黄金の気を放つ戦士
ランドレディースからかなり離れたどこかの地域。そこで二隻の船が海上戦を繰り広げていた。一方は大型の海賊船で、その相手をしているのは小型の海賊船だった。はたから見れば小型の船が不利だろうが、実際はその逆で大型の船が不利な状況に陥っていた。
「クッ……何だあの船は……俺たちの船より小さいのに!」
大型の海賊船に乗る船長らしき人物が血を流しながらこう言った。船の上には三人の敵が乗り込んでいた。すぐに倒せるだろうと思った船員たちは多勢で襲い掛かったが、十分もかからないうちにその四分の三ほどの船員が命を落としてしまったのだ。
船長が驚いていると、両腕を斬り落とされた船員が血反吐を吐きながら近付いた。
「せ……船長……助けて……くださ……」
そう言いかけている時に、敵の攻撃がその船員に命中し、命を奪った。目の前で部下が殺されたことを把握し、船長は激怒した。
「お前ら! 俺様の船の上で好き勝手暴れやがって! お前らはこの俺様が全員血祭りにあげてやる!」
「誰が誰を血祭りにあげるって?」
と、背後から声が聞こえた。それと同時に、槍の矛先が船長ののど元に当たった。船長は後ろを見て、誰かが後ろにいると把握した。
「い……いつの間に……」
「あんた、隙だらけだったから後ろに回っちゃったよ。それよりさ、この船に女の子はいないの?」
この質問を聞き、船長は驚いて言葉を失った。だが、のど元にある槍の矛先が動いたのを見て、慌てて答えた。
「この俺は野郎しか部下はとりません! きつい仕事を女にやらせるわけにはいきません!」
「それじゃあ奴隷とかいないの?」
「船の下に近くの島でさらった娘や令嬢がいます。令嬢は脅しで使おうとしているんですが、娘は奴隷のオークションで売り飛ばすんです」
「いるんだね。牢屋に押し込められているんなら、鍵があるでしょ」
「こ……これです」
船長は震える手で牢屋の鍵を後ろの人物に渡した。その直後、のど元にあった槍の矛先は船長ののどを貫いた。
「これであんたに用はない。さっさと鮫や魚のえさになっちまいな」
と言って、その人物は船長の遺体を海へ蹴り飛ばした。その後、船長を失った船員たちは戦意を失い、武器を捨てて降伏の姿勢を示した。それを見た敵の一人が声を上げた。
「こいつらの処理をどうしますか? ロスさん」
「そうだな。野郎に用はないし、殺しても構わないぞ」
ロスの言葉を聞いた船員たちは悲鳴を上げたが、ロスの返事を聞いた瞬間にロスと共に暴れていた戦士は動いていた。その結果、船員たちの頭は宙に斬り飛ばされていた。
船員たちが全滅した後、ロスは鼻歌を歌いながら捕まった女性たちの元へ向かおうとした。だが、戦士の一人がロスに声をかけた。
「ロスさん。全知の剣の鍵を見つけに向かったジクゼニオスから連絡が全然来ません。どうしたらいいんでしょうか?」
「連絡が来ないってことは、全員死んだか捕まったかでしょう。ま、そんな雑魚のことなんてほっといたらいいよ。俺はそんなことよりやりたいことがあるから」
と、ロスは鼻血を垂らしながらこう言った。戦士はため息を吐き、心の中でこの人はまたエッチなことを優先していると呟いた。そんな心のつぶやきを知らないロスは、下品な笑い声を上げながら牢屋へ向かった。
ズジルダは驚いていた。カイトはこうなることを予測して攻撃していたのだと把握していたからだ。ズジルダの腹にはカイトが突き刺した刀があり、セアンは刀を狙って攻撃したのだ。理由は一つ。刀をさらに突きさすため。
「こォォォんのォォォォォ!」
セアンは大声を上げながらカトラスを振り下ろしていた。それを見て、ズジルダは動かなかった。セアンは何もしないズジルダを見て不審に思ったが、攻撃に専念することにした。
