狂気乱舞
カイトたちに返り討ちにされたエンデルングの船員たちは、謎の液体が入った注射器を使い、中の液体を注入した。その液体を体内に注入した直後、倒したはずの船員たちや、シャンジュたちが立ち上がり、狂ったように笑い始めた。
その様子を見ていたラージュは、近くまで転がって来た注射器を拾い、中を見た。液体はほとんどなかったのだが、周りには多少の液体が残っていた。
多少であれど、これさえあればこれが何か分かるはず。
そう思ったラージュは、近くにいたコスタの方を向いた。
「コスタ、今からこいつを調べてくるから後はお願い」
「うん。何か分かったらすぐに来て。こっちも大変なことになりそうだから」
「ラージュさんがいない間、我々が踏ん張ります!」
コスタとラージュの話を聞いていたシーポリスの戦士がこう言った。ラージュは頼むわねと言った後、急いで研究室へ向かった。
カイトは立ち上がったエンデルングの船員たちを見て動揺していた。彼らの体は異様に膨れ、目が真っ赤に充血していた。
「へ……へへへ。こいつはすげぇや。力がどんどん溢れてくるぜ」
「とにかく暴れるぞ。早くこの力を試したい!」
船員たちは叫び声を上げながら、カイトたちやシーポリスの戦士に襲い掛かった。
「クソッ! 倒れたんだったらもうじっとしてろよ!」
カイトはそう言いながら、刀を振るって反撃をした。だが、エンデルングの船員はカイトの斬撃を腕で防御した。このままだと腕が斬れるのではとカイトは思ったが、異様に膨れた腕は硬さも上がっており、カイトの刀を通さなかった。
「なっ、えっ? 嘘だろ!」
「ギャハハハハハハハ! こいつは傑作だぜ!」
カイトの攻撃を受け止めた船員は、カイトに殴りかかった。攻撃を受けたカイトは勢いよく後ろへ吹き飛び、床を転がった。
「グッ! ガハッ!」
カイトは立ち上がって周りを見回すと、上からシャンジュが襲い掛かって来た。カイトは氷の壁を発してシャンジュの行動を邪魔しようと考えたのだが、シャンジュは氷の壁を殴って破壊した。
「おいおい、結構分厚い氷を発したんだけどなぁ……」
「そんな物、この力の前では無力だ!」
シャンジュはカイトの首を掴み、そのままカイトを持ち上げた。カイトはシャンジュの指を首からどかそうとしたのだが、シャンジュの指は動かなかった。次第に、カイトは息苦しさを感じた。
「フハハハハハハ! 苦しいか? 俺はそれ以上痛い思いをしたのだぞ! そのまま窒息死させてやる!」
勝利を確信したシャンジュは、更に力強くカイトの首を絞めた。カイトは小さな悲鳴を上げ、右手に持っていた刀を落としてしまった。そして、カイトの顔が徐々に青く染まって行った。
「死ね、小僧!」
「そうはさせないよ!」
そう言いながら、ライアがシャンジュの足に向かって強風を発した。ダメージを与えられなかったが、シャンジュのバランスを崩して転倒させることに成功した。転倒した際、シャンジュはカイトを離した。
「ガハッ! はぁ……はぁ……」
「カイト、大丈夫?」
ライアは苦しそうに呼吸をするカイトに近付いた。カイトはライアの方を向きつつ、大丈夫だと伝えた。カイトの首元には、くっきりとシャンジュの指の痕が付いていた。
「すごい力、首の所にあいつの指の痕ができてるよ」
「ああ。あと少し遅かったら、俺は二度目の死を迎えてたよ」
カイトとライアが話をしていると、大剣を持ったカーデオが襲い掛かった。カイトはライアを抱きかかえつつ、攻撃をかわした。
「私の攻撃を避けるとは……見事ですね」
ライアはカイトに抱かれたまま、カーデオの様子を見た。カーデオもシャンジュと同じように体が膨れ、目も充血していた。
「カイト、こいつら普通じゃなくなったよ」
「あの変な薬のせいだろう。一体何の薬か分からないけど……とにかく今は逃げよう!」
会話を終え、カイトとライアはシャンジュとカーデオから逃げることを選択した。
