名人戦見に行くぞ
この春、一輝は高校2年生に進級した。学校生活は新しいものになったが、将棋の対局はしばらくなく、一輝は研究に没頭しようと思ったが、突如スマートフォンが鳴り、名前が師匠の諸見里であった為、電話に出る。
「もしもし師匠?」
「一輝、突然だが今度の土曜日暇か?」
「学校はないので研究に充てようと思っていますが」
「じゃあ暇だな、せっかくだから名人戦を見に行くぞ。もちろんわしも行く」
突如諸見里より、名人戦の観戦の誘いがあり、一輝は困惑するが、今まで現地に行ったことがない為、興奮も抑えられない。
「ぜひ行きます。いえ、行かせてください!」
「お前ならそう言うと思ったぞ、当日はわし、お前、西田、それから種田先生のところの宮田君と小夜ちゃんも行くことになっている」
「どうして、種田先生の門下まで?」
「わしが種田先生に頼まれたんだ。とりあえず当日朝にわしの家に集合。大盤解説会が始まるタイミングまでに着けばいいだろう。じゃあな」
諸見里は駆け足で一輝に用件だけ伝え、電話を切る。
一輝が興奮するのは無理がない。名人戦とは将棋のタイトル戦において歴史と伝統がある棋戦であり、棋士なら誰でも名人に憧れるものなのだ。
将棋の名人は江戸時代に幕府より任命された家元制が始まりであり、昭和以降は実力制制度に代わり、将棋のタイトル戦では最も古い存在なのである。
他のタイトル戦ではまれではあるが、1年目の棋士が挑戦、奪取という事もあり得るのだが、名人だけは順位戦でA級の棋士からしか挑戦できる権利がなく、順位戦の制度上、1年で1クラスづつの昇級となる為、挑戦ですら最短でも5年かかる棋戦なのだ。
そんな名人戦を現地で見ることができる事実に興奮冷めやらぬ一輝に対しさらにスマートフォンが鳴る。
今度の名前は小夜であり、電話に出る。
「もしもし」
「一輝君、名人戦の話は聞いた?」
「ああ、さっき師匠から電話があって誘いがあった。小夜ちゃん達も行くそうだな」
「そうよ、私と宮田さんがね」
少し間が空き、小夜は一輝に尋ねる。
「今の気持ちはどうなの?」
「そうだな、名人戦は記録係もしたことがないから、楽しみだな」
「じゃあ、当日楽しみにしてるわ」
そう言って小夜は電話を切る。
名人戦に思いを馳せる一輝、興奮が収まらないようだ。




