トッポが旅立った理由
ヘドロコウモリを破裂させて倒すことに成功したピラータ姉妹だったが、破裂した際にヘドロコウモリの中のヘドロが飛び散ってしまった。体が汚れてしまったのだが、運よく泉があった。それを見たセアンとライアはすぐに服を脱いで全裸になり、泉に飛び込んだ。
「ちょっと! アディもいるから急に裸にならないで!」
「別にいいじゃん。男の子だし、スケベな大人の男がやることはまだ分からないよ!」
「アディ君のこと、信頼しているし」
と、二人はケアノスにこう答えて背泳ぎを始めた。呆れたケアノスはアディの目を隠しつつ、少し離れた所へ移動した。泉に飛び込んではしゃぐセアンとライアを見て、コスタとラージュも服を脱ぎ始めた。
「さて、私たちも汚れを落としましょうか」
「そうだね。これじゃあ歩けない」
そう言って泉に入ったコスタとラージュを見て、ケアノスはアディにこう言った。
「こういう時のルールって……分かる?」
「うん。よくお父さんが言っていた。家以外でお風呂に入る時、男は嫁以外の女の裸をまじまじと見るものじゃないって」
「いい教育を受けているようね。それなら安心」
その後、ケアノスとアディも服を脱ぎ、泉へ向かった。
ピラータ姉妹とアディは汗やヘドロで汚れた体を泉の水を使って洗い流していた。
「ふぃー、やっとすっきりしたよ」
と、言いながらライアは少し離れた所で体を洗うアディに近付こうとした。
「アディ、もう少し近付いてもいいよ」
「うわっ!」
ライアは前かがみでアディに近付いた。アディはライアの体を見て、顔を真っ赤に染めていた。
「照れているよ。可愛い」
「バカ。変なちょっかいを出さない」
ケアノスはライアに近付き、頭にチョップを決めた。その時、あることが気になったセアンがアディに近付いた。
「ねえ。どうしてアディのお父さん、トッポさんだっけ? どんな理由で旅立ったの?」
セアンにこう聞かれ、アディはトッポのことを語りだした。
トッポは優秀な冒険家だった。そのため、興味があると思った地域や、気になった噂があった所へ向かって宝などを集めていた。そんな中、トッポは出身国であるデザートディッシュに珍しい翡翠があると聞き、すぐに旅立った。いつもは旅立って一ヶ月、長くても半年で帰って来るのだが、今回は何年待っても戻って来なかった。
「皆が言っている。僕のお父さんは死んだって。でも、僕はいろんな所へ行って帰って来るお父さんがそんな簡単に死ぬわけがないって」
「すごいお父さんだね。もしかして、強いの?」
「うん。ラージュさんが持っている大きな剣を片手で扱うくらい強い。それと、僕と同じ火の魔力を使うの」
「うわ……聞いただけで滅茶苦茶強そう」
話を聞いていたセアンは、トッポのイメージを浮かべた。セアンがイメージしたトッポは、かなりマッチョで筋肉を自由自在に動かすことができ、片手で大剣を使い、火の魔力を使うイメージが浮かんだ。
「一度会ってみたいけど……性格が熱そうだな」
「そんなに熱くないよ。情熱があるだけ」
と、アディはこう言った。その時、コスタがアディに近付いた。
「色々大変だったけど、これも今日で終わり。お父さんが生きているといいね」
「うん」
アディはコスタの方を振り向いた。コスタは裸で、水に入っているが胸が見えた。それを見たアディは声を上げて失礼のないように目をそらしたが、コスタの体に傷痕があることを察した。
「傷の痕?」
「ああこれ? そうよ。ここに来るまでにいろいろな奴と戦ったから……」
「私にもあるわよ。傷の痕」
と言って、セアンは胸を抑えながら腹をアディに見せた。そこには、それなりに多くの傷痕があった。
「うわ……」
「海賊って結構命がけの場面が多いからね。ラージュの手当てで何となっているけど、何日か入院することになった傷もあったよ。まぁ、生きているから結果よし」
セアンは笑いながらこう言った。それから、アディはケアノスやライア、ラージュの体を見て、傷の痕があることを察した。
「皆さんもいろいろとあったのですね」
「うん。子供のころから本当にね……」
