仕掛け時
一輝と諸見里の公開対局でなんと諸見里が選んだ戦型は角交換四間飛車であった。居飛車の得意諸見里がこの戦型を公開非公式戦とはいえわざわざ選んだことに一輝は戸惑いもありながらも定跡に沿いながら駒組を進めていく。
少し進んで一輝は諸見里の駒組である部分が気になり始めた。それは一輝は玉側の端歩、9六に歩を突いているが、諸見里はまだ玉側の歩を突いていないのだ。
将棋において端歩の突き合いは挨拶とも呼ばれており、端歩に、端歩を突き返すのが互いに挨拶をしていると呼ばれるゆえんだ。もちろん、狙いが別にある場合は必ずしも突き返す必要はないが、先に端歩を突く側は相手の狙いを聞くという意味もある。
すぐに突き返さなかった事を一輝は不審に思いながらも、端を詰める事は相手の逃げ場を防ぐ意味が強い方に重きを置き、一輝は9五歩と端歩を突き越した。
「長谷四段、早速端歩を突き越しましたが、これはどういう意味でしょうか?」
「諸見里九段がすぐに端歩を突き返さなかったので、逃げ道を少しでも狭くする意味があったのでしょう」
「確かにこれでは横から攻められれば逃げ場はありませんが、諸見里九段もそこは承知で突かなかったんですよね?」
「ええ、そのマイナスを背負ってでもやりたい事があると見ますね」
その解説の後に諸見里はすぐに6二金と金を上げ、それについても岸本は解説をする。
「先に金を上げるのは少し珍しいですね」
「私も振り飛車を指しますが先に銀を7ニに動かして美濃囲いに組みたいところですが諸見里九段は金を動かしたので美濃には組まないという事ですよね?」
「そうですね、考えられるのは金無双、もしくは右矢倉ですかね」
「そうすると左金の使い方がカギになりそうですね」
普段振り飛車を指す山西女流は美濃囲いに組むことが普通である事を主張するが、本局諸見里は先に金を動かしたので美濃には組まずに一輝を迎え撃つのではないかと岸本は考えており、また角の打ち込みを防ぐ為に左金の使い方にも注意しなくてはいけない忙しい局面になってきた。
そして諸見里は局面が進むと飛車を2ニと振り直し向かい飛車の形とした。
「先生、諸見里九段飛車を振り直して向かい飛車の形にしましたね」
「長谷四段の飛車を釘付けにし、動こうものならその地点から逆襲するぞというプレッシャーですかねこれは」
「そうすると長谷四段の方が苦しいのでしょうか?」
「いえ、長谷四段はすでに端を詰めていますし、玉頭からもプレッシャーがかけられますね」
互いに主張点がある将棋だが、この将棋を制するのは?




