第二の人生の幕開け
せみが鳴り響く中、多数の人が墓石の前でお祈りをしていた。その墓石には、夏日家と彫られていた。お祈りを済ませた一部が、ため息を吐いて小声で話を始めた。
「海人君も大変だな。まさか、事故で両親を亡くすだなんて……」
「事故はいつ起きるか分からないわ。確か、海人君って来年中学卒業よね?」
「そうだったな。かわいそうに……」
「それで、海人君はこれからどうするか話していたかい?」
「一人でこの町に住むって。両親との思い出がたくさん詰まったこの町から、出たくないって」
「学校はどうするんだ?」
「高校には行かず、卒業したらすぐに働くって。それまでは私たちが援助するつもり」
「そうか……そうだな。中学卒業まで、私たちが海人君を支えなければな」
と、参加していた夏日家の親戚は話をしていた。墓石の前にいた少年、夏日海人は目をつぶって両手を合わせ、心の中でこう言った。
父さん、母さん。俺、一人ぼっちになっちゃったけど、たくましく生きていくから。天国で見守っていてください。
二年後、海人は中学を卒業してすぐに働き始めた。工事現場、配送、飲食店での仕事などをこなしつつ、さしすせ荘と言うボロアパートで暮らしていた。
その日、海人は部屋で仕事の準備をしながらテレビを見ていた。テレビでは、台風が近づいてきているとアナウンサーが何度も話していた。
「台風か。少し離れているから高波だけには気を付けないと」
と、海人は呟いた。それから外に出て、海へ向かった。海人は海でライフセイバーの仕事を行っていた。見張り台の上に座り、溺れている人がいないか確認していると、下にいる先輩ライフセイバーが声をかけた。
「おーい、夏日ー! 交代の時間だぞー!」
「はーい! 分かりましたー!」
海人は見張り台から降り、先輩ライフセイバーと交代した。その時、近くにいた水着の美女が海人に声をかけてきた。
「ねぇ。そこの可愛い坊や。日焼け止め塗ってくれない?」
と言って、上の水着の紐をほどき、笑顔で海人にこう言った。上半身裸の美人を見た海人は顔を真っ赤にし、失礼しますと言って海の方へ向かった。先輩ライフセイバーは海人を見て小さく呟いた。
「童顔でそれなりに身長と筋肉があるからモテるんだろうな。いいなー」
と言った後、急いで見張り台に上った。
女性の対応が苦手な海人は、海辺で見張りをしていた。だが、仕事中なのに美女が海人に何度も話しかけてきた。仕事中と何度も対応している中、海人はため息を吐いた。
「はぁ……給料いいからこの仕事を始めたけど……これじゃあ仕事になんねーな」
そう呟くと、海の遠くで不自然に水しぶきが発生している光景を見た。不信と思った海人は望遠鏡で確認した。
「嘘だろ!」
望遠鏡に映ったのは、溺れている女の子だった。海人はすぐに別のライフセイバーに連絡をした後、急いで海へ向かって女の子の救出へ向かった。泳ぎが特技である海人はあっという間に溺れている女の子の所へ到着した。
「大丈夫だよ、安心して」
「ありがとう、かっこいいお兄ちゃん」
海人は溺れている女の子を救出した後、水上バイクの音が聞こえた。その音を聞いた海人は別のライフセイバーが来たと察した。その後、海人は援護にやって来た別のライフセイバーに女の子を渡した。
「夏日、援護に来たぞ」
「この子をお願いします。俺は泳いで岸へ戻ります」
「分かった。無茶するなよ」
海人は女の子を別のライフセイバーに任せ、泳いで岸へ戻ろうとした。その時、海人の後ろから高波が襲い、海人を飲み込んだ。海の中に引き込まれた海人は態勢を戻し、何とか海上へ上がろうとした。だが、高波の中にあった大きくて鋭い枝がいくつも生えている巨大な丸太が勢いを付けて海人に向かって落ちてきた。海人は落ちて来た丸太を避けることができず、直撃してしまった。その際、鋭い枝は海人の体を貫いた。
ここで、俺は死んでしまうのか?
