剣を使う狙撃手
ローシは動揺していた。ニュースやネットの情報でコスタはピラータ姉妹の狙撃手であることが分かっている。そのため、コスタは狙撃だけしかできないとローシは思っていた。
情報通り、コスタは狙撃でローシを攻撃した。だから、ローシは魔力で銃を錆らせる雨を降らせ、コスタのスナイパーライフルを使えないようにした。そこまではよかった。だが、コスタがショートソードを使うことは、ローシにとって予想外の事実であった。
「接近戦は苦手だからやりたくないけど……この状況だと、仕方がない!」
コスタはショートソードを構え、ローシに接近した。素早いコスタの動きに対応できず、斬撃を受けてしまった。
「グフウッ! こんな傷……」
斬撃を受けた後、ローシはコスタから離れようとした。しかし、動きはコスタの方が上だった。コスタは素早く後ろに下がったローシの後を追い、走り出したのだ。コスタの動きを察したローシは慌てて弓を使おうとしたが、慌てているせいで矢を取ることができなかった。
「ああっ、クソッ!」
ローシは反撃を諦め、コスタから逃げることを選択した。しかし、コスタは魔力で風の刃を発し、ローシに攻撃を仕掛けた。
「クソッ! そうだ、あいつらは風を使うのだった!」
飛んできた風の刃をジャンプしてかわしたローシだったが、コスタは二発目の風の刃をローシに向けて放っていた。ローシは二発目の風の刃を受けてしまい、悲鳴を上げながら後ろに吹き飛んだ。
攻撃を受けたローシは、大きな木に激突した。痛みに耐えながらローシは下に降り、周りを見て、コスタと自分の距離が開いたことを確認した。
今なら攻撃できる。
そう思ったローシは矢を手にし、ジグザクに走って迫っているコスタに狙いを定めた。魔力を込めているため、先ほどと同じように追尾する矢を放つことができる。これで致命傷になればいいと思いながら、ローシは矢を放った。
「また追尾の矢を放ったのね」
ローシが矢を放ったことを察したコスタは、ジグザクに動いていた走りを止め、迫って来る矢を見てショートソードを振るった。しかし、矢はショートソードの斬撃をかわし、コスタの背後に回った。
「えっ!」
コスタは動揺した。まさか、矢が斬撃をかわして背後に回るとは考えてもいなかったからだ。
「騙されたな! このままお前を貫いてやる!」
ローシは叫びながら、魔力で矢を操った。コスタは動揺しながらも、背後に回った矢をショートソードで斬り落とした。ローシはこの隙を狙い、二本目の矢をコスタに向けて放った。猛スピードで飛んでくる矢を見たコスタは、再びショートソードを使って切り落とした。しかし、それに続かのように無数の矢がコスタに向かって飛んで来ていた。
「下手な鉄砲はやみくもに撃てば当たるって言うけれど……下手な矢もやみくもに放てば当たるって言うのかしら」
そう呟きながら、コスタは飛んでくる矢を切り落とし続けた。しばらくし、コスタの周りには矢の破片が散らばっていた。矢が飛んでこないため、矢が尽きたのだろうとコスタは考えた。
「もう手はないのね」
「残念。手はあるさ」
と言って、ローシはコスタの背後に回り、隠し持っていたナイフをコスタの背中に突き刺した。
ズミタは強い魔力が揺らいだことを感じ、少し動揺した。ズミタと戦っているテルスは、ナイフを構えてこう言った。
「ピラータ姉妹の一人がくたばったようだな。今度はお前がくたばる番だ」
と言って、ズミタに殴りかかった。テルスの右ストレートを受け止めたズミタは、テルスの顔面に左フックを入れ、右足に魔力を込めてテルスを蹴り飛ばした。テルスは木々をなぎ倒しながら後ろに吹き飛んだ。
「グッ……動揺しないか……」
テルスは体に突き刺さった小さい木の枝を抜きながら立ち上がり、接近してきたズミタを睨んだ。ズミタはため息を吐き、テルスにこう言った。
「少しは動揺した。だが、もう一度魔力を感じて見ろ」
「あん? あ……」
