乙女のピンチ
セアンに倒されたルックは目を覚まし、体の激痛を感じて悲鳴を上げた。
「イッデェェェ! あの女、必ず……殺してやる!」
と言って、破壊されたブレイドチャクラムを手に取った。しかし、何者かが現れてルックの腕を踏みつけた。
「イデェ! 誰だ、一体何をしやがる!」
「俺だ。ルック」
その人物の顔を見て、ルックの顔色は青く染まった。
「おい……もうスラノスがここにいるのかよ……」
「お前たちが出発してどの位時間が経過したか理解しているか? まぁ、理解しようがしまいがどうでもいいが」
と言って、スラノスの男が袋をルックの前に置いた。袋を見たルックは気が悪くなり、嗚咽間を感じて口を手で覆った。袋の中に入っていたのは、コスタが倒したローシの頭だった。
「おぇぇぇ……お前……ローシをこんな目に……あいつだって生きていればまたピラータ姉妹の誰かを殺せるはずなのに!」
「俺たちチームに敗者はいらない。負けたら死。それがルールのはずだ」
「クッ……それより、テルスはどうした? あいつは生きているのか?」
「死んでいたよ。誰かが殺したのだと思う」
男はそう言って、腰の剣を手に取り、ルックに近付いた。
「お喋りは嫌いでな、そろそろ仕事を始める」
「待ってくれ! 俺はまだ戦える! 治療すれば、ピラータ姉妹の誰かを殺せるはずだ! 頼むから、俺の話を聞いてくれ!」
ルックは焦りながら叫んだが、男はルックの話を聞かず、手にしていた剣でルックの首を切り裂いた。
「敗者の言うことは聞かぬ。さて……次はピラータ姉妹を殺すとするか」
男はそう言うと、落ちて来たルックの頭を蹴り飛ばし、遠くの木にぶつけた。
ロベリーはカイトを飛び蹴りした後、もう一度ビニールプールの中に入っていた。
「恥をかいた。まさか異性に我の裸を見せるとは思ってもいなかった……」
「いずれ好きな人に見せると思うけど。例えば……」
セアンが笑いながらこう言ったが、余計なことを言うだろうと察したコスタとケアノスが慌ててセアンの口を塞いだ。
「バカセアン! 変なことを言っちゃダメでしょ!」
「相手は王女様。私たちアウトローと違って真面目な人だから」
「はいはい。ごめんなさい」
セアンはため息を吐き、プールの中で座った。ケアノスは本当に理解したのかと不安になりながらも、もう一度プールの中に入った。
ズミタは気を失ったカイトを横で寝かせ、周囲を観察していた。先ほど、弱い魔力が急に消えたのをズミタは察し、敵が何かをしたと考えていたのだ。
しばらくすると、甘い匂いが漂った。匂いを嗅いで不審に思ったズミタは敵が何かをしたとロベリーに言おうとしたが、突如体が痺れた。
「ぐ……か……体……が……」
「おっと、これ以上何も言わない方が身のためだ」
この言葉と同時に、ルックを殺した男が倒れたズミタの上に上乗りになった。ズミタは男が持っている剣の刃が、うなじ部分に当たっていることを感じ、下手に動けば死ぬと察した。
「大人しくしていてくれよ。俺の狙いはあんたじゃない。王女様と手下の役立たず共をぶっ飛ばしたピラータ姉妹だ」
と言うと、男は小さな魔力を開放してズミタに触れた。その瞬間、ズミタの体内に電撃が走った。
「ぐああああああああああああああああああ!」
「チッ、まわりに聞こえるように大声を発しやがったか」
男は舌打ちをし、カイトの方を向いた。男の存在に気が付いたカイトは刀を持とうとしたのだが、体が痺れて動かなかった。
「お前……一体……」
「俺のことを知りたいのか。どうせお前たちも後で殺すから聞かせてやる。俺はズライリー海賊団の始末チーム、スラノスのレビリーだ。よろしく」
カイトにそう答えると、レビリーはカーテンの方を向いて剣を振るった。バラバラになったカーテンの向こうには、ビニールプールがあるだけだった。
「おかしいねぇ。誰かがいると思ったけど」
「そんなに騒いだら敵が来たって、察するよ!」
セアンはそう言うと同時に、木の上からレビリーに向かって飛び降りた。セアンの飛び蹴りを受けたレビリーは地面に強く激突した。
