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一歩の重さ  作者: burazu
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相反する思い

 倉橋八段が1三にいた角を2二に引き直すという天馬にとっては想定外な手を指され、残り時間が少ないにも関わらず天馬は長考を余儀なくされる。


 しばらく考えた後、天馬は5五歩と歩を伸ばしていく。6七にいる銀や5七にいる金を動かすスペースを作ろうとしたが、一輝はこの手の危険性にいち早く気付く。


「5五歩、ダメだ!角が捌きやすくなる」

「何だって!」


 天馬の手を見た倉橋はすかさず2五歩として銀に当てる。それに同桂と天馬は応じるが倉橋も同桂とし天馬は同銀とする。これにより桂馬交換が成立した。


 桂馬の交換が成立すると倉橋の角は5五に出て天馬の歩を取る。その手に対し西田が反応する。


「なるほどな確かにお前の言うように倉橋さんの窮屈だった角が捌けてきたな」

「ええ、わずかですが倉橋さんが指しやすくなりましたね」


 倉橋が指しやすくなったものの、まだ天馬も敗勢というわけではないので、6六銀と角取りとする。その手にノータイムで倉橋は4五桂とし金取りとする。


 歩の頭に桂馬を打ったが、歩で取れば飛車が取られ、角も成り、天馬は一気に敗色濃厚となってしまう。だが角を銀で取れば桂馬で金を取られてしまう。苦し紛れに天馬が選んだ手は6七玉として金銀両方を支える手を選んだ。


 そこで倉橋は5七桂成とし、金を取った。そこから倉橋の激しい攻めが始まり、天馬は受け一方の展開になってしまう。


 天馬も反撃を試みるが倉橋の玉周りは固く、攻め切る事は難しい。


「一輝、この対局……」

「はい、天馬に勝ち目はなくなりました」


 一輝と西田が天馬の負けを悟っている頃、鎌田女流三冠のアパートで同じ対局を見ていた小夜達の間でも結論が見え始めた。


「鎌田さん、もう真壁さんの負けですね」

「ええ、私もそう思うわ」


 しかし美咲は鎌田達に対し、天馬が反撃している事を見て反論する。


「でもまだ即詰みがあるわけじゃないし、それに真壁先生は反撃を試みてますよ」

「……あのね、たとえ負けると分かっていても指さなければいけない時があるのよ」

「え?」

「私達将棋指しはね、負けを素直に受け入れる心と、最後まで勝利に食らいつく執念、その両方が必要なの」


 鎌田は天馬より事前にタイトルを獲得したら恋人の葵にプロポーズする話を聞いており、天馬がこの対局にかける思いを分かっていたので、思わずその言葉が出たのだ。そして鎌田の表情から小夜も天馬の苦しさを察し、一言呟く。


「鎌田さん……真壁先生……」


 そして遂に天馬も言うまいと思っていた言葉を言わなくてはいけない瞬間が近づいていた。


「……負けました……」


 これにより天馬の敗退が決まった。彼の強い思いはまだ遠かったのだ。

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