エアエは笑いながらシーポリスの戦士に襲い掛かっていた。
「キャハハハハハ! いい気分だよ! 力がどんどん湧いて出てくる! こんないいことはないわ!」
エアエは手刀でシーポリスの戦士の腹を貫き、蹴りでシーポリスの戦士の頭を吹き飛ばしていた。彼女の手によって、多数の戦士が命を落としていた。
「さぁ、次は誰が殺されたいの? 遠慮せずに出てきなさい」
と、エアエは右手に付着した血を舐めながらこう言った。力を増したエアエを見て、シーポリスの戦士たちは激しく動揺し、メリスも同じように動揺していた。
「あいつ……一体何の薬を使ったの?」
「分かりません。援護を呼びますか?」
「そうね。そう言えばサマリオさんは?」
「あそこで戦っています」
戦士の一人が、狂気と化したエンデルングの船員と戦っているサマリオを指差した。サマリオも苦戦していて、多少の傷を負っている様子を見せた。
「サマリオさんも苦戦しているのね。とにかく攻撃をかわしましょう」
メリスがこう言った直後、エアエの攻撃が始まった。
一体どうなっているんだ?
サマリオは心の中でこう思った。シャンジュたち強敵をカイト、ライア、メリスに任せて船員の殲滅を行っていたサマリオだったが、雑魚だと思っていた船員が注射をした途端自分より強くなってしまったのだ。魔力を使って船員の体を貫いても、傷口はすぐに治り、出血も止まってしまう。
「ヒャッハー! いい気分だぜェ!」
「シーポリスの大佐様が、まるでゲームの雑魚キャラみたいに感じるぞ!」
「攻撃するならもっとしてもいいんだぜ? 意味ねーんだけどなぁ!」
圧倒的な力を手にした船員たちは、サマリオを挑発するような口調でこう言った。サマリオは攻撃の手を止め、船員たちの動きを封じようと考えた。
「ここでしばらく止まってもらうぞ!」
と言って、サマリオは魔力で作った紐を発し、船員たちの動きを封じた。しかし、船員たちは勢いを込めて筋肉を膨張させ、体に巻き付こうとした魔力の紐を弾き飛ばした。
「ゲハハハハハハハハハ! それも意味がないんだなぁ!」
「ざーんねーんでーしたァァァァァ!」
船員たちは、武器を持ってサマリオに襲い掛かった。その時、魔力を解放したセアンとウイークが現れ、船員の攻撃を受け止めた。
「サマリオ! 今のうちに下がって!」
「こいつらは俺とセアンでどうにかするんで!」
セアンとウイークの言葉を聞き、サマリオは一度下がった。サマリオが下がったことを確認したセアンとウイークは全身から魔力の衝撃波を発し、船員を吹き飛ばしてサマリオと合流した。
「一体何なのあいつら? 注射したら異様なマッチョマンになっちゃったよ」
「攻撃しても刃が体を通らない。魔力を使って攻撃してもかき消される。あいつらもう人じゃないぞ」
「私も同じことを思っている。何が彼らをああしたのか……」
サマリオは冷や汗をかきながら、狂ったように笑っている船員を見た。
研究室へ向かったラージュは急いで薬の成分を調べていた。しばらくして、その結果が出た。
「この成分はイコルパワーと同じ。まさか!」
あることを察したラージュは、研究員にイコルパワーに関わる本を貸してもらい、急いで中を読み始めた。
「イコルパワー。筋肉を急激に発達させる成分が含まれている麻薬の一種。ドーピングにも指定されている。しかし、イコルパワーを使った代償として、心臓や脳などにかなりの負担がかかり、使用して数分で眼球が破裂し、体中から血を流して死亡する……」
イコルパワーの説明を読んだ後、ラージュは焦りながらその先を読んだ。だが、この本にはイコルパワーの対処法や処方の仕方が書いておらず、最後のページにこう書かれていた。
これはこの本の出版時の話ですが、イコルパワーを使った人を助ける方法はありません。使ったら最後、死ぬしかありません。
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