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血が舞う海の上


 カイトたちはシャンジュたちから逃げていた。時折反撃で魔力の塊を作って放ったのだが、前にいるシャンジュは魔力の塊を受けても動きを止めなかったのだ。


「クソッ! どんだけ強くなってんだあいつら!」


「さっきの薬っぽいのが原因だよね? あれを壊せばよかったのかな?」


「ライアさん、今頃見逃したことを悔いても仕方ありません! 今はとにかく逃げましょう!」


 カイトたちが話をしていると、シャンジュの後ろにいたカーデオが高く飛び上がり、カイトたちの前に着地した。


「逃がさんぞ」


 カーデオは右手で大剣を持っており、床に着地したと同時に大剣を構えていた。


「やるしかねーのか!」


 カイトは魔力を解放し、刀を構えた。その時、上空からサマリオが放った炎の矢がカーデオを貫いた。


「今のうちに逃げるんだ!」


「ありがとうございます!」


 メリスが礼を言った後、すぐにカイトたちと共にその場から離れた。カーデオは炎の矢を無理矢理自身の体から引き抜いた後、サマリオを睨んだ。


「どうやら私の手によって殺されたいらしいな。なら、望み通りお前から殺してやろう」


「筋肉ダルマになって、脳みそも筋肉まみれになったと思ったが、理性だけは残っているようだな」


 サマリオがこう言うと、カーデオは叫び声を上げながらサマリオに向けて大剣を振るった。サマリオは勢いよく振り下ろされる大剣を見て、防御しても意味がないことを察し、横に飛んで回避した。


「グオオオオオオオオ!」


 大剣が床にめり込んだ後、カーデオは力を込めて大剣を横に振るった。サマリオは飛んで大剣をかわし、カーデオの頭に向けて炎の矢を放った。飛んでくる炎の矢を見て、カーデオは笑みを見せながら額を炎の矢にぶつけた。激しい音が炸裂した後、カーデオの額を中心に煙が舞った。


「どうだ? この程度の魔力……受けてもびくともしないぞ」


「頭も強くなっているようだな。厄介だ……」


 サマリオはため息を吐いて呟いた。その時だった。突如、カーデオの表情が変わったのだ。


「ガッ……あっ、あっ……ガアッ!」


 表情が変わった直後、カーデオは苦しそうな声を上げた。右手の大剣を落とし、カーデオは両手で首元をかきむしった。何かが起こったとサマリオは察し、カーデオの動きを止めようと近付いた。その直後、カーデオの両腕から破裂するような音が響き、噴水のように血が噴射された。


「何!」


 突如血が流れたことに驚いたサマリオは、少しの間立ち止まってしまった。我に戻った後、カーデオの出血を止めようとしたのだが、カーデオの両目が異様に膨れ始めた。


「目が! 目が! 目の前がおかしい!」


 と、カーデオは両手で目を抑えた。だが、膨らんだ眼球は抑えた両手からも確認できた。すぐに治療をしないと大変なことになるとサマリオは察したのだが、動こうとした直後に何かが破裂音が響いた。その音を聞いてサマリオは察した。異様に膨らんだカーデオの両目が破裂したと。その後、カーデオの全身から勢いよく血が噴射し、しばらくしてカーデオの体はしぼむように元に戻り、カーデオはその場に倒れた。倒れたカーデオに近付いたサマリオは、すぐにカーデオの脈を調べたが、脈は動いていなかった。


「死んだか……」


 悔しそうにサマリオがこう呟いた直後、周囲にいたエンデルングの船員が苦しみ始め、カーデオと同じように両目が膨らみ、破裂した。こんな光景の中、シーポリスの戦士がサマリオに近付いた。


