敵の狙い
ヘイトモンキーを倒した後、カイトたちは再びゴイチ城へ向かって歩き始めた。その途中、気を失っていたロベリーが目を覚まし、周囲を見回した。
「どうした? あの猿共は倒したのか?」
「はい。私がボスを倒しました」
ケアノスがズミタの背にいるロベリーに近付き、こう答えた。ロベリーはケアノスの左肩の包帯を見て、ボスとの戦いが激しいものだったと理解した。
「凄い戦いだったようだな……傷が……」
「治療したので大丈夫ですが、しっかり治るまでは私は戦えません」
「ま、私たちがいるから大丈夫!」
と、セアンが声をかけた。ロベリーは本当に大丈夫なのかと思っていたが、頭がよく、硬い歯や爪を持つヘイトモンキーの群れを倒したカイトたちの実力を見て、少しだけ大丈夫だろうと思った。
歩き始めて数時間後、セアンは周囲を見回してこう言った。
「少し休もう。ずっと歩いていると疲れが溜まるよ」
「そうね。敵もいつ来るか分からないし、リラックスするためにも休みましょう」
セアンとラージュはこう言って、休憩の支度を始めた。ロベリーは早く行かねばと思ったが、ケアノスが痛そうに左肩を抑えるのを見て、休憩しようと思った。
「ケアノス、傷はどう?」
ライアが心配そうにケアノスに近付き、こう聞いた。ケアノスは左肩を抑えながら答えた。
「少しだけ痛いわ。ごめんね、しばらく戦いは任せるわ」
「ヘイトモンキーのボスを倒したから、仕方ないよ。セアンの言う通り、敵が来たら私たちに任せてよ」
「さ、ケアノスはここに座って。手当てをするわ」
ケアノスはラージュの元へ行き、傷の手当てを行った。カイトとセアンは飲み物の支度をし、ライアは軽食の準備を始めていた。そんな中、コスタがラージュに近付いた。
「ねぇ、どうして奴らがこの国に攻め込んで来たか分かる? ブラッディークローが関係しているとはいえ、海賊が大きな国一つに喧嘩を売るなんて自爆行為なのに」
コスタの質問を聞き、ロベリーはある物の存在を思い出した。
「父上から教えてもらったことがある。ゴイチ王国には代々伝わる不思議な消しゴムがあると」
「消しゴム?」
話を聞いていたセアンは思わず声を出した。コスタも不思議な消しゴムの話を聞き、疑問に思った。
「消しゴムってシャーペンや鉛筆で書いた文章とかを消すあれだよね? 何でそんな物を奴らは狙うの?」
「何でも消すからよ」
ロベリーの答えを聞き、コスタは不思議に思った。何でも消す消しゴム。そんな物が存在するとは考えたこともなかったからだ。
「何でも消す? もしかして、文字以外にも、物体を消すとかできるの?」
「そう。自然も、建物も、魔力も、生き物も消してしまう危険な消しゴムだ。古の時代に作られたと言われ、あまりにも危険だから封じられている消しゴムだ」
ロベリーの話を聞いたコスタは、この消しゴムがズライリー海賊団、そしてブラッディークローに渡ったら大変なことになると察した。
「何でも消す。結構危険な消しゴムね。奴らはこの国にあるってことが分かっているのね」
「ああ。どうやら、どこかの文献でその消しゴムがこの国のどこかにあるということが書かれていたらしい。私もその消しゴムの存在は知っているが、どこにあるのか分からない」
「だから、この国が攻められたのか」
ライアが紙皿を持ってやってきた。紙皿の上には小さなパンケーキがあった。
「はちみつだけしかかけてないけど、よかったらどうぞ」
「質素なパンケーキだが……何故かうまそうに見える」
「なんだかんだ言って、結局はシンプルな物が一番おいしいものだよ」
ライアから紙皿とプラスチックのフォークを受け取り、ロベリーはパンケーキを食べ始めた。
「……うまい」
「よかった。王女様の口に合ってよかった」
少し緊張していたライアは、安堵した口調でこう言った。
しばらく休む中、ロベリーはカイトにいちゃつこうとするセアンを見て、こう言った。