カイトがそう思った瞬間、意識が途切れた。
カイトが目覚めた時、そこは海の中ではなかった。紫色のオーロラのような物が周囲を漂い、感じたこともなく、なんて言えばいいのか分からない雰囲気がしていた。
「何だ、ここ? 日本……じゃあなさそうだな」
「ええそうです。ここはあなたがいた日本の地ではありません」
と、女性の声が聞こえた。カイトが後ろを振り向くと、そこには光が輝くような髪の色をした美しい髪の女性が座っていた。
「あなたは誰ですか?」
「大勢いる神の一部。とも言っておきましょう。私にはこれと言った名前はないので」
女性はそう言うと、立ち上がってカイトの前に移動し、話を続けた。
「夏目海人、あなたはつい先ほど、命を落としました。ここはあの世です」
「命を落とし……そっか、俺は死んだのか……にしては、悲惨な最期だったな。丸太に当たって枝が体中に突き刺さるだなんて……」
カイトは肩を落とし、小さく呟いた。だが、女性は笑顔でこう続けた。
「しかし、あなたには転生のチャンスがあります」
「転生? 生き返れるんですか?」
「はい。前世で徳が高い人物だけが行える特別サービスです。今の記憶を持ったまま、別の世界へ生き返ることができます。あなたは生前、真面目な人でした。そして、命を落とした理由も溺れた子供を助けたため。だから、このサービスが行えるのです」
「あの、日本に生まれ変わることはできないのですか? できれば、知っている場所の方がいいのですが」
「いいえ、日本で生まれ変わることはできません。神の力の関係で、元の世界に生まれ変わるには何か、別の生物にならなくてはいけないのです。人の姿で命を落としたら、人以外の生き物にならなくてはいけないというわけです」
「そんなルールがあるのですか」
「神の力も便利ではないのです。それよりも、転生しますか? しませんか?」
女性がこう聞くと、カイトは少し考えて質問をした。
「すみません、俺が次に転生する場所は?」
カイトの質問を聞き、女性は机の上の資料を手にした。
「えーっと、ドラートレという七割が海の世界です。あなたがいた世界の地球と少し似た世界です。資料をどうぞ」
カイトは女性からドラートレの資料を受け取り、中を見た。ドラートレは海が多く、船での移動が主である。そして、魔法やモンスターなど、ファンタジーの設定が存在する世界でもある。だが、車やテレビなどの家電が存在しているため、多少日本と同じ文化もあると書かれていた。
「へー、こんな世界があるのか」
「日本に似た世界だとここしかありません。ただ、魔法が発達しているため、それを悪用した悪人がいるので、日本より物騒ですが」
「すぐに死にそうだな……俺」
「大丈夫です。私からのサービスが用意されています」
女性はそう言うと、指を鳴らした。すると、光の粒子と共に一本の刀と青いオーラが現れた。
「これは?」
「転生した時のサービス品です。日本になじみのある刀という武器、そして魔力というこの世界にある力です。水の世界で生きられるように水の魔力をあなたに差し上げます」
「水の魔力?」
「上手く使えば飲み水にもできますし、船を動かすこともできます。使い方はいろいろあります。それよりも、この世界に転生しますか? しませんか?」
再び女性が転生をするかどうか聞いてきた。カイトはしばらく考え、女性にこう告げた。
「転生します。ここでもう一度、俺の人生をやり直します」
「分かりました。では転生……の前に、もう一つ私からのサービスです」
女性はそう言って、杖を手にしてカイトに振りかざした。杖の先端が光出し、呪文のような文字がカイトを包んだ。
「これは?」
「すぐに戦えるように刀の知識、ドラートレで生きられるためにその世界での知識、そして仲間ができるように、五つの運命をあなたに与えました」
「五つの運命?」
「ええ。転生してすぐに出会いがあるように、五つの運命を操作しました」
「運命を操れるのか」
「その位なら私もできます。では、転生を始めます」
そう言うと、カイトの足元に魔法陣が現れた。突如現れた魔法陣を見て、カイトは戸惑ったが、女性が優しい声でこう言った。
「大丈夫です。これはあなたをドラートレへ転送する魔法陣です。しばらくしたら、あなたはドラートレの世界にいます」
「いや、本当に大丈夫ですかこれ? 不安ですよ」
「大丈夫です。旅立つあなたに一つだけ言っておきます」
女性は少し間をとり、カイトにこう言った。
「あなたは一人ではありません。五つの運命があなたの助けになります。ですが、あなたもその運命の人の助けになりなさい。人は一人では生きてはいけないのです」
「分かりました」
カイトが返事をした瞬間、足元の魔法陣は強く、白く光出した。
ドラートレの港町、アラヤーダン。そこから少し離れた所にいる船にいる少女が、アラヤーダンから放たれる光を見てこう言った。
「ん? なんか変な光が発したけど」
その隣にいたメガネの少女が、ため息を吐いてこう言った。
「誰かが魔法か何かを使っているのよ。一応言っておくけど、アラヤーダンには宿と食料と水の調達のために行くだけだから」
「分かっているよ。決して興味なんてございませんよ~」
と、その少女はメガネの少女にこう答えたが、その目は子供のように輝いていた。メガネの少女はそれを見て、ため息を吐いた。
どうも、刃剣です。新しい話がこれから始まります。カイト少年の戦いと冒険が幕を開けます。ヒロインは次回登場します。読者の皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
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