「グッ……まずいね、さっきの男の悲鳴で俺の存在がばれちまったか」
「その通りよ」
後ろからラージュの声が聞こえた。ラージュはレビリーの首を両手で掴み、力を入れた。
「苦しい目にあいたくなかったら、このまま倒れなさい」
「倒れろ? 嫌だね……それとあんた、俺に触っちまったな……」
この言葉を聞き、ラージュは何かされると思い、レビリーの首を放した。その瞬間、レビリーの首回りに稲妻が走った。
「ナイスタイミングだねぇ。もう少し俺の首を握っていたら感電していたのに」
「あなた、電気の魔力を使うのね。教えてくれてありがとね」
ラージュがこう言うと、レビリーは近くにいるセアンに向かって走って行った。
「今の状況で、俺に勝てると思わないでね」
そう言って、レビリーは左手をセアンに向けた。
セアンはこの状況をピンチだと思っていた。レビリーはロベリーよりも先に自分たちを倒し、後でロベリーを連れて行くつもりだと考えた。相手の考えを理解できたが、今のセアンたちはバスタオルを見に付けている。武器は離れた所に置いてあるため、格闘術と魔力で戦うしかないのだ。
「ほら、俺の電気で痺れろ!」
「危ないなぁ!」
セアンは高く飛び上がり、レビリーの左手をかわした。そう来るだろうと思っていたレビリーはセアンの方を向き、高くジャンプした。
「こんな動きをするのは分かっていたさ!」
レビリーはセアンに触れようとしたのだが、その直前に何かがぶつかり、レビリーは吹き飛んだ。地面に落ちたレビリーは脇腹を触り、何が飛んで来たのか確認した。が、何もなかった。
「オイオイ……何を飛ばした?」
その直後、再び何かがレビリーに向かって飛んで来た。レビリーはこの攻撃を避けることができず、そのまま受けてしまった。
「ガハァァァァ! クソッ! 何だ、この攻撃は!」
「特別に教えてあげるわ。これは風の魔力よ」
と言って、コスタが接近した。コスタは風でショートソードを形成しており、それを使ってレビリーを一閃した。
「グウッ! 魔力はあるようだな。夜だから疲れてないと思っていたが……」
「残念! まだまだ私たちは戦えるよ!」
上空からライアが現れ、レビリーを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたレビリーは地面を転がる中、態勢を整えてすぐに立ち上がった。
「グッ、ルックたちを倒した実力は認めてやる。仕方ない。本気を出すとするか!」
と言って、レビリーは魔力を開放した。その直後、激しい電気が発生し、そのせいでレビリーの髪の毛は上に上がった。
「これが俺の全力だ! 悪いが、俺に触れたら強い電気が流れて死んじまうぜ! このまま全員感電死させてやるよ!」
「奴の言うことは嘘や強がりじゃないわ。本当よ! 皆、カイトとズミタを連れて逃げるわよ!」
ケアノスの声を聞き、セアンはカイトを、ラージュはズミタを抱き上げて逃げた。散り散りに散ったセアンたちを見て、レビリーはにやりと笑ってこう言った。
「真夜中の鬼ごっこか。楽しそうだな」
ケアノスと共にいるロベリーは、木の上に隠れていた。ケアノスは魔力を抑え、レビリーに居場所が把握されないようにしていた。
「このままだとまずいわ……何か策を練らないと……」
「おい……ケアノス……」
横にいたロベリーの弱弱しい声が聞こえた。ケアノスはロベリーの方を振り返り、こう聞いた。
「どうかしましたか? 王女?」
「こ……こんな格好で戦うのか? 裸に近い状態で、バスタオルだけしか身に着けていない中で?」
ロベリーにこう言われ、ケアノスは我に戻った。風呂に入った状態で襲われ、慌てて敵から逃げたため服も装備も身に着けていなかったのだ。
「まずいわ……これ、非常にまずい状態だわ……」
と、ケアノスは冷や汗を流しながらこう言った。
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