その後、セアンはアディに昔のことを語った。セアンたちの過去を聞いたアディは驚いた表情をしていた。
「驚くよね。確か、ロベリー王女にもこのこと話したよね?」
「そうね、話した記憶があるわ」
セアンの口からロベリーもこのことを知っていると知り、アディは思わず声を上げて驚いた。
「ロベリー王女もこのことを知っているのですか!」
「うん。王女とは一緒にお風呂に入った仲だし」
「えええ! そんなこともしたの!」
「したの。そうだ、ロベリー王女のおっぱいってかなり小さかったなー」
「余計なことを言わないの!」
ケアノスはセアンにこう言ってチョップを放った。セアンは頭を抑えながらケアノスに文句を言った。少し騒がしくなった時、ラージュがアディにこう言った。
「ふふ。騒がしいでしょ?」
「はい。でも、酒場が近くなので、同じくらい騒がしいですが……あそこより、なんだか温かさを感じます。家族のだんらんみたいな形だからでしょうか?」
「そうね……でも、カイトがいればもっと賑やかで楽しくなるけど」
そう言うラージュの顔は、何故か恋をする乙女のような顔をしていた。その顔を見たアディは、早くカイトとウイークに合流したいなと思った。
その頃、カイトとウイークは歩き疲れたため、その場で座っていた。ウイークは服の中を触り、汗で濡れていることを知り、声を上げた。
「うげぇ……早く帰って風呂に入りたい。可能であればセアンちゃんたちと風呂に入りたい」
「止めておけ。そんなことを言ったら殺されるのが見えているぞ」
「そうだな……でも一緒に入りたいな~」
「俺はほぼ毎日一緒に入っていると言うか……向こうが無理矢理乱入していると言うか……」
「はぁ? お前毎日そんなラッキーイベントが起きているの? いいなー。立場代わってよ! 孤児院で一緒に過ごした連中とずっといたせいか、あまり俺の言うことを聞かなくてさー。船長として自信なくしているのよ、俺!」
「そんなこと言われても……というか、船長はセアンだからセアンに従う」
カイトがこう言った後、奥から人の悲鳴が聞こえた。悲鳴を聞いた二人はすぐに立ち上がり、武器を構えた。しばらくして、奥から傷を受けた男がやって来た。
「誰だ!」
「待ってくれ! 俺はあんたらと戦いたくない! 見てくれ……この傷を! 奥にいた変な鎧の奴に襲われた!」
変な鎧と聞き、カイトとウイークの脳内に翡翠の騎士が浮かんだ。
「それって、翡翠でできた鎧を着た騎士か?」
「そうだ……もしかしてあんたらも……」
「俺たちはあいつらと戦って倒した。でも……」
「俺は逃げた。仲間を捨てて……だが気を付けろ! あの翡翠はいつ、どこから襲ってくるか分からないぞ!」
男がこう言った直後、地面から翡翠が現れ、男の体に付着した。それに気付いた男は悲鳴を上げ、翡翠を取り外そうとした。だが、翡翠は取り外すことができなかった。
「止めろ! 止めてくれ! 俺はまだ死にたくない! やりたいことがいっぱいある。都会に行っていい飯を食べたい! いい女と一晩過ごしたい! 金持ちになりたい!」
男は泣きながらこう懇願したが、翡翠は緑色に怪しく光出した。その瞬間、付着した翡翠は徐々に広がり、次第に男の体全体を包み、鎧のような形になった。そんな中でも、男の意識はまだあり、カイトとウイークに向けて腕を伸ばした。
「た……助けて……くれ……」
声を聞いたカイトは我に戻り、男を助けようとした。だが、その直後に翡翠は男の顔を包んだ。
「カイト!」
ウイークはカイトの腰を引っ張り、後ろに戻した。引っ張られたカイトはウイークに文句を言おうとしたが、ウイークは悔しそうな顔をしていた。
「あれはもう……助からない……」
「そんな……」
二人がそう言った直後、翡翠の騎士となった男が二人に襲い掛かった。
そろそろ翡翠の洞窟の探検話も佳境に入りました。サービス回だったけど、翡翠の謎にちょっと迫る話でした。この翡翠が一体何なのか、後から分かります。
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