「なぁ、どうしてお前たちは海賊になったのだ?」
この質問を聞き、セアンの動きが止まった。ロベリーは聞いてはいけないことかと思ったが、そのすぐにセアンが近付いて話し始めた。
「私たちの国は、ブラッディークローという海賊団に滅ぼされたの。その仇討ちと、悪い海賊を倒しまくって、宝を見つけて売りまくって、故郷を復興させるため」
「なっ……」
「やはり、話は本当でしたか」
話を聞いていたズミタがこう言った。セアンはこの話が知れ渡っていることを知り、少し照れた。
「えへへ。仇討ちって復讐臭いからあまり言いたくないけど……まぁ、仇討ちの他にも、奴らの手で私たちみたいな人を増やしたくないってこともあるかな」
「海賊ながら、立派な考えを持っているようですね。信頼してよかった」
「少しでも信頼してくれているなら、光栄だよ」
と、セアンはこう言った。
同時刻、謎の三人組が遠くからカイトたちの方を見ていた。
「おーおー、敵地のど真ん中でピクニックかよ。呑気なものだなー」
「休憩中だろ。今のうちに攻めて奴らを血祭りにあげようぜ」
と、三人組の一人が刃状のチャクラムを回しながらこう言った。すると、後ろにいた人物がチャクラムを回す人物の頭上にチョップした。
「イッテェ! 何しやがる!」
「よく見ろ。休憩しているようにみえるが、奴らは武器を携帯している。襲われた時の対策を練っている。このまま突っ込んでいたら返り討ちにされるぞ」
「ケッ。だったら王女様だけでもぶっ殺せば」
「バカ野郎。あの消しゴムのことを知っているかもしれない。知らなくても、脅しの材料として使える」
「そうだな……」
三人組はその場に座り、再び話し始めた。
「どうする? いつ、どのタイミングで攻め込む?」
「タイミングとしては一時間後がベストだ。この位歩けば再び疲れるだろう」
「オッケー。それじゃあ一時間後には殺し合いが始まるってわけか」
「そういうことだ。さて、それまで武器の手入れをするぞ」
そう言って、三人組は武器の手入れを行った。手入れをする中、一人が話を切り出した。
「奴らは強いな。ヘイトモンキーを倒したみたいだし」
「だが、そいつらとの戦いで魔力を使ったおかげで、奴らの場所を把握できた。バカ猿共に感謝しないといけないな」
「確かにそうだ。あいつらが戦わなければ、俺たちはあいつらを探しにこの森を歩き回っていたぜ」
「ヴロミコさんに叱られるのは嫌だからな。あの人も上からあれこれ言われて苛立っているし」
「ハハハハハ! だから毎晩、城のメイド共を激しく抱いているのか!」
「怒りを色欲で押さえる……だが、それも長くは続かない。早く仕事を終わらせてあの人を安心させるぞ」
「おう!」
話をする中、携帯の着信音が鳴り響いた。リーダー格の男が携帯を手にし、連絡を始めた。
「はい。もしもし? は? 戦闘チーム、スラノスがこっちに向かった?」
この言葉を聞き、残りの二人は目を丸くして驚いた。
「どうしてだ? はぁ? 俺たちじゃあ役不足だと? そんなことを言うなよ。とにかく、奴らが出てくるのは俺たちが倒されてからにしてくれ。それじゃあ遅い? そんなこと言うなよ。俺たちがピラータ姉妹をぶっ殺し、姫を連れ戻してくるから」
と言って、苛立ちながら電話を切った。
「スラノスが来ているのか。面倒だな。奴らはかなり強いけど、性格に問題があるからな」
「人を見下すし、嫌な連中だ」
二人がこう言うと、リーダー格の男は立ち上がってこう言った。
「ぼやいている暇はないぜ。俺たちがピラータ姉妹をぶっ殺して、奴らより強いってことを示してやろうぜ」
「そうだな! 奴らの驚く顔が目に浮かぶぜ!」
「うし、早速行こう!」
「おう!」
会話を終えた三人組は、カイトたちに向かって走り始めた。
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