城下町、ブルベリで起きたこと
翌朝。ケアノスとラージュは宿のロビーで朝食を食べていた。カイトたち四人は病院で入院中のため、二人だけの食事となっていた。
「皆がいないと静かね」
「いつも騒がしいから、これだけ静かだと逆に気が散るわね」
「そうね。皆が早く退院すればいいけれど」
ケアノスがコーヒーを飲んでいると、住人の一人が慌てながら宿に入ってきた。
「主人! この宿に強い戦士はいないか? この状況だ、腕に自信がある戦士を紹介してくれ!」
「おいおいどうした? そんなに騒ぐなよ。何かあったのか?」
「シーポリスで殺人事件だ! 昨日、ピラータ姉妹が捕まえたという海賊とシーポリスの戦士が殺された!」
この言葉を聞き、ケアノスとラージュは立ち上がった。住人は立ち上がった二人を見て、そばに近寄った。
「おお、ピラータ姉妹。丁度朝ごはんの時間でしたか」
「はい。今食べ終えましたが、殺人事件とは一体?」
「気になるなら現場に向かってくれ。俺はとにかく他に手を貸してくれそうな人を呼んでくる!」
と言って、住人は去って行った。ケアノスは急いで支度をしたが、ラージュはケアノスに動きを止めるように指示した。
「ここは私が行くわ。ケアノスはセアンたちの様子を見に行って」
「分かったけど……もし、まだ犯人がいたらどうするの?」
「決まっているじゃない。半殺しにするわ。ケアノスも犯人らしき奴に襲われたら、半殺しにするのよ」
「ええ、分かったわ。ラージュ、気を付けてね」
ケアノスに見送られ、ラージュはシーポリスの所へ向かった。
数分後、ラージュはシーポリスにいた。すでに黄色い線が引かれており、その周りには野次馬やメディアが集まっていた。シーポリスの戦士の一人がラージュの姿を見つけ、急いで案内した。
「ここが最初の現場です」
そう言って、シーポリスの戦士はラージュに殺人現場を見せた。周囲の床や壁、天井には血が付着しており、掃除しきれていないのか、血肉らしきものも散乱していた。
「酷いわね。ここで殺されたのは?」
「深夜、見回りをしていた戦士です。殺された人数は三人。三人とも、バラバラに斬られていました……」
戦士は涙ぐみながら、ラージュに説明した。ラージュは戦士の肩を叩き、こう言った。
「苦しいのは分かるわ。もし、辛いなら私一人で調べるわ」
「任せてもいいでしょうか?」
「ええ。この状態じゃああなたの精神が病んでしまうわ」
「すみません……あとはお願いします」
戦士はゆっくりと歩きつつも、途中で嗚咽しながら戻って行った。そこからラージュは一人で現場を見ることにした。最初に被害者は三人と言われたが、奥に行くにつれて、被害者は増えて行くだろうとラージュは思った。牢屋の前に着くころには、ラージュは殺された戦士の数は最低でも十人ぐらいだと予想した。
その後、ラージュは牢屋を調べた。近くにいた牢屋番に話をし、ペイリーたちがいた牢屋を案内してもらった。
「ここが殺人現場です。酷いですよ、こりゃあ」
牢屋番は恐ろしそうに身震いしてこう言った。ペイリーたちがいたとされる牢屋は床も壁も天井も血で染まっており、血が完全に乾いていないため、天井から血が垂れていた。ペイリーたちが持っていた武器もないため、ペイリーたちは抵抗することができず殺されたとラージュは考えた。
「死体はどんな状況か分かりますか?」
「サイコロステーキみたいにバラバラになっていたよ。あれじゃあ誰がどれだか分からないさ。にしても、あんな殺し方をされるとは、かわいそうに」
ペイリーたちの最期を知り、ラージュは少しだけ同情した。その時、戦士たちの声が聞こえた。
「分かりました! 犯人の姿がビデオに映っていました!」
この声を聞き、ラージュは急いで監視室に向かった。監視室の中にあるテレビには、謎の人物が剣を振るってペイリーたちを斬り刻む映像が映っていた。それを見たラージュは、こいつが犯人だと察したが、正体が分からなかった。
