翡翠の正体
カイトとウイークは目の前の光景を忘れられなかった。翡翠が現れ、弱った旅人の男に付着し、鎧の形に広がったのだ。
「くっ! とんでもねー光景を見ちまったぜ!」
「確かに。もしかしたら、俺たちが狙っている翡翠って……」
「ああ。あいつには意思が宿っている!」
二人が話をしていると、翡翠の騎士と化した旅人が襲い掛かって来た。二人は攻撃をかわし、兜に目がけて同時に蹴りを放った。
「うっげぇ。硬い……」
「足が痺れる」
翡翠の硬さに悶絶する二人だったが、翡翠は鎧の姿となって時間が短いのか、すぐに鎧と兜の間に隙間ができた。
「できたばかりだから、すぐに隙間が開いたな。うし、さっきの要領で兜をぶっ飛ばすぞ!」
「おう!」
カイトは魔力を開放し、翡翠の騎士に向かって走って行った。その時の速度は早く、あっという間に騎士の元に到着した。そして、カイトは刀を振り上げて騎士の兜を吹き飛ばした。
「これで元に戻ったか?」
ウイークは微かな希望を持って呟いた。翡翠の騎士の鎧を身に着けた旅人の目は白目をむいていたが、少しして我に戻った。
「あれ……助かったのか……」
「多分な。待っていてくれ。すぐに鎧を引っぺがす!」
カイトは刀に魔力を込めて鎧を斬ろうとしたが、鎧は光出した。
「クソッ! さっきのように広がるつもりか!」
突如光出した鎧を見て、カイトは動揺した。その時、刀の先端に翡翠がくっついていることに気付いた。
「まずい!」
カイトは急いで魔力を刀に込めて、翡翠を飛ばした。
「あ……ああ……助けてくれェェェ!」
旅人の悲鳴を聞き、カイトは我に戻った。光出した翡翠は旅人を包み、兜の姿になってしまった。しばらく二人はその場で立ち尽くしていたが、翡翠の騎士と化した旅人は再び襲いだした。
「生きている人間が鎧を着ていると、何度でも再生するってわけか!」
「滅茶苦茶な性能の翡翠だな、もう!」
カイトはウイークの元に戻り、今後のことをどうするか考えた。
「どうする? 一度逃げるか?」
「ここから逃げたとしても、またオイルビーフに追いかけられる。どうせだったら、前に向かって走るぞ!」
「そうだな……とにかく、あの人は後で助けることにして、今はあの翡翠のことをしっかりと調べないと!」
話を終えた後、二人は魔力を開放して高く飛び上がった。騎士を飛び越えるほどのジャンプをした後、二人は猛ダッシュで前に向かった。走って移動している中、カイトはあることを思い出した。
「なぁ、確かあの人って仲間がいたよな?」
「そう言えば。あいつは逃げているって言っていたし……」
この話をした後、二人は深いため息を吐いた。
「まさか……」
カイトが呟いた後、三体の翡翠の騎士が現れた。
「やっぱり!」
「カイト、こいつらを相手にしている場合じゃない! とにかく先に進むぞ!」
ウイークはカイトの手を取り、魔力を込めて走った。走る途中でカイトは態勢を戻し、後ろを見た。そこには、追いかけて来る翡翠の騎士の群れがあった。
「まずい! 捕まる!」
「あいつら追いかけて来るの? 勘弁してくれ!」
「そんなこと言っても奴らは聞かないぞ。俺がどうにかする!」
カイトは刀から水を発し、後ろの地面を凍らせた。翡翠の騎士は凍った地面を踏み、その場で転倒した。
「うおっしゃ! ナイスだ、カイト!」
翡翠の騎士が転倒したことを知り、ウイークは喜んだ。その時、後ろから轟音が響いた。
「何だ、この音?」
「まさか……」
ウイークは嫌な予感がした。先ほど自分たちを追いかけていたオイルビーフの群れが、ここまで追いかけてきたのだ。
「またオイルビーフの群れかよ! あいつら、俺たちを追いかけて何が楽しいんだ?」
「ウイーク! 前を見てくれ!」
カイトにこう言われ、ウイークは前を見た。目の前を見ると、そこには道がなかった。
「ごめんカイト……勢いが落とせないの」
「ああ。また落ちるってわけか」
カイトがため息を吐いてこう答えると、二人は道を踏み外し、落ちて行った。
