向かえ!都市センターホテル
いよいよ棋将戦第5局の朝を迎えたが、一輝はどういう訳か自宅にいた。
それもそのはずである、何故なら一輝は今回サプライズゲスト解説枠として佐渡会長より依頼を受けていたのだ。
本来タイトル戦は地方の旅館やホテルで行われるが、今回は都内の都市センターホテルで行われ、立会人や副立会人や公式に発表されている棋士や女流棋士は前日よりホテルに泊まっている。
今回の場合、地方なら別だが都内である為、一輝は自宅より直接ホテルへ赴くのだ。
これにはサプライズで当日初めて現地に登場するという将棋連盟のシナリオに沿う為なのだ。
そして一輝の自宅の前に1台の車が到着する。
家の前で待っていた一輝に対し車の中から声をかけられる。
「長谷四段、お待たせしました」
「今永さん、すいませんわざわざ」
「いえ、サプライズの為には、前日よりホテルに泊まっているファンの方にも見つかってはいけないので、その為には駐車場から裏口に入るのが良いかと」
今永に対し一輝の母が声をかける。
「今永さんですか、初めまして長谷一輝の母です。息子がいつもお世話になっております」
「今永です。私は特にお世話はしておりませんが」
「い~え、将棋関係者の方はどなたも息子にとっては恩人ですので、これからも息子をよろしくお願いします」
少し恥ずかしくなったのか、一輝が母を制止する。
「もういいだろう母さん、すいません今永さん、すぐに出してください」
「あ、はい。ではお母さん急ぎますのでこれで失礼します」
「息子をよろしくお願いします」
母の言葉が響き、一輝を乗せた車は自宅より離れていく。
車は都市センターホテルに着き、一輝は裏口よりホテルに入り、なんとか控室に入る。
そこにいた将棋連盟の会長である佐渡九段が声をかける。
「長谷四段、おはようございます」
「おはようございます。会長が控室にいるってことは……」
「ええ、もう始まっていますよ」
一輝もスマートフォンの時計を見てすでに対局開始時刻を過ぎているのを確認した。同時に控室のモニターを見て、両対局者の将棋に注目した。
そんな一輝に1人の人物が声をかける。
「おお、長谷君。よく来てくれたのう」
「お久しぶりです、種田先生」
彼は今回の対局の立会人を務める、種田九段である。彼は小夜の師匠でもあるのだ。
「6月からは長谷君も順位戦に参加するし、長谷君と対局できればわしももう将棋指しとして思い残すことはないのう」
「そんな、先生……」
「いやいや、気をつかわんでもええ、今期結局わしは降級点がついた。来期つけばわしは強制引退じゃ。どうせそうなるなら長谷君と対局したいわい」
小夜の師匠である種田九段、何故彼はそこまで一輝との対局を望むのか?




