海の守り手の登場
ラージュたちは偶然通りかかった悪い武器商人、ベノベノーを脅してシャケベルトの工場へ入ることに成功した。工場内で大暴れする中、シャケベルトの会長、イックラーの秘書がシーポリスというところへ連絡をした。それを察したコスタが、ライフルを秘書に近付けてこう聞いた。
「どこに連絡したの? 話なさい」
「シーポリスよ。あんたらもう終わりよ。残念だったわね、あんたら全員捕まってしまいなさい! オホホホホホ!」
勝ったと思ったのか、秘書はコスタを見下すようにこう言って、高い声で笑い始めた。だが、コスタは秘書のそんな態度を見ても動揺せず、こう言った。
「終わり? 終わりなのはあなたたちの方よ。何も知らないのね、あなたたち」
コスタは勝ち誇ったかのように笑みを見せた。それを見た秘書は、ピラータ姉妹のことを思い出し、思わず声を漏らした。その声を聞いたイックラーが秘書に近付き、声をかけた。
「何だ、今の情けない声は? 力が抜けるからそんな声を出さないでくれ」
「会長……思い出してください。彼女らとシーポリスの関係を……」
「関係? あ……しまった! やってしまった!」
秘書の言葉を聞き、会長は自分が言ったある言葉を思い出した。ピラータ姉妹は海と世界の平和を守るシーポリスと関係があると。負けを察したイックラーたちの情けない顔を見て、ラージュたちは笑みを浮かべていた。だが、カイトは何のことなのか分からず、戸惑っていた。
数時間後、セアンとライアは倒れているメイトウザンの船員を集めていた。時折脈を調べ、呼吸の有無を調べていた。だが、二人は酷く落ち込んだ顔をしていた。
「もう……助からないのかな? 時間が経ってるし、呼吸も弱くなってる。どうしよう、セアン」
「分からない。どうすればいいのか全然わからないよ! ラージュがいれば、助かったのかな? あー! ラージュからどうすればいいか聞けばよかったー! しくじったー! アーン!」
そんな話をしていると、青と緑の色合いで、盾のような紋章が描かれた船が現れた。それを見た二人は、目を丸くして驚いた。
「あれ、シーポリスの船だ! どうかしたのかな?」
「誰かが通報したみたいだね。もしかして……」
セアンは工場の誰かが通報したと推理した。しばらくして、シーポリスの船が近くにやって来た。船から降りてきたのは、二十代後半の男性で、腰には剣を携えていた。サンライト島の事情を把握しているのか、二人が来ている物と同じような防護服を着ていた。二人の姿を見た男は、目を丸くして二人に近付いた。
「セアン、ライア。どうしてこの島に?」
男の顔を見て、セアンとライアは安堵した息を吐いた。そして、この島の状況と、ラージュたちがシャケベルトの工場へ向かったことを伝えた。男は話を聞いた後、部下にこう言った。
「治癒魔法を使える者はここで倒れている人を治療してくれ。残りの者は私とセアン、ライアと同行してくれ」
部下の返事を聞いた後、男はセアンとライアの方を向いた。
「ここで倒れている者は私の部下に任せよう。さぁ、私たちもシャケベルトの工場へ向かおう」
「うん」
セアンの返事の後、セアンとライアはシーポリスたちと共にシャケベルトの工場へ向かった。
一方、カイトとケアノスはイックラーたちを縄で縛り、煙についての話を聞いていた。
「で、あの煙は兵器用で作った煙で、失敗したものを町に流して、一応どんな状況になるか調べていたってこと?」
「は……はい。その通りです。嘘偽りございません」
イックラーの答えを聞いたケアノスは、怒りのあまりイックラーの股下にレイピアを突き刺した。イックラーは泣き叫びながら後ろに下がろうとしたが、縄できつく縛られているため、動くことができなかった。
「す……すみません! 命だけはお助けを! いろいろとあるのですが、私も儲けが必要です……会社を経営する以上、どうしても金が欲しいのです!」