「大佐、これは一体……」


 こう聞かれたサマリオは、エンデルングの船員が注射器を使っていたことを思い出しつつ、こう答えた。


「力を得た代償だろう。奴らは何かしらの薬物を使って反撃をしたが、その結果失敗したと」


 こう答えた後、シャンジュやエアエの悲鳴が聞こえた。サマリオが確認しようと動いたのだが、すでにカイトたちが倒れているシャンジュとエアエの元にいた。


「カイト君。彼らは……もしかして」


「サマリオさんが予想している通りです。奴らは……死にました」


 カイトはシャンジュとエアエの死体を見ながら、サマリオにこう言った。


 戦いが終わって数分後、肉体的にも精神的にも疲れていたカイトとライア、メリスはその場で座っていた。


「嫌な戦いだったな」


「敵は強かったし、追い込まれると変な薬を使う」


「そして命を落とす。えげつない方法で」


 三人はそう言って、同時にため息を吐いた。すると、扉からラージュが現れた。


「戦いは終わったのね」


「ラージュ……」


「セアンたちはどこ? 皆に話があるんだけど……この状況じゃあもうしばらく後にした方がいいわね」


 ラージュは周囲が血まみれになっていることを察し、扉を閉めた。しばらくして、別の場所で戦っていたセアンたちが合流した。


「カイト、ライア、メリス、気分は大丈夫? 私は大丈夫じゃない」


「俺もセアンと同じ気分だよ。こんなことになるだなんて思ってもいなかった」


「あいつら、変な薬を使っていたわね」


「それでこんな目にあったと……」


 コスタとケアノスは周囲を見ながらこう言った。ライアはウイークがいないことを察し、セアンに尋ねた。


「ウイークは?」


「あそこでグロッキーモード」


 セアンが指さす場所には、嗚咽するウイークの姿があった。


「いきなり凄惨な光景を見たから、気持ち悪くなったんだって」


「そりゃそうだよ。目玉が破裂して、体中から血が流れるんだもん。そんな光景を見て平気でいられる人はいないよ」


 ライアはため息を吐いてこう言った。しばらくの間、カイトたちは誰も話をしなかった。だが、数分してセアンがこう言った。


「とりあえずラージュの所に行こう」




 その後、カイトたちはラージュがいる研究室にいた。ラージュはイコルパワーに関する本をカイトたちに見せて話を始めた。


「あいつらが使ったのはイコルパワーって言う薬物よ。簡単に言えば、超危険なドーピング」


「それを使ったら筋肉モリモリになるのか?」


 カイトの質問を聞き、ラージュは頷いて返事をした。


「そう。だけど、その代償で脳や心臓にかなり負担がかかるわ。もちろん、体中にも大きな負担がかかるわ。その結果、動けるのはたった数分。時間が切れれば命を落とす」


「本通りだね」


 セアンは本を読んでこう言った。ラージュは椅子に座り、考え事をしながら話をした。


「イコルパワーは命にかかわるから危険な薬物に認定されているわ。だけど、ブラッディークローの重役がイコルパワーがたくさん生えている島に来ているなら、それ相当の理由があるはずよ」


「イコルパワーがたくさんほしいからでしょ?」


 ライアがこう言ったが、ラージュがすぐに返事をした。


「その理由よ。傘下の海賊団に渡すとしても、使ったら死ぬという大きなデメリットがある。あいつらも使い走りの傘下の海賊団が減るのはよくないと考えてもいいわ」


「それじゃあ、イコルパワーを改良するのか? 大きなデメリットがあるんなら、それを消すために改良するかもしれないな」


 ウイークがそう言うと、ラージュの目が点となった。何も言わなくなったラージュを見て、ウイークは慌て始めた。


「え? 俺、なんか変なこと言っちゃった?」


「改良! ウイークが答えに近いことを言ったかもしれないわ! ブラッディークローは大きな組織だから、奴らに手を貸している研究者もいるかもしれないわ!」


 嬉々とした表情でラージュがこう言った。この話を聞き、カイトはブラッディークローの狙いが少しずつ理解できたと思っていた。イコルパワーを入手して改良し、リスクなく強化できる危険な薬を作ると。


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