中し、大きな隙を作らせた。


 お……重い!


 一撃が重いことをラージュは感じ、後へ下がって嗚咽した。ターティーはジグザグに走りながらラージュに接近し、右のストレートで攻撃を仕掛けた。ラージュは体を反らして攻撃をかわそうとしたが、ターティーはラージュの動きに反応し、右腕を動かして攻撃の軌道を変えた。


「安易な回避は身を削るよ」


 ラージュを見ながら、ターティーがこう言った。ターティーの右ストレートはラージュの右の脇腹に命中した。ラージュは脇腹の骨が折れる音を聞きながら、遠くへ吹き飛んだ。


「さて、この攻撃を受けて立つことができるかね?」


 吹き飛んで倒れたラージュを見ながら、ターティーはグローブの位置を直した。攻撃を受けたラージュはふらつきながら立ち上がった。だが、反撃はしなかった。


 あいつの攻撃、早すぎる。そして重すぎる。


 と、ラージュは心の中でターティーの攻撃が恐ろしいと感じていた。右ストレートを受け、右の脇腹の一部が折れてしまった。派手に動くと、折れた骨が臓器に刺さる危険がある。そのせいで、ラージュは派手に動けなくなってしまった。だが、ラージュは勝利を諦めていなかった。


 考えろ。勝機はある。脇腹は折れたけど、あと一回大きく動ける。


 ラージュは折れた脇腹を抑えながらこう思った。次の攻撃で全てを決めるとラージュは考えたが、どうやってターティーに一撃入れるかどうか分からなかった。


「さて、とどめを刺すよ」


 ラージュが思考を巡らせていると、ターティーが襲い掛かって来た。ラージュは魔力を解放させ、痛みをこらせながらターティーから離れた。


「傷みが激しいのかい? さっきより動きが鈍くなっているよ」


 と、ターティーは笑みを浮かべながらこう言った。この笑みを見て、ラージュはターティーが自分の勝利を確信していると感じた。


「ふん!」


 ラージュに接近したターティーは、大振りの左アッパーを放った。その時、ラージュはあることを察した。そのため、簡単にこの攻撃をかわすことができた。


「ふむ。運がよかったな。私の左アッパーを、負傷した身でかわすとは」


「運がよかった? それはどうかしら?」


 運がいいと言ったターティーに対し、ラージュは笑みを浮かべてこう言った。その態度と表情に苛立ちを覚えたターティーはため息を吐いた。


「死ぬ寸前の人間があまり大きな態度をするもんじゃあない」


「ならとどめを刺せばいいじゃない。まぁ、できるかどうか分からないけど」


「そうか。そんなに死にたいのなら、お望み通り殺してあげよう」


 ターティーは右手を前に出し、魔力をさらに解放して発している火を強くした。巨大になった火の拳を後ろに引きながら、ターティーは叫んだ。


「この一撃であの世へ逝くがいい! 私に対して無礼な態度をとったこと、後悔するがいい!」


 その後、雄たけびを上げながらターティーはラージュに向かって右のアッパーを仕掛けた。だが、ラージュはその攻撃をかわし、魔力を解放して大剣を構えた。


「な……何故私の攻撃を見切った?」


「火に着いたグローブが教えてくれたのよ。あなた、選択をミスったわね。威力を上げるためにそうしただろうと思うけど、それが逆にどんな攻撃が来るか私に教えてくれたわ」


 ラージュの返事を聞き、ターティーは攻撃をかわされた理由を把握した。そして、大振りの攻撃を行った反動で、隙だらけになった自分の体を見てため息を吐いた。


「隙だらけだな、今の私は」


「覚悟を決めて頂戴。こっちもあと一回しか攻撃できないから、渾身の力で行くわよ」


「ああ。そうか」


 勝利を諦めたターティーがこう言った後、ラージュは渾身の力を込めて大剣を振るい、ターティーに一閃を浴びせた。

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