「こいつが犯人だけど……一体何者?」
「ラージュさん、実はこんな噂話があります」
戦士の一人が、ラージュに話しかけてきた。その噂話が気になったラージュは、話を続けるように促した。
「実は、ズライリー海賊団の中には捕まった仲間を処分するためのチームがいるようです」
「そいつらが今回の事件を起こしたってわけね」
「その可能性があります。奴らは捕まった仲間を処分するためには、手段を選ばないと言われています」
「情がない奴らね。捕まった仲間を助ければいいのに」
「捕まって拷問されて、仲間が漏れるのを阻止しているのだと思います。けど、このやり方は残酷すぎますよ」
「同じ意見よ。変な奴らがいるわね」
ラージュはため息を吐き、ケアノスの元へ向かった。
ラージュが宿に戻ると、入口付近が騒がしいことに気付いた。ラージュは扉を開け、目の前にいたカイトたちに近付いた。
「もう退院したの? 早いわね」
「魔力を使って回復を早めたの。そのおかげで、もうバッチリ!」
と、セアンは親指を立ててこう言った。カイトとライアも怪我がないことをアピールし、コスタも身に着けていた眼帯を外したとラージュに見せた。
「皆元に戻ったみたいね。よかった」
「で、殺人事件について何か分かった?」
ケアノスの言葉を聞き、ラージュは今回の事件の容疑者がズライリー海賊団の仲間の処分をするチームの仕業の可能性があることを告げた。
「仲間を殺す専門のチームか。だから情報がリークされないのか」
「えげつない連中だな」
話を聞いたライアとカイトが呟いた。コスタは周りを見回し、ラージュにこう言った。
「じゃあ、もしかして奴らがここにいるかもしれないってこと?」
「その可能性はあるわね。シーポリスに忍び込んで派手に殺人事件を起こしたから、暗殺を得意かもしれないわ」
「暗殺者か。厄介な相手だな」
カイトはため息を吐いてこう言った。そんな中、外で大きな音が聞こえた。
「私、様子を見に行ってくる」
セアンはそう言って、急いで外に飛び出した。
外では、タンクトップの男がフードを被った二人組に文句を言っていた。
「だから、お前らがぶつかったから俺のビールがこぼれただろうが!」
「こんな昼間からビールを飲んでいるのが悪い! それに、我らは今忙しい、こんなことをしている場合ではない!」
「何だとこの野郎! 言っておくが、俺はズライリー海賊団の一員だ! これを見ろ!」
タンクトップの男は左の二の腕にあるタトゥーを見せた。それを見た二人組は言葉を失ったが、タンクトップの男は笑いながら話を続けた。
「どうだ、驚いたか! 俺はこの町の中で、一番上の立場の人間だ! 大人しく金さえ渡せば、逃がしてやるよ! さぁ、持っている金を全て渡せ!」
「金はやらないけど、蹴りならいくらでも渡すよ!」
と、セアンが飛び蹴りを放ちながら現れた。セアンの足はタンクトップの男の顔面に命中し、突き倒した。
「ふぃーっと。大丈夫? 変なおっさんに絡まれていたけど」
「あ……あなたは……」
「私はピラータ姉妹の長女、セアン! とりあえず、よろしく!」
セアンはブイサインを作りながらこう言った。タンクトップの男は立ち上がりながら、セアンを睨んだ。
「お前がセアンか。お前のせいで、ペイリーさんやリビさん、タウクさんが捕まって殺された!」
「殺したのはあんたの所の始末チームの仕業かもしれないよ。私たちは奴らを半殺しにして、捕まえただけ」
「うるさい! 俺たちは捕まったら殺される運命だ! クソッたれ、ペイリーさんたちには世話になったのに……ここで仇を取ってやる!」
タンクトップの男はナイフを手にし、セアンに襲い掛かった。
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今回の話で百話を越えました。まだまだカイトたちの冒険と戦いの物語は続きますので、応援の方をよろしくお願いします。




