ミッドナイトタウンバトル カイトVSガーネ その2
不思議とカイトは痛みを感じなかった。腹が貫かれている感触はしている。テレビドラマやアニメで、登場人物の体に刃物が突き刺さり、痛そうな表情や演技を見ていて、痛そうだなと思ったことがある。しかし、現に自分がやられた今、痛みは感じなかった。
「おい坊主、私の手刀を受けた感想はどうだい? ええ? 何か言ってみなよ」
かすかだが、ガーネの笑い声が聞こえた。腹が立ったカイトは、血を吐きながらこう答えた。
「うるせーよ、クソババア」
この答えを聞いたガーネは、両手の手刀をカイトの腹から勢いを付けて抜き取り、瀕死のカイトを地面に蹴り倒した。
「この状態で偉そうなことを言うんじゃないよクソガキ! 本当にムカついたよ、お前はここで殺してやる!」
こう叫んだガーネは、カイトに向かって毒手を放とうとしていた。しかし、その手は途中で止まった。
「誰だい? 私の楽しみの邪魔をしないでくれ……」
「邪魔をして悪いが、君はここで倒れてもらおう」
この言葉を聞き、ガーネは冷や汗をかきながら後ろに引いた。しばらくして、ガーネが立っていた地面に切れた跡が発した。
「惜しい。流石経験豊富の戦士ということか」
戦いに乱入したのはサマリオだった。サマリオの顔を見たガーネは冷や汗をかき、毒手を構えた。
「ケッケッケ。シーポリスのお偉いさんか。まさか……こんな所にいるとはねぇ」
「仕事だからな。さて、君にはいろいろと聞きたいことがあるが……その前に、少し痛い目を見ると思うが」
と言って、サマリオはガーネに接近しようとした。だがその前に、セアンが現れてガーネに蹴りを喰らわせた。いきなりセアンが現れることを予想していなかったため、ガーネはセアンの蹴りを受け、無防備で遠くへ吹き飛んだ。
「セアン。傷は大丈夫……か……」
セアンに近付いたサマリオは、セアンの魔力を感じて冷や汗をかいた。今のセアンは激怒していて、自分が声をかけても我には戻らないとサマリオは察した。セアンは倒れているカイトを見て、吹き飛んだガーネを睨んだ。
「許さない……あんただけは絶対に許さない。ぶっ潰してやる!」
怒り狂ったセアンは、ガーネに向かって勢いよく走り出した。壁に激突したガーネは、セアンが迫って来ることを察し、毒手を構えた。
「ケケケケケケケ! 彼氏を殺されて頭が沸騰しちまったのか! 来るなら来なよ! 彼氏の元へ逝かせてやるからさぁ!」
セアンが接近した直後、ガーネはセアンの腹に向けて毒手を放った。セアンはその攻撃をかわし、ハンドガンでガーネの右肩を撃ち抜いた。
「接近してハンドガンを使うのかい。だけどねぇ、この程度の傷は魔力を使えば秒で治るんだよ!」
と言って、ガーネはハンドガンで受けた傷をすぐに治してしまった。その直後、セアンは感情に任せてカトラスを振り回した。最初の一撃はかすったものの、それからの攻撃をガーネは全てかわした。
「ケケケケケケケ! やはり若い奴はケツが青い! そんな精神じゃあ私は殺せないよ!」
「そーかい」
後ろからカイトの声がした。その声を聞いたガーネは驚き、後ろを振り返った。そこには、殺したはずのカイトが立っていたのだ。
「な……何故……」
動揺していた隙に、セアンはガーネにカトラスの一閃を与えた。攻撃を受けたガーネは吐血し、その場で片膝をついた。
「ど……どうして生きている! お前は私が殺したはずだ!」
「まだ意識があったから……水を凍らせて……傷を塞いだ……」
カイトの言葉を聞いたガーネは、カイトの腹の傷を見た。毒手で貫通させた腹の傷とその周辺は凍っていた。そんなやり方で傷を塞ぐとはと、ガーネは驚いた。
「彼、すごい根性の持ち主だ。常人であれば意識を失うほどの大怪我だが、彼は根性で意識を保っていた」
と、サマリオがやって来た。カイトが生きていることを知ったセアンは、我に戻り、カイトに抱き着こうとした。だが、カイトは刀を構えてガーネを睨んでいた。
「バーさん、あんたは俺が倒す」