セアンの振るったカトラスはカイトの刀に命中し、カイトの刀は勢いよく突き刺さり、ズジルダの腹を貫いた。
「ガハァッ!」
強烈な痛みがズジルダを襲った。ズジルダは口から血を吐き、片膝を地面について苦しそうに呼吸を始めた。
「や……やった! すごい一撃だぜセアン!」
回復をしていたカイトが声を上げて喜んだ。だが、セアンの表情に喜びの色はなかった。セアンはカトラスを握り、ズジルダの元へ向かった。
「あんたが何かする前に、確実にとどめを刺す!」
「ヘッ、俺が何を企んでいるか把握していやがったか!」
ズジルダはそう言って、深呼吸を止めた。そして、声を上げながら魔力を上げ始めた。セアンは自分の予想が当たったと思いつつ、ズジルダの行動が今後危険だと察知し、急いでカトラスを振るおうとした。しかし、その前にズジルダの周囲から強い衝撃波が放たれた。
「うわああああああああ!」
ズジルダの近くにいたセアンは吹き飛ばされたが、後ろにいたカイトやケアノスに受け止められた。
「ごめん、アイツ何か企んでる!」
「ああ。何をするか分からないが、今度は俺も前に出て戦うから!」
カイトはセアンにこう答えたが、内心ズジルダの上がりつつある魔力を感じて驚いていた。これだけの魔力をズジルダは隠しているのだと思っているからだ。
「戦いはまだまだ続くぞ! 今から俺の本気を貴様らに見せてやるわァァァァァァ!」
ズジルダは叫び後を上げながら、更に魔力を上げた。その時、周囲に煙が舞った。カイトたちは周囲の煙を手で払って目の前の光景を確認しようとした。しばらくして煙は消えたが、目の前のズジルダの姿を見て驚いた。
「うわ! あんた、いつの間に金髪になったの!」
ライアは金髪になったズジルダの髪を見て驚いた。ズジルダはにやりと笑い、口を開いた。
「俺は、スーパーズジルダだ。俺とあいつ、ソンウクはちょいと特殊な戦士でな、魔力を強く開放すると金髪となり、周囲に金色のオーラを張る性質だ。その状態は、通常の状態よりもさらにパワーアップする」
と言うと、突如ズジルダの姿が消えた。慌てたカイトたちだったが、コスタの悲鳴を聞いて一斉にコスタの方へ振り返った。そこには、コスタの背中に拳を入れ、にやりと笑っているズジルダの姿があった。
「どんなに遠く離れていても、あっという間に獲物の背後に回ることだってできるんだぞ」
「この野郎!」
ウイークが右手の剣を振り下ろし、ズジルダに攻撃を仕掛けた。だが、ズジルダは左手の小指でウイークの斬撃を受け止めてしまった。
「な……が……ああ……」
「このまま俺の小指を斬り落とすつもりか? はっきり言ってやろう。無駄だとな!」
ズジルダは左手を上に払い、ウイークの態勢を崩した。その隙にズジルダは素早くウイークの懐に潜り、何度もウイークの腹を殴った。
「これで終わりにしてやる!」
と言って、ズジルダはウイークの腹に手刀を突き刺した。攻撃を受けたズジルダは血を吐きながら宙を舞い、遠く離れた壁に激突した。
たった数秒でコスタとウイークがやられた。ラージュはコスタの様子を見て、ズジルダを睨んだ。
「背骨が完全に折れてる。コスタはもう戦えないわ」
「え……」
コスタが完全に戦闘不能になったことを知ったセアンは、ズジルダを睨んだ。セアンの視線に気付いたズジルダは鼻で笑った。
「雑魚が調子に乗るからこうなるんだ。当たり前のことだろうが」
「へぇ。雑魚だからこうなるんだ。それじゃあ……あんたもそうなるってことだよね?」
と言って、セアンはズジルダを睨みながら魔力を解放した。その横にいるケアノスも、静かに魔力を解放していた。二人の魔力を感じ、ズジルダは悪寒が走った。
「俺の背筋に悪寒が走った……貴様らも本気を出すというのか。楽しみだ」
怒りで魔力を高める二人を見て、ズジルダは楽しそうに呟いた。