ズミタに言われた通り、テルスは魔力を探知した。少し弱まったコスタの魔力が、さっきと同じように強く感じていたからだ。
「どうしてだ? 弱くなったのに」
「どうしてかは分からない。だが、ピラータ姉妹はあの程度では負けぬということだ」
そう言って、ズミタはにやりと笑った。
コスタの背中にナイフを突き刺したローシは、勝利を確信した。しかし、それでもコスタの魔力は衰えなかった。
「ど……どうしてだ? ナイフは刺さったはずなのに……どうして生きていやがる!」
「当然よ。ずっと戦って来たから、それなりに強くなったのよ、私たちは」
コスタは背中に刺さったナイフを抜き差し、魔力を使って背中を治した。すぐに治ったコスタの背中を見て、ローシは動揺した。
「これ、いらないから返すわ」
と言って、コスタはローシにナイフを投げた。飛んできたナイフはローシの左腕に刺さった。
「グアッ! 俺の左腕が!」
「これで弓は使えないわね。残念。私の狙撃を封じたのはよかったけれど、ショートソードを使うという情報をあなたは知らなかったみたいだね」
「く……クソッ! 調子に乗るなよ! 接近戦ぐらい、俺だってできる!」
コスタの言葉を聞いて怒り出したローシは、コスタに殴りかかった。しかし、ナイフが刺さった左腕の激痛のせいで、ローシはまともに動くことができなかった。
「左腕の傷が広がるわよ。動かないことをおすすめするわ」
「ふざけるな! この女!」
ローシは怒りを込めて右腕を振り回したが、攻撃は外れた。その上、この攻撃の衝撃で左腕の傷が広がり、痛みが増した。
「ガアッ! ま……まずい……」
このままこの傷を放置していたら危険だ。そう察したローシは傷を治そうとしたが、コスタはショートソードを手にしていた。傷を治す隙に、攻撃をするつもりだとローシは察し、手当てをするのを諦めた。
「手当てをしないの?」
「したらお前がそのショートソードで斬るだろう! 余計に傷が増える!」
「分かるのね。残念」
「クソッ! とことんバカにしやがって!」
ローシは魔力を開放し、コスタに殴りかかった。しかし、弓の攻撃に頼り切っていたローシの格闘センスは、素人よりも酷かった。コスタは魔力を開放せずともローシの格闘をかわし、隙を見てローシの脇腹に一閃を与えた。
「ガァッ! こ……こいつ……」
「隙がありすぎよ。海賊なら、人間との戦いに備えて鍛えなければいけないわ」
「うるさい! 黙れ! ガキが偉そうに説教するな!」
怒りを爆発させたローシは、再びコスタに殴りかかった。コスタはローシの顔に蹴りを入れ、後ろに転倒させた。そして、コスタは魔力を開放してローシにこう言った。
「これ以上の戦いは止めましょう。あなたの敗北で、この戦いを終わらせる」
コスタから強い魔力を感じたローシは、後ろに下がった。この攻撃を受ければ、確実に自分は倒されると感じたからだ。
「や……止めてくれ。待ってくれ。この一撃を受けたらどうなるか……分かるよな? な? なぁ!」
「悪いけど、敵は殺さないけど情けはかけないから」
そう答え、コスタは解放した魔力をショートソードに溜め、ローシに接近して攻撃した。強い魔力がこもったショートソードの一閃は、ローシに大きなダメージを与えたうえ、斬撃を与えた衝撃で宙に高く浮き上げた。コスタは宙に上がったローシを見て、ショートソードを鞘に納めた。
宙に上がったローシは、別の所で戦っているセアンの目でも確認できた。セアンはにやりと笑い、ルックを見てこう言った。
「仲間が一人やられたみたいだね」
「ローシの奴……クッ……」
「サクッと私を倒してコスタの方に行っても無駄だよ。まだコスタの魔力はあるみたい。だけど、その前に私があんたを倒すから」
「ふざけたことを言うな!」
セアンの言葉を聞き、ルックは怒りと共に魔力を開放した。
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