「ケッ……ケケケケケケケ! 私を倒すとかほざくんじゃないよ! 死にかけた坊主に倒されるほど、私は弱くないよ!」
ガーネは笑いながらこう言ったが、カイトはにやりと笑って指を鳴らした。すると、ガーネの下から巨大な氷の拳が放たれた。
「が……ガハァッ! な……何だい……これは……」
「セアンが暴れていてあんたに隙ができた時に……ちょいと小細工をしたんだよ……ちょっとでも俺の魔力で地面を濡らせば……あとで……いろいろとできる……」
カイトの言葉を聞いたガーネは察した。セアンの相手で四苦八苦している時に、カイトはガーネに存在を気付かれないように魔力を抑え、攻撃のために地面を濡らして水たまりを作ったのだと。
「こ……こんな若造に……やられるのか……」
「悪いなクソババア。俺の勝ちだ」
カイトはそう言うと、他の水溜りから同じように巨大な氷の拳が作り出され、ガーネに向かって飛んで行った。宙にいるガーネはこの攻撃を避けることができず、攻撃を受けてしまった。
「ギャアアアアアア! よくも……よくもこの私を!」
ガーネが悔しそうに叫ぶ中、別の氷の拳がガーネに命中し、地面に叩き落とした。
戦いは終わった。そう思ったカイトは不安そうな顔をするセアンの方を向き、無事に戦いは終わったと告げようとした。だが、その前にカイトの体は再び倒れた。
セアンとサマリオは倒れたカイトに急いで近付いた。サマリオはカイトの顔色を見て、危機的状況だと判断した。
「嫌だ! 死なないでカイト! カイト!」
「落ち着けセアン。私がカイトを連れて行く。セアンは、あの老婆を連行してくれ」
「う……うん」
サマリオの声を聞いたセアンは、少しだけ落ち着いた。カイトを担いだサマリオは、カイトの体温が低くなっていると感じた。
「これはまずい。早く戻らなくては!」
その後、二人は急いでコスタたちの元へ戻った。
真夜中の戦いは終わった。取引の妨害は失敗に終わってしまったが、トリガミヤワー海賊団の一部を捕らえることができた。ラージュの薬によって正直に答えを言ってしまう体質になったティンパにより、敵のこれからの行動は判明した。
しかし、ガーネの毒手によって深い傷を負ったカイトは翌日になっても目を開けなかった。
「これは酷い。腹の傷もそうですが、得体の知らない毒に侵されている」
カイトを診断したシーポリスの医者がこう言った。その医者に対し、包帯だらけのセアンとコスタが近付いた。
「お願いだからカイトを助けて! お願いだから!」
「私たちの大切な人なの。もし死んだら……」
二人の泣き叫ぶような声を聞いた医者だったが、深いため息を吐いた。
「すまんが、解毒剤を見つけない限り、この少年は助からない可能性が高い」
「そんな……」
セアンはショックを受けた表情をし、眠ったままのカイトを見た。そんな中、眠っていたケアノスが目を覚ました。
「あれ? どこここ?」
「ケアノス……起きたんだね」
目覚めたケアノスの方を向き、セアンがこう言った。この時のセアンの顔を見たケアノスは、混乱しながら周囲を見回した。
「私が眠っている間に何が起きたの? 話して」
「実は……私たち姉妹は何とかなったんだけど……カイトの方が毒手を使うババアと戦って……その傷と毒で……」
セアンの言葉を聞いたケアノスは今の状況を把握し、驚きの表情をしていた。
「今、カイトはどこにいるの?」
「同じ病室にいるけど……眠ったままだよ」
と、コスタが泣きそうな顔でこう言った。ケアノスは痛みをこらえながら立ち上がり、眠っているカイトに近付いた。
「嘘でしょ……カイト……」
ケアノスは眠っているカイトの頬を触った。優しく頬を触っても、カイトは何も反応を示さなかった。
ミッドナイトタウンバトルは今回で決着ですが、トリガミヤワー海賊団との戦いは続きます。今回の敵は外道が多いです。腐れ外道どもがどんな悪行をかまし、どうやって戦うのかあなたの目で見てください。
この作品が面白いと思ったら、是非是非高評価、いいね、ブクマ、感想質問、レビューをお願いします。ストック溜め分を含めて200話を越えたこの作品に愛の手を!