「金と命、どっちが重いかあなたの愚かな脳みそでも理解できるでしょ?」
と、煙の成分の研究をしていたラージュが、大剣を構えてイックラーに向けた。大剣を見たイックラーは、悲鳴を上げて涙を流した。その時、防護服を着た集団が現れた。
「シーポリスだ!」
「全員、大人しくしろ。そして、事情を説明してくれ!」
シーポリスの到着を察し、イックラーと秘書はもう終わりだと呟いた。シーポリスの一人はラージュに近付き、話を始めた。
「ラージュさん。こんな工場で何をやっているのですか?」
「簡単に事情を説明するわ。この工場の奴らは毒ガス兵器を作り、失敗したものを町に流した上、結果を調べていたわ」
「うわ……酷い奴らですね。なんて奴らだ」
「それを私たちが懲らしめて、今に至るわ。そうだ、このリストに載っている薬を用意できます? この騒動を終わらせることができるかもしれないの」
シーポリスはラージュからリストを受け取り、仲間と相談した。そして、ラージュに言葉を返した。
「少し時間がかかりますが、今日中には用意ができます。なるべく急いで集めるように伝えます」
「ありがとう。奴らがあなたたちを呼んでくれて助かったわ。あなたたちを呼ばなかったら、どうなっていたことか……」
「ええ。こちらとしても、悪名高いシャケベルトの連中を一網打尽することができたので、とても助かりました」
カイトは海の警察と言われるシーポリスが、親しげにラージュと話す光景を見て、少し不思議に思い、コスタに尋ねた。
「なぁ、シーポリスって海の警察だよな? 海賊を捕まえる立場じゃないのか。結構ラージュと親しげに話しているけど」
「私たちは大丈夫だよ。どっちかっていったら海賊を狩る正義の海賊みたいな立場だし、何回もシーポリスに協力したから、結果仲良くなったの。昔からの知り合いもいるし」
コスタの話を聞き、カイトは納得した。そんな中、セアンとライアとシーポリスの男性が部屋に入って来た。
「皆、騒動が終わりそうだねー」
「シーポリスの皆が来てくれたから、大体片付きそうだね。一応終わりが見えたね」
「あれ? セアン、ライア。メイトウザンの連中はどうしたの?」
ラージュが立ち上がってこう聞くと、男がセアンとライアの代わりに答えた。
「今、シーポリスの救護班が管理している。町の人も今治療をしているが、時間がかかりそうだ」
「シーポリスの方でも町の惨状を知ったのね」
「ああ。ニュースで聞いたが、これほど悲惨な状況になっていたとは……」
男はイックラーの方を睨み、近付いた。そして、顔を近付けてこう言った。
「お前にはいろいろと話をしてもらおう。どんな海賊よりも、貴様の方が立派な犯罪人だ」
「ひ……ヒェェ……お助け下さい……」
イックラーは恐怖のあまり、再び震えだした。その後、男はカイトの方を見て近付いた。
「見ない顔だが……今話題の、セアンたちの彼氏かな?」
「え? ま……まぁそんな感じ……かな?」
彼氏と呼ばれ、少し答えに困ったカイトだったが、男は笑って話を続けた。
「ハッハッハ。素直になればいい。それよりも、自己紹介をしないと。私はサマリオ・サーチライト。シーポリス大佐、そしてセアンたちの古い知り合いだ」
「は……はい。俺はカイト、夏日海人……じゃなかった、カイト・ナツビって言います」
「カイトか。フフフ……セアンたちも恋をする歳になったな……」
と、サマリオはイックラーを相手に騒いでいるセアンたちを見て、親が子を見るように微笑んでいた。サマリオの顔を見て、カイトはこの人はセアンたちと一体どんな関係なのかと思った。
シャケベルトの話は、ラージュの紹介を兼ねてシーポリスの紹介も行っています。サマリオもあまり出番はないものの、ピラータ姉妹にとっては重要なキャラなので、今後出番を作るつもりです。
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