下の地面に落下した二人は、上半身が地面に埋まっていた。二人の体は動かなかったが、しばらくして体が動き出し、地面から抜け出した。
「ペッ! ペッ! うっげぇ、口の中に砂利が入った」
「どこかに水があればいいな。口の中と上半身が砂利まみれだ」
二人は口の中の砂利を吐き出しながら、周囲を見回した。壁は翡翠でできていて、吐き出した地面も砂漠や普通の道路の砂利とは違い、大きかった。
「変な砂利だな。石を細かく砕いたように大きいぞ」
「明らかに上の階層とは違うってオーラが発しているな。壁も翡翠でできている。これは普通の翡翠のようだけど……光っているな」
ウイークは翡翠の壁を触り、カイトにこう言った。壁を触るウイークを見て、カイトは動揺したが、翡翠は動こうとはしなかった。
「これだけはあの鎧とは違うようだな」
「あ……ああ。ビックリした。翡翠を触ると体を奪われるって思って……」
会話を終え、二人は奥の道へ向かって歩き始めた。周囲を見て、魔力を探知したが、気配はなかった。
「どうやら、ここに到達したのは俺たちだけのようだな」
「ああ。人が一人いてもおかしくないけど……」
その時、上から大きな翡翠の騎士が落下してきた。落下した大きな翡翠の騎士は地面に倒れていたが、しばらくして立ち上がり、大きな剣を手にして振り回した。
「先に行きたければこいつを倒せってわけか?」
「かもしれないな。まるでゲームだな」
「へへっ。懐かしい。昔はよく遊んでいたぜ。まっ、今でも暇を見つけて遊んでいるけどな」
「話をしている場合じゃない。来るぞ!」
カイトがこう言った後、大きな翡翠の騎士は二人に襲い掛かって来た。二人は攻撃をかわし、周囲を見回した。
「敵は一人か」
「ああ。あとから来るって気配はない」
「それなら安心した。それで、どうやって叩く? あの大きさじゃあ、中に人がいるってことはなさそうだ」
「なら安心だ。人を殺さなくて済む」
カイトがこう言った後、サビナでの創成の力との戦いを思い出した。最初は創造の力のせいで苦戦していたが、相手の弱点を見つけ、そこを攻撃して撃破したのだ。
「弱点があるかもしれない。前に一度、ああいうデカブツと戦ったことがある」
「弱点か。そうだな」
話をしていると、二人の間を裂くように大きな剣が振り下ろされた。
「こりゃーまずい。カイト! 俺が囮になるから、お前は奴を観察して弱点を見つけてくれ!」
「頼んでいいか?」
「ああ! 簡単に死んでたまるかよ!」
その時、ウイークに向かって大きな剣が振り回された。ウイークは攻撃をかわし、騎士の方を見てこう言った。
「当たってねーよ、へぼへぼ剣士! 俺はここだぞーい! ベロベロバー!」
ウイークの言動を見た騎士は怒りで震え始め、ウイークに向かってもう攻撃を始めた。
「おわあああ! やばい、挑発しすぎた!」
「何やっているんだよもう……」
カイトはやれやれと思いつつ、周囲を飛び回って騎士の弱点を探した。だが、いくら探しても弱点らしきものは見つからなかった。
「まずい……弱点がない……」
カイトが諦めかけたその瞬間、ウイークが叫んだ。
「カイト! どんな奴にも弱点はある! 騎士との戦いを思い出せ、アイツは翡翠をぶっ飛ばせば倒せる。なら! 奴も翡翠をぶっ飛ばせば動きが止まるかもしれない! 俺は大丈夫だから、時間をかけてもいいぞ!」
ウイークの言葉を聞き、大丈夫だと思ったカイトはもう一度騎士を観察し始めた。すると、騎士の鎧と兜の間に人一人が入れそうな穴を見つけた。
「あれは……」
カイトは魔力を開放し、騎士に近付こうと考えた。
翡翠の洞窟の探検もあと少し。今回の話を書き終えて思ったんだけど、他の話と比べて少し短いです。それで、今後の話があるんですが、長くなりそうなので活動報告で書きます。気になる人は読んでね。今後の更新に関する話になるので。
今回はここまで。高評価、ブクマ、いいね、感想質問、レビューをお待ちしています。応援よろしく!




