AIの対局
西田がスタジオで解説をしている頃、一輝と天馬が対局をしている将棋会館に向かう人物が2人いて、その2人がでくわしていた。
「あ」
声が揃った2人はお互いの名を呼び合った。
「黒木さん」
「加瀬君」
将棋会館を訪れたのは加瀬五段、黒木四段であり、お互いに尋ね合う。
「黒木さん、どうしたんですか?」
「どうしたって、加瀬君も今日は対局はなかったはずだが?」
「さっきまでademaで中継を観ていたんですが、現地ではどうなっているかと思いましてね」
「俺もだ、2人で行ってみるか」
加瀬は頷いて、2人は将棋会館の検討室へ入っていく。
加瀬は検討室にある盤のモニターを目にし、何か気になったのか、近くにいる記者に尋ねる。
「すいません、どれか使ってもいいパソコンはありますか?」
「加瀬五段⁉ああ、それなら使ってもらっていいですよ」
「ありがとうございます」
記者に礼の言葉をのべ、加瀬は何かを探しているようであった、しばらくしてようやく見つけ、黒木に呼びかける。
「これを見てください」
そう言って加瀬は黒木にパソコンの画面を見せる。将棋の棋譜のようだ。
「これってネット上でのAI同士の対局か、それがどう……ん?」
「黒木さんも気付きましたか、今僕が止めている局面は今、長谷さんと真壁さんが対局しているのと全く同じ局面なんです」
「ちょ、ちょっと待て、プロ間でもある程度前例をなぞる将棋はあるが、あの2人はAIの前例を踏襲してるってのか⁉」
「問題は現局面までの時間の使い方です」
加瀬は一輝と天馬がAIの対局を踏襲していることに気付き、時間差の問題も指摘する。その言葉で黒木もある事実に気付く。
「真壁君はこの対局を研究し、長谷君に実質初見対応を強いているって事か?」
「ええ、しかもこの局面からの後手勝率が56%なんです。一見大したことないような差に見えますが、よほどのことがないとひっくり返すのは困難でしょう」
「しかも、長谷君はどんどん時間を使っている。ジリ貧だな」
加瀬も黒木もこの局面はいくら一輝といえど、ひっくり返すのは難しいと感じていた。
一輝も天馬の研究に対し、なんとか最善手で喰らいつくが時間差はいかんとしがたい。
そんな中、一輝は1手指すが、それもまたAIの対局をなぞる手であった。
「先に1分将棋になってしまえばいくら長谷君でも勝ち目はない」
「……ここが彼の真価を問われる岐路ですね」
「岐路?」
「僕達が言える立場だとは思いませんが、長谷さんが歴史に残る程の棋士か、それとも埋もれてしまう棋士かが問われている。将棋の神が彼に与えた試練かもしれません」
将棋の神に選ばれし者こそ歴史に名を残すと将棋界では言われている。加瀬はこの対局が一輝の真価が問われる対局だと感じていた。




