ブラッディークローの狙い
ケスタージュンにいるロスは、エンデルングの海賊船の部屋内でエロ本を読んでいた。
「むふ。ぐふふふ。いひひ~」
「ロス様、変な声を出しながらエロ本を読むのは止めてください。正直ドン引きしています」
その様子を呆れながらデルマグがこう言った。ロスはデルマグの言葉に気付き、口から出ているよだれを腕で拭き、机の上にエロ本を置いた。
「悪い悪い。エロ本読んで癒されていた」
「リラックスするどころか、興奮してさらに疲れると思いますけど」
「俺の場合はリラックスになるの。で、シーポリス討伐隊はどーなったの?」
ロスはデルマグを見ながらこう言った。デルマグは少しの間を置いた後、シャンジュたちのことを伝えた。
「シャンジュたちは全滅したと思われます。かれこれ二時間連絡がございません」
「そんだけ待っても連絡がないなら、全滅したって考えが正しいな。手渡したイコルパワーを使う羽目になったかもしれないな」
ロスはそう言ってデルマグに近付いた。
「奴らのことは残念だが、命を落とした以上助けることはできない。だが、奴らの死は無駄じゃない。それなりに時間稼ぎができたはずだ」
「そう……だといいんですが」
「できたって思っとけ。そうすれば、死んだあいつらも自分たちの死が無駄じゃないってことを知って安堵してるだろうよー」
ロスは再び椅子に座ってこう言った。そして、勢いを付けて椅子を回しながらロスはエロ本を手にして読み続けた。だが、まだデルマグはいた。デルマグが部屋から出ないことを察したロスは、椅子を止めてエロ本を机の上に置いた。
「なーにー? まだ話があんのー?」
「ええ。イコルパワーの研究が終わった後のことについて詳しく知りたくて」
デルマグの返事を聞き、ロスはそうだなと呟きつつデルマグの方を向いた。
「まず、俺たちがやろうとしていることは分かるな?」
「はい。イコルパワーの改良型を作り出し、傘下の海賊団や裏で繋がっている組織に渡す」
「そうだ。イコルパワーは使ったら強くなるが、時間が経てば死んじまう。死ぬってのが大きなデメリットだが、ブラッディークローにとってはシーポリスや俺たちに歯向かうバカな海賊団を相打ちにできるし、捕まったとしても情報を漏らすことができないから万々歳だ」
デルマグはロスの言葉を聞き、傘下の海賊団たちは捨て駒のように扱うのかよと思ったが、ロスがそのことを察せずにデルマグに近付いた。
「だが、ピラータ姉妹のせいでブラッディークローはそれなりに大きなダメージを受けた。今までいくつも傘下を失った。これからも、奴らは俺たちを狙って動くだろう。だから、そう簡単に傘下の海賊団を失うわけにはいかないって方針に切り替わった」
「そうですか」
この言葉を聞き、デルマグは安堵の息を吐いた。
「今、研究班が行っているのはデメリットからしを取り除く研究だ。俺の予想だが、死にはしなくても、強すぎる反動で精神がいかれるかもしれない。そこんところは考えてくれよ」
「そうなったら、死と同じじゃないですか」
「俺だってそう思う。だけど、強すぎる力を得た結果、その反動で代償を受けるってのは変わらないようだ。ま、どうあがいてもそうなるってことだ。死なないだけ、ましだと思え」
ロスがこう言うと、デルマグは少し考えて言葉を返した。
「ですが、どうしてイコルパワーから力を得ようとするのですか? 力を得る危険薬物はこの世にもっとあるはずですが」
「そいつらの中で、イコルパワーが最も強力だからだよ。とにかく力が欲しいってわけ」
ロスの返事を聞き、デルマグは黙った。デルマグがこれ以上何も言わないことを察したロスは、話を続けた。
「研究がうまく行けば、もちろん傘下の海賊たちに渡す。それともう一つ考えていることがある」
「それは?」
「金稼ぎだよ」
ロスはそう言って、笑い始めた。
