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踏み切りの話

作者: メジロ


大学の友人に、昔ホラーが好きだったらしい男がいた。僕が彼と知り合ったのは4年生の時で、そのときはすでにホラー嫌いになっていた。

そんな彼がホラー嫌いになったきっかけの話だ。


彼は僕と知り合う数年前までちょくちょく心霊スポットとかに行っていたらしい。ただ有名なところに行っても心霊現象には遭遇しなくて、心霊スポット巡りというよりは廃墟巡りみたいな感じだったみたいだ。

ある日、夜中なのに遮断桿が下りる踏切があるという噂を聞いたらしい。なんでも、毎日同じ時間に下がるんだとか。

その話を聞いた日に、彼はそこに行ったのだそうだ。

帰って仮眠をとり、噂の場所から少し離れたところにあるファミレスで食事をとり、午前1時半くらいまで時間を潰してからその場所に向かった。

そこは少し奇妙な場所だったそうだ。

踏切そのものは少し錆びているくらいでさりとて特筆するべきところはなかったが、住宅街の中を走ってる路線にも関わらず、周囲には民家がなかったらしい。

街灯と空き地があるだけの、どこからか空間だけくり抜いてきてそこに設置したようなその踏切を、当時の彼はとても気に入ったのだという。

スマホを弄りながら待っていると、やがて踏切がなり始めた。

友人は、きたきた、と思い、スマホを構えた。彼は幽霊列車を撮ってみたかったのだという。

甲高い、カンカンカン、という特徴的な音と共に遮断桿が下りていく。彼は下りきった遮断桿に左手を置いて、線路の方にスマホを構え、電車が来るのをじっと待っていた。

完全に下りきってから体感で3分ほど待ったが、一向に電車がくる気配はなく、ただ踏切の音だけが鳴り響いているだけだった。

友人は気が長い方ではなかったので、そろそろ帰ろうかと思ったとき、足音が聞こえた。

背後を見ると、少し離れたところから、スーツ姿の男がこちらへ歩いてきているのを見つけた。

こんな時間に帰宅とはご苦労なことだな、なんて思いながら、なんとなく男を見ていると、やがて友人の横に並び、遮断桿を乗り越えていった。

終電はとっくに過ぎている時間だったから、友人は特にそのことを気にとめず、その足取りを眺めていると、踏切のちょうど半ばほどで男は急に立ち止まった。

電車が来たら間違いなく轢かれるであろう場所に、男はじっと佇み続ける。

友人はそれを見て、ああ、これはまずいかもしれないと思い、今度こそ帰ろうとしたら、左手に違和感があった。

みると、誰かに掴まれている。

前を見ると、遮断桿を挟んだ向こうに、男が立っていた。

そいつは中年で、目鼻立ちがはっきりとした、整った顔立ちをしていて、口元に微笑みを浮かべながら、友人の左手を掴んでいたんだそうだ。

そして、踏切の音に合わせて、彼の左手を引っ張りはじめた。その力はどんどん強くなっていく。

カン、カン、カン、カン、という無機質な音もだんだんと大きくなっていき、耳元で聞こえているような気がしてきたのだそうだ。

彼は必死に、右手に持ったスマホで、ソイツの指を叩き続けた。その甲斐あって、男の指が弛んだ刹那、全力で左腕を引き、走ってその場を立ち去った。

踏切の音は、そこを離れるまでずっと、耳元のすぐ近くでなっていたそうだ。

その晩以来、彼はホラーと踏切とスーツが嫌いになり、今は踏み切りのない駅に住んでいて、その近くにある工場で働いているそうだ。

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