「考えてみろよ! 戦争が大好きな国にとっては、イコルパワーから得る力は何が何でも欲しい。だけど、その代償が大きすぎて使えない。しかし! 死の代償とは別の代償に切り替わり、どんな形でも使った奴の命が無事であれば軍事国家の連中は欲しがるはず! だから、そいつらを相手にして商売するってことさ!」
「金ですか……」
「そうだよ。金がないと、俺たちみたいな大規模な海賊組織でも生きていられないからな。この計画はボスが前々から考えていたんだ。今、俺が中心になって動き始めたってわけだ」
ロスは話を終え、椅子に戻ってエロ本を読み始めた。
命よりも金なのか。
そう思いながらデルマグは部屋から出ようとしたが、その背中を見ながらロスがこう言った。
「デルマグ。いろいろと思うことがあるようだが、無駄なことを考えるなよ。お前たちは下っ端だ。ただただ俺たち上の連中の言うことを聞けばいい」
「ぐ……分かりました」
デルマグは扉を閉めて部屋から去った。部屋の外で、デルマグは心の中でこう思った。
ブラッディークローの傘下にならなければよかった。
シャンジュたちとの戦いを終え、ラージュから話を聞いたカイトたち。その後、カイトは外に出て海を見ていた。イコルパワーと言う力を与える危険な薬物の存在を知り、それらを使った敵と今後戦うかもしれない。そうなった時、今度はどう戦えばいいのか考えていたのだ。
カイトが物思いにふける中、セアンとケアノスが近付いてきた。
「カイト、何か考えているの?」
セアンの声に気付いたカイトは、セアンの方を振り返って返事をした。
「ああ。イコルパワーって薬物を奴らは最後に使って、死んだだろ?」
「うん。もしかして、どうやってイコルパワーを使った敵と戦えばいいって考えているの?」
「その通りだ」
カイトがそう答えると、ケアノスが口を開いた。
「確かに今後、イコルパワーを使った敵とどうやって戦うか、どうやって救うか考えないとね。今回のように敵の悲惨な最期は見たくないわ」
ケアノスはエンデルングの船員たちの散り際を思い出してこう言った。カイトはため息を吐き、こう言った。
「死ななずに済めばいい。それもそうだけど、止めるまでが大変なんだよな」
「そうだね。攻撃をしても奴らは何も反応ないし」
「イコルパワーを使ったら、感覚が麻痺するのかしら? だとしたら厄介よ。敵は自分がダメージを受けているとも知らずに突っ込んで来るかもしれないわ」
「ああ。それに、死ぬタイミングが早まるかもしれないし」
「カイトの言うことに一理ある。どうしよう……」
セアンがそう言った後、三人は同時にため息を吐いた。そんな中、上からシーポリスの戦士の声が聞こえた。
「ケスタージュンの港が見えました! 出る人は準備をお願いします!」
この声を聞き、カイトたちは顔を見合わせた。
「そろそろ上陸だな」
「うん。部屋に戻ろう」
「これからが大変よ。二人とも、気を引き締めてね」
話を終えた後、カイトたちは部屋に戻って上陸の準備を始めた。
ケスタージュンに上陸したのはピラータ海賊団、ウイーク、サマリオ、メリス、そしてツリーだった。上陸の際、ツリーは不機嫌な様子を見せていた。
「大変なことになりそうなのに、なんで私も上陸しないといけないのよー!」
「仕事だからだ。お前、そろそろ働け。いつも船の部屋や宿屋の部屋で引きこもってばかりだし」
「いいじゃない! 私は正面で戦うよりも裏方の方が似合うのよー!」
「はいはい。それじゃあ行きましょうねツリーさん」
と、メリスがツリーを後ろから押して歩き始めた。嫌がるツリーを見て、カイトはこの先大丈夫なのだろうかと心配になった。
その様子を、木の陰に隠れている何者かがじっと見ていた。そして、しばらくして